顕微鏡生物実験室8

〜〜〜水栽培で、実験、観察〜〜〜

サトイモやサツマイモの水栽培はよく行われますが、水栽培できる植物はそのほかにもたくさんあります。
そして、ときには花を咲かせることもできます。でも、花を咲かせることだけに気をとられては惜しいです。
いろいろな実験や観察をしてみましょう。


水栽培の方法
材料に応じて次のようにセットする。水の状態を毎日見て、その様子により水を替える又は足す。
セットしてから最初に芽や根が認められるまでの日数はおおむね3〜10日。ただし、これは季節によりまた植物個体の生理的状態によってちがうので、一概にいえない。
(1)茎で切って、コップなどに入れた水にさしておく。やがて、茎に根が生えてくる。
  クレソン、セリ、ツユクサ、ノハカタカラクサ、ブライダルベール、オシロイバナ、キョウチクトウなど。
  下の写真はこの方法で根を伸ばしたノハカタカラクサ、クレソン、セリ、キク。

根の伸長

(2)浅い器に水を入れそこに、いもを置く。やがて根、茎、葉が伸びてくる。
  サツマイモ、ジャガイモ、サトイモなど。
(3)浅い器に水を入れ、そこにしんの部分を置く。しんには葉がついたままでもよい。やがて茎や葉が出てくる。
  キャベツ、ハクサイなど。
(4)浅い器に水を入れ、そこに下記の植物の「首」とよばれる部分を切って置く。やがて、茎や葉が伸びてくる。
  ニンジン、ゴボウ、ダイコンなど(下の写真を参照)。
(5)水を入れたビーカー、コップ、空きびんなどの上に下記の植物の球根の下部が水につかるようにして置く。水中に根が、上部からは茎や葉が伸びてくる。
  タマネギ、ラッキョウ、エシャロットなど。下の写真のペコロスは直径3cmほどの小タマネギ。


水栽培した植物で実験、観察
<観察>

(1)根毛の観察

根毛
根毛は根の表皮を起源とする毛状の細胞で、根端から少し離れた部分に生ずる。水やそれに溶解している物質を吸収する。

根毛は非常に細く、とれやすいので普通に土で育てた植物では観察できない。水栽培したツユクサ、ノハカタカラクサ(トキワツユクサ)では、水中にのびた根の根毛が観察できる。水栽培中の容器が透明ならばそのまま、そうでなければ透明なコップなどに水を入れてそこに挿す。その容器ごしにルーペで観察する。

左の写真は水栽培したノハカタカラクサを透明なコップに挿し、根の根毛をルーペを通して撮影した。


(2)屈性の観察
@光屈性
水栽培された植物をそのまま窓際の置くと、やがて明るい方に向かって曲がる(正の光屈性)。方向による明暗の差が大きい場合に特に顕著に認められる。
A重力屈性
伸びた芽生えを横倒しにして置く。または、長く伸びすぎた枝が自然に横倒しになることもある。やがて芽生えは起きて立ち上がる(負の重力屈性)。
下の写真、ペコロス(小タマネギ)、ニンジン、ゴボウ、ミツバはいずれも植物の向かって左側に窓があって明るく、右側はそれに比べて暗い。

ペコロス ペコロス、ニンジン、ミツバは、はっきりした正の光屈性を示している。ゴボウは葉を明るい方へ向けているが、葉柄を明るい方へ曲げている葉は1枚だけである。光屈性の現れかたは材料によってちがう。

(ミツバは根にウレタンがついたものを購入し、開いた葉をすべて切り取ったものをウレタンをつけたまま水に挿した。やがてこのように新たに葉が伸びてきた)

右端の写真のセリは、長く伸びすぎて横倒しになった茎がやがてこのように垂直に立ち上がって負の重力屈性を示した。
ニンジン、ゴボウ、ミツバ セリ


(3)傾性の観察

下の写真はダイコンの「首」の部分を水栽培したものである。

ダイコン


刺激の方向とは関係なく、刺激により一定の運動をするのが、傾性である。刺激の種類により、光傾性、温度傾性、接触傾性などがある。

水栽培したダイコンからのびた葉は昼間は大きく開き、夜は閉じていった。

左の写真のダイコンはセットしたときには、葉は5mm程度出ているだけだった。この写真はセット後20日目の撮影で、このように葉は長く伸びた。同じものを、2002年4月14日午後12:10と午後9:40に撮影した。

このように葉が開閉するのは、光傾性か温度傾性かまた別の原因による傾性なのかは、まだ調べていない。


(4)体細胞分裂の観察
伸長中の根の先端を材料として体細胞分裂の観察ができる。方法についてはまたの機会に。


<実験>
(1)根の生育への金属の影響を調べる。
水栽培用の水に金属を入れて、その後の植物の成長にどのような影響がでてくるか調べる。
下の写真は、ノハカタカラクサを材料として行った実験の結果である。以下にその方法を示す。
(方法)
茎で切ったノハカタカラクサ40本を用意し、それを10本ずつ4つのグループ(それぞれa,b,c,dとする)に分けそれぞれ次のようにセットする。
a(対照実験)-コップ4〜5個にそれぞれ200mlの水を入れ、これにノハカタカラクサをさす。ひとつのコップにさす本数は1〜3本になるようにし、10本すべてをさす。
b-aと同様にセットするが、コップの中にはそれぞれ1個の10円玉を入れておく。
c-aと同様にセットするが、コップの中にはそれぞれ1本の銅線(1.2mmサイズのものを20cm)を入れておく。銅線はコップに入るよう折り曲げる。
d-aと同様にセットするが、コップの中にはそれぞれ1個の100円玉を入れておく。
水が少なくなったら足す。10日間水をかえなくても、くさることはなかった。

発根の実験 (結果と考察)
セットしたのは、2001年11月4日。左の写真は11月20日(16日目)の状態。a〜dそれぞれから平均的な根の状態のものをひとつずつ選んで撮影した。
対照実験では、1本のノハカタカラクサから数本の根が伸びている。伸びた根の長さは5.0〜9.5cm。
それに対し、10円玉、銅線、100円玉を入れたものはどれも根は出たものの、長さは0.5〜1.0cmで、黒く朽ちかけたようになっているものもある。

10円玉は銅に亜鉛とスズがわずかにまざった合金、また100円玉は銅にニッケルがまざった合金である。これらのコインを入れた水で育てたbとdの実験の結果だけでは、これらの金属のうちどれが根の生育を阻害したかは分からない。銅線を入れた水で育てたcの実験結果から、銅は根の生育に阻害的にはたらいていることが分かる。


補足
1)ここで水栽培した植物の入手法
野外から摘んできた-セリ、ノハカタカラクサ。 園芸店から鉢植えを購入-キク。
スーパーマーケットから購入-ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ペコロス、ミツバ、クレソン。
2)水栽培の難易度
ここで使用した植物のうち、水栽培が最も容易なのはノハカタカラクサで,まず失敗はない。10日以上水換えを忘れてもくさらず、順調に根を伸ばす。セリは、やはりくさりにくいが根の伸びはノハカタカラクサよりはおそい。
反対にくさりやすいのは、ダイコンとニンジンである。夏は特にくさりやすい。切り口を新しく切りなおすとある程度もたせることができるが、真夏ではやがてすべてくさってしまうことが多い。これに比べ、ゴボウは夏でもくさりにくい。

参考
1)水栽培はクローン植物づくり
クローンとは、遺伝的に全く同じ生物集団をさす。有性生殖では両親の生殖細胞が合体して新しい遺伝子構成をもつ子ができるので、親と子はクローンではない。しかし高等植物では、根や地下茎、ほふく茎から新個体ができる栄養生殖が、普通の殖え方であるものは多い。この場合は新個体はもとの個体の一部からできるので遺伝的にもとの個体と全く同じ、つまりクローンである。
水栽培も、もとの個体の一部である枝や根などから新個体ができるのでクローン植物づくりと言える。
2)屈性を生じさせる物質
屈性のしくみについては、これまで次のように説明されていた。
正の光屈性は植物が自分でつくっている、オーキシンという成長ホルモンによって起こる。オーキシンが光とは反対側に移動して、そちらの方が光の側より成長が促進されるので、茎は光に向かって曲がる。
また、負の重力屈性は下側にオーキシンが多くなってそちら側の成長が促進されるためである。
しかし最近、オーキシンは光が当る側とその反対側で均等に分布していることが分かった。また、伸長を阻害する物質の関与も報告されており、屈性のしくみの説明は今後に問題を残しているといえる。
3)傾性の機構
傾性による運動の機構には成長によるものと膨圧によるものとがある。
成長によるものは、オーキシンの分布の不均等により、器官の両側で成長の速さが異なって、成長のおそい方に向かって曲がる。つまり、光屈性や重力屈性と同じしくみで、例えばチューリップの花びらの開閉がこれである。膨圧によるものは、器官の一部の細胞が水を吸収したり排出したりして膨圧が変化することにより運動するものである。例としてはオジギソウの接触傾性がこれである。
上記のダイコンの葉の開閉運動がこのどちらであるかは調べていない。


<参考文献>
1)『植物のふしぎ』P45〜45(講談社)香取一著
2)『科学あそびだいすき第2集』P37〜41(連合出版)科学読物研究会編 
3)『絵とき植物生理学入門』P144〜147(オーム社)増田芳雄著


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