顕微鏡生物実験室10

アサガオ

《 裏技的方法で植物組織の顕微鏡観察 》

  通常、植物の組織の顕微鏡観察は材料を薄い切片にしたり、表皮などは、はがしたりして行います。
でも、この方法は慣れが必要で、また材料によっては難しいものもあります。
ここではちょっと裏技的な方法で、アサガオを材料にして組織の顕微鏡観察をしてみました。
それは、材料を押しつぶしたり、葉や花びらを食べた虫のふんを観察する方法です。


材料:アサガオ(品種-ムラサキ)-右の写真

方法
1.そのままで
 花びらや葉をそのままスライドガラスとカバーガラスではさんで観察します。
2.押しつぶす
 スライドガラスとカバーガラスではさんだ花びらや葉を、カバーガラスの上から指で押します。すると組織や細胞は壊され乱されるので、細胞に囲まれて埋まっていたものが見やすくなります。
3.植物を食べた虫のふんを観察
 花びらや葉を食べた虫のふんに、少量の水を加えてプレパラートにして観察します。ふんは植物の組織が、かみ砕かれ消化酵素の作用をうけて体外に出されたものです。そこで、ばらばらの破片になった植物組織が見られます。

以下、顕微鏡写真でご紹介します〔( )内は観察の際の顕微鏡の倍率〕

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葉の組織の顕微鏡観察

顕微鏡写真-葉1
1.そのままで

葉片をそのまま水で封じたプレパラートにして観察しました。

右に突き出した鋭い針のようなものは、葉のふちに生えている毛です。
毛は葉の表面全体に生えていますが、顕微鏡ではふちに生えたのものが見やすいです。

緑色の粒として見える葉肉細胞がいっぱいあるため、視野全体が暗くなっていますが、葉脈が白いすじになって透けて見えています。

葉脈に囲まれるようにして白く透ける丸いものがいくつか見えますが、これは普通の葉肉細胞より大きく葉緑体を含まない細胞です。この細胞の役割は分かっていません。
1-1 完全なままの葉(10×4)

2.押しつぶす
 葉片を水で封じてプラパラートにして机の上に置き、カバーガラスの上から押しつぶしました。すると葉の組織が壊れて、それまで葉肉細胞の集まりに隠されていて見えなかったものが見えてきました。1-2は低倍率で広範囲を見たものです。1-31-4はその一部を拡大して観察しました。

顕微鏡写真-葉2 顕微鏡写真-葉3 顕微鏡写真-葉4
  1-2 押しつぶした葉の組織(10×10)
葉肉細胞が乱されています。葉肉細胞が押されて除かれた右上の部分に、表皮組織が見えています。葉の表面に生えている毛も針のようなものとして見えます。
  1-3 表皮組織と気孔(10×40)
表皮組織の部分を高倍率にしてみました。ジグソーパズルのように組み合わさった表皮細胞や気孔、気孔を囲む孔辺細胞もはっきり見えます。
  1-4 葉肉細胞(10×40)
葉肉細胞がばらばらに散らばっている部分を高倍率にしてみました。葉肉細胞の中の葉緑体、壊れた葉肉細胞から出てきた葉緑体が見えます。

普通、葉の表皮組織の観察は、はがした表皮で行います。しかし、表皮をはがしにくい植物もあり、アサガオもその例ですが、葉をおしつぶすことによって、こうして観察できました。
また、葉肉細胞が互いにばらばらに離れ、一部はつぶれたためその中の葉緑体が粒として観察されました。通常の、切片にして観察する方法より簡単です。

3.葉を食べた虫のふんを観察

顕微鏡写真−葉5


ふんを少量の水で溶き、低倍率で観察しました。

この画面では、表面に生えている毛は、針のようなものとして観察できますが、そのほかの組織の断片は、どんな組織や細胞なのか判別できるものはありません。

細胞の形は消化によって、壊されたのです。
1-5 ふんに含まれる葉の断片(10×4)

ふんの内容物では、組織や細胞の構造がなくなったり、崩れたりしていますが、探してみると何なのか判別できるものもありました。それらを高倍率にして観察してみました。

顕微鏡写真-葉6 顕微鏡写真−葉7 顕微鏡写真−葉8
  1-6 道管(10×40)
消化された組織に埋まってこんなものがありました。
らせん模様が認められますから道管(水が通る管)です。
  1-7 表皮組織と気孔(10×40)
気孔がこの画面に2つ認められますが、表皮細胞は形が崩れ、溶けたようになっています。1-3と比べてみてください。
  1-8 柵状組織(10×40)
細長い細胞が柵のように並んだ組織で、葉の表の表皮のすぐ下にあります。たまたまでしょうが、細胞同士の接着が酵素によってばらばらにならずに、組織の状態を保っていました。

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花びらの組織の顕微鏡観察

1.そのままで

顕微鏡写真-花1 顕微鏡写真―花2 顕微鏡写真―花3
 2-1 完全なままの花びらの組織(10×10)
花びらのふちに近い部分を水で封じないで観察してみました。赤紫色の色素を含んだ細胞は丸い形でした。中央に盛り上がるすじは、この下に道菅があるのでしょうか。
  2-2 完全なままの花びらの組織(10×40)
2-1の画面の一部です。対物レンズの倍率を上げてみました。やはり水で封じてありません。
  2-3 完全なままの花びらの組織(10×40)
2-2と同じ材料ですが、水で封じたらジグソーパズルのようになりました。

花びらの細胞は、ひとつひとつが吸水すると金平糖のように角のある形となったのは、ちょっとした発見でした。ジグソーパズルのように互いにかみ合うように組み合わさることで、しっかりした組織になると思われます。

顕微鏡写真-花4
2.押しつぶす
花びらを水で封じてプラパラートにして机の上に置き、カバーガラスの上から押しつぶしました。

2-4
 押しつぶした花びらの組織(10×40)

細胞はつぶれて、はっきりしたらせん模様が認められる管が見えてきました。水の通路である道管です。普通、道管の観察は茎で行う場合が多いのですが、こうして花びらを押しつぶすと楽に観察できます。

普通、教科書などに載っている組織の顕微鏡写真は、根や茎や葉のそれで、花びらのは見かけません。
花びらも水を必要としますから、道管があるのは不思議ではありません。

3.花を食べた虫のふんを観察
アサガオの花びらを食べている虫がいたのです。そこで、そのふんを顕微鏡観察してみました。

花を食べる虫 顕微鏡写真-花5 顕微鏡写真―花6
  2-5 花びらを食べている虫
ふん(→の先)は、花びらと同じ色です。
  2-6 花を食べた虫のふん(10×10)
ひとつひとつの細胞の形は見えません。細胞膜や細胞壁は消化されてしまったようです。黒い棒のようなのは道管でしょうか。
  2-7 花を食べた虫のふん(10×40)
黒い棒のようなものを視野の中央にもってきて高倍率にしてみました。らせん模様が見えましたからやはり道管でした。

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〔後記〕
ここでとりあげた方法は、材料をつぶしたものや虫のふんの観察ですから、材料の構造は失われています。あるがままの構造を観察するには、材料を薄い切片にして顕微鏡観察をします。

しかし、ここでとりあげた方法は組織が断片になって見えやすくなっていたり、周りの組織が除かれたために見えるようになったりしました。

同じ材料でも、押しつぶしたものと、虫のふんを比べると、押しつぶした材料の方は細胞や組織の構造が残っているのに対し、ふんの方は細胞の輪郭がなくなったり、溶けたようになっています。比べることにより、消化のはたらきを実感できました。

花びらの細胞は、水で封じないで見ると丸いのに、水で封じると角のようなものをたくさん出した形となり、まわりの細胞と角をかみ合わせて組み合わさるというのは意外でした。
意外といえば、目の前でアサガオの花びらを食べ、花びらと同じ色のふんをしている虫を見つけたときにはちょっと驚きました。非常に珍しいというものではないようですが。
花びらを食べた虫のふんには、花びら細胞の形をしたものは全く見られませんでした。消化酵素のはたらきを、葉よりも強く受けたようです。

正攻法の観察は大切ですが、ときには裏技的方法で観察するのもおもしろいものです。

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〔参考文献〕
「葉の組織<カイコのミクロトーム>」『絵を見てできる生物実験PartU』岩波洋造・森脇美武・渡辺克己=著 P10〜11 (講談社サイエンティフィク)


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