顕微鏡生物実験室9水あめ


かたくり粉と胃腸薬から水あめをつくる(酵素の作用)                          

デンプンはアミラーゼという酵素の作用により分解して糖になります。
ジャガイモのデンプンであるかたくり粉にアミラーゼを含む胃腸薬を作用させ水あめをつくりました。
このことを通して酵素の作用や性質をみてみましょう。
家庭でもできる方法を工夫しました。


右の写真が出来上がった水あめです。もちろん甘い味でした。

【実験方法を述べる前にちょっと説明を】

<酵素とは>

生物体内では、たくさんの化学反応が休みなく行われています。化学工場でも化学反応によっていろいろな物質の合成や分解が行われていますが、何百度、何百気圧にして反応させることは珍しくありません。一方、生物体内の温度はそれほど高くなく、気圧は大体1気圧です。こういう穏やかな環境ですみやかに反応が進むのは酵素のはたらきによります。
生物体内には、非常に多くの種類の酵素があります。酵素はタンパク質の一種で、化学反応を促進するはたらきがありますが、自分自身は化学変化しません。酵素は、その種類ごとにはたらきかける相手の物質が決まっています。例えばアミラーゼという酵素はデンプンにはたらきかけてこれを分解します。
なお、アミラーゼはジアスターゼとよばれることもありますが、ここでは教科書などで使われているアミラーゼを用いることにします。

<デンプンから水あめができる過程>
まず、デンプンの化学構造から説明します。
デンプンはブドウ糖が単位になってできている物質です。ブドウ糖の化学構造は下の図1のようなものです。
化学構造
このブドウ糖を図2では六角形で表しています。ブドウ糖が2個結合したものが麦芽糖、そしてブドウ糖が多数結合した長い鎖のような分子がデンプンというわけです。
デンプンには、この結合が枝分かれせず直鎖になっているアミロースと、枝分かれしているアミロペクチンがあります。結合しているブドウ糖の数はアミロースが数十から数百、アミロペクチンは数百から数十万です。
ジャガイモのデンプンであるかたくり粉にはアミロースが23%、アミロペクチンが77%という割合で含まれています。

デンプンにアミラーゼが作用すると…
アミラーゼは、デンプン分子中のブドウ糖同士の結合を切る酵素です。そこでアミラーゼがはたらくと、ブドウ糖の鎖が短くなります。その結果、さまざまな長さのブドウ糖の鎖、麦芽糖、ブドウ糖ができます。麦芽糖やブドウ糖は甘いので、反応が進んでこれらの糖が充分多くなったところで煮つめると水あめができます。
デンプンにアミラーゼを入れてから、糖が充分量できるまでの時間は、デンプンとアミラーゼの量の割合や温度にもよりますが、下記に記した方法の場合は通常8〜10時間です。
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【かたくり粉と胃腸薬から水あめをつくる方法】

胃腸薬にはアミラーゼが含まれています(胃腸薬に添付の説明書に「ジアスターゼ」と書かれているのがアミラーゼです)。ジャガイモのデンプンであるかたくり粉にこれを作用させて麦芽糖に分解させ、水あめをつくってみました。
なお、市販の胃腸薬には漢方薬が含まれているものも多く、その成分によってはできた水あめが苦くなってしまうことがあります。ここでは「新タカヂア錠」(三共株式会社)を使いました。

材料、薬品-大さじ(15mlの計量スプーン)約2はいの水あめをつくるとして
     かたくり粉(ジャガイモのデンプン)-35g(大さじすりきり4はい)、新タカヂア錠-1錠、水-60ml、熱湯-400ml、ヨウ素液(またはヨードチンキ)-なくても可
器具-なべ、ガスコンロ、割りばし(3〜5本)、乳鉢(または小さめのすりばち)、温度計-なくても可、ふたつき容器

方法
1)酵素の用意
新タカヂア錠は乳鉢(または小さめのすりばち)ですりつぶしておく。

2)かたくり粉を湯に溶かしてデンプン糊をつくる
デンプン糊
なべに、かたくり粉と水を入れてよくまぜる。かたくり粉は水には溶けないので左の図3-1のように白くにごるだけである。それを割りばし3〜5本で急速にかきまぜつつ、そこに熱湯を注いでいく。かたくり粉は溶けて、全体がつやのある半透明の糊状になる(図3-2)。このときかきまぜかたがゆっくりだと部分により濃度がちがう糊になってしまう。
このように、酵素を作用させれる前に、デンプンを湯にとかしてデンプン糊にするのは酵素のはたらきをうけやすくするため[下記解説1)参照]。

3)デンプン糊をさます

洗いおけなどに入れた水の上に、2)のなべを置いてデンプン糊をさます。デンプン糊の温度を温度計で測り、65℃以下にさます。これは、酵素はあまりに高温でははたらきがなくなるため[下記解説2)参照]。温度計がなければ、触れても熱くない程度になるまでさませば確実。

4)デンプン糊に酵素を作用させる。
すりつぶした新タカヂア錠を入れてよくまぜる。それまでねっとりしていたデンプン糊が20秒ほどかきまぜると、さらさらな状態になる。これはデンプンにアミラーゼがはたらいてブドウ糖の鎖が短くなったためと思われる。これをふたつき容器に移す。寒くない時期ならば室温に、冬季ならばインキュベーターやこたつなど保温できる場所に8〜10時間そのままにしておく(温度が30℃前後の場合)。保温できない場合は時間を長くする。いずれにしても、水あめができるほどに麦芽糖が充分な量できているかどうかを調べてから6)のステップに進むのがよい。その方法を次に記す。

5)糖が充分な量できているかどうかを調べる。
ヨウ素デンプン反応次の2つの方法のうちどちらかで調べる。その結果、糖が充分な量できていれば次の6)のステップに進む。そうでなければ、さらにしばらくそのままにしておき再び調べる。
@ヨウ素デンプン反応
ヨウ素液を加えるとデンプンは青〜青紫色に、アミラーゼによる分解産物は分解の程度により紫〜赤褐色になる。そこでこの反応はデンプンの分解の程度を知るおよその目安になる。ここではヨウ素液としてヨードチンキを10倍に薄めたものを使った。これは、そのままでは反応の色が濃すぎて見にくいため。
左の図4の1、2、3はそれぞれ次のもののヨウ素デンプン反応である。
1-新タカヂア錠を入れる前のデンプン糊。2-新タカヂア錠を入れてよくまぜ、さらさらな状態になったばかりのもの。このようにナス紺色になったことで分解反応がある程度進んだことがわかる。3-新タカヂア錠を入れて8時間後(気温は30℃前後での反応)。周辺部がかすかに青紫色になっているが、中心部は褐色である。この状態になれば反応が進んで麦芽糖が充分量できていると考えられる。

A味見
スプーンの先などに少量とり味見をする。かすかに甘くなっていればよい。

6)水分を蒸発させて水あめにする。
煮つめて水あめに
ヨウ素デンプン反応が図4-3のようになるか、または少量味わってかすかに甘くなっていたら、再びなべに移し火にかけて煮つめる。
はじめのうちは強火でもよく、かきまわさなくてもこげつくことはない。左の図5-1はその段階の状態で、あわ立ちは少ない。図5-2のように、あわが表面全体を被うようになったら煮つまってきたので、このままかきまわさずに加熱をつづけると、こげつきの恐れがある。弱火にして割りばし3〜5本でかきまわしながらにつめる。このとき割りばしではなく泡だて器など硬いものを使うと、なべの材質の金属をけずりとって、できあがったあめが黒っぽくなってしまうので要注意。どのくらいになるまで煮つめるかは、好みでよいが、目安としては最初のかたくり粉の量の半分くらいになったら出来上がり(このページ最初の写真)。
なお、水あめの温度が下がってくると粘性は増す。

方法のバリエーションなど
1)酵素として、新タカヂア錠以外のものを使う。
 1.新タカヂア錠4錠にはタカヂアスターゼ(アミラーゼ)200mgが含まれている。そこで新タカヂア錠ではなく、試薬のアミラーゼを使う場合には新タカヂア錠1錠に相当する量は50mg.となる。。
 2.ダイコンにはアミラーゼが含まれているので、ダイコンをすりおろしたもののしぼり汁をデンプン糊に加えても水あめができるわけである。ただ、この方法は失敗することが多い。その原因としては、ダイコンの生理的状態により、含まれるアミラーゼのはたらきが変化しているということが考えられる。。
2)デンプン糊をつくる別の方法
デンプン糊をつくるときに熱湯を注ぐことにより、やけどが心配ならば次のようにする。かたくり粉に400mlの水を加えて弱火にかけ、絶えずわりばしでかきまわしながら熱する。図3-2のようにねっとりと透明になればよい。熱しているときはかきまわし続けないとこげつくので要注意。
3)反応時間を短くするには
酵素を多く使えば、糖が充分量できるまでの時間を短くできる。例えば、かたくり粉大さじ1ぱいに対して新タカヂア錠2錠を使ったら、反応時間40分でも水あめができた。
4)高温で反応させると
酵素はあまりに高温では、はたらきがなくなる[下記解説2)参照]。このことを確かめるためには次のような実験をする。
、デンプン糊が熱いうちに酵素を加える、または酵素を水に溶いて加熱沸騰させてからデンプン糊に加える。その結果と、上記に述べた方法で実験したものの結果とを比べる。

注意
新タカヂア錠は薬品なので、出来上がった水あめを食べる場合は量に注意する。新タカヂア錠の1回の服用量は15歳以上で4錠、11歳以上15歳未満は3錠、8歳以上11歳未満は2錠、5歳以上8歳未満は1錠となっている。出来上がった水あめを食べる場合には、1度にそれ以上をとることにならないようにする。酵素は熱で変性するが、そのほかの成分がどのように人体に作用するか分からないので。
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解説
1)酵素を作用させる前に、デンプンを水と混ぜて熱しデンプン糊にする理由
デンプンは図2に示したようにブドウ糖の長い鎖です。水と混ぜて加熱する前のデンプン(図3-1)は、このブドウ糖の長い鎖が、束のように集まって結晶のような状態になっています。このような分子の状態をミセルといい、こうしたデンプンをβ-デンプンといいます。ブドウ糖の長い鎖が、束のように互いに集まってしまっているので、β-デンプンは酵素の作用を受けにくくなっています。
β-デンプンに水を加えて熱するとミセル構造がゆるんで、そこに水の分子が入り込んでいきます。これが図3-2の状態で透明な糊状です。これをα−デンプンといいます。α−デンプンはミセル構造がゆるんでいるため、そこに酵素が入ってその作用を受けやすくなります。
2)デンプン糊をさましてから酵素を加える理由
酵素はタンパク質の一種です。タンパク質はあまりに高温では分子の形が変化し、酵素の場合そのために反応促進のはたらきができなくなります。

付記事項
1)ヒトの消化管でのデンプンの消化
唾液や、すい液に含まれるアミラーゼによりデンプンは分解されて次第にブドウ糖の鎖が短くなります。その結果できる麦芽糖はブドウ糖が2分子結合したものですが、これはすい液や腸液に含まれるマルターゼという酵素のはたらきをうけます。それによりブドウ糖同士の結合が切られて2分子のブドウ糖になります。こうしてできたブドウ糖は小腸の壁から吸収されます。
2)麦芽あめのつくり方
麦芽あめは、麦芽(大麦を発芽させたもの)を米のお粥に加えてつくります。麦芽に含まれるアミラーゼが米のデンプンを分解して糖ができます。
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<参考ウェブページ>
1)試薬の物性データ集-デンプン(http://www.osaka-c.ed.jp/kak/rika1/subj-db/db-37.htm)
2)Organic Chemistry @Chembase 多糖類(http://homepage2.nifty.com/organic-chemistry/poli-suger.htm)
3)わらび餅を作るこつって?(http://ga19.hp.infoseek.co.jp/1warabiwarabi2.html)
4)和菓子技術者になるための必須知識(http://www.surugaya.co.jp/school/kisogaku/denpun.html)
5)実験13-23『水あめ作り』(http://www3.justnet.ne.jp/~konan/waku/b-1323.htm)
6)お家でできる化学の実験 水あめつくり(http://www.sumitomo-chem.co.jp/junior/01katei_sub/011mizuame.html)
7)30分で水飴づくり(http://web.kyoto-inet.or.jp/people/sugicom/kazuo/neta/seibutu5.html)
8)ジャガイモと大根から「水あめ」(http://www.ajiwai.com/otoko/make/mizu.htm)


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