(NIRA特定研究助成B類:「NIRA政策研究」(月刊)Vol.13 No. 8)
女性が起こす事業型市民活動の可能性 新たな価値創造へのステップ

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新たな価値とコミュニティ形成の可能性

   このように女性が起こした活動の動機づけやそのプロセスにおいては、貨幣的価値によらない価値が介在していることが分かる。これは財・サービスの対価として、貨幣的価値による報酬に加え、活動の中で自分が役立っているという実感や、あるいは、達成感とか、充実感といった精神的報酬が大きな価値を持つことを意味している。効率性の面で市場経済の仕組みでは交換されることはないものも、貨幣的価値に基づく対価の不十分さを貨幣的価値によらない価値で補うことによって交換が可能になるのである(図2参照)。このような精神的報酬は、価値が客観的に与えられるのではなく、まったく主観的に受け止められるものである。女性の感性は、このような主観的な価値を捉え、顕在化させている。そして、市場経済社会に生きてきた男性を巻き込みはじめ、人間にとって本質的な価値を気づかせるきっかけを与えている。

   事業型市民活動は、共感する人々のコミュニティを形成しているが、貨幣的価値という完全に客観的なものを媒介とするのではなく、精神的報酬を授受する人々が、その相互行為を通じて、それぞれの主観的価値観を理解し、認め合うことによって成り立っている。この関係は、サービスの供給者、消費者だけに止まるものではなく、事業型市民活動へ融資する市民バンクや、その活動を側面から支える行政、また、共通の価値観を共有する他の事業型市民活動、そして、何よりも、その活動を取り巻く地域コミュニティの間にも広がっていく。このようにして、本質的で主観的な価値観が地域において男女を問わず共有化されていくことにより、市場経済が形成する社会とは異なるオルターナティブな社会を形成する可能性が期待される。

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