顕微鏡生物実験室7


植物ホルモン、 エチレンの作用

エチレンは、植物が自分自身でつくって出している植物ホルモンの一種で、常温で気体です。
エチレンは植物の一生にわたっていろいろなはたらきをします。例えば種子の発芽を促進する、茎の伸びをおさえる、開花を抑制する、果実を成熟させる、花や葉、実が落ちるのを促進する、などです。リンゴやメロンの成熟した果実は特に多量のエチレンを出します。また、植物への接触刺激はエチレン生成を促します。そこで、下記のような実験をしてみました。
エチレン

【リンゴの果実を使った実験】

リンゴやメロンの成熟した果実は特に多量のエチレンを放出している。そこで、リンゴの果実を使って次のような実験を行い、リンゴから放出されるものの、植物への作用を調べた。なお、これらの実験の結果は、リンゴから放出される"何か"によるものであることが言えるだけである。その"何か"がエチレンであることは実験室で相応の装置や薬品を使って調べなければならない。

[1]茎の成長
(方法)
浅い器2個に敷いたティッシュペーパーに水を含ませる。その上にダイコンの種子をぱらぱらと播く。これらの器をそれぞれ大きなポリ袋の中に入れる。2つのうち一方にはリンゴの果実を入れておく。もう一方にはリンゴは入れない(これが対照実験)。このようにセットしたのが2001年10月25日。
(結果)
下の写真はともに8日後の11月2日に撮影。右の写真はポリ袋から出して比べてところ。リンゴを入れた方は対照実験に比べ、茎が短く太くなっている。茎の長さの平均は、対照実験で8.0cm、リンゴを入れたほうでは2.0cmだった。また、リンゴを入れた方のは、子葉のすぐ下の茎の部分が曲がっており、中にはくるっと一巻きしているのもあった。

ダイコンの芽生えの実験

[2]落葉(らくよう)
(方法)
2つのコップに水を入れ、それぞれに葉のついたツバキの枝を挿す。これらをそれぞれ大きなポリ袋の中に入れる。2つのうち一方にはリンゴの果実を入れておく。もう一方にはリンゴは入れない(これが対照実験)。このようにセットしたのが2001年11月2日(下の左の写真)。
(結果)
下の右の写真は4日後の11月6日に撮影。対照実験の方は葉は1枚も落ちていないが、リンゴを入れた方は1枚を残してほかはすべて落ちてしまった。残った1枚も、この写真撮影の1時間ほど後に落ちた。

落葉の実験

[3]果実の成熟
(方法)
まだ緑色のダイダイの実2個をそれぞれ大きなポリ袋に入れる。2つのうち一方にはリンゴの果実を入れておく。もう一方にはリンゴは入れない(これが対照実験)。このようにセットしたのが2001年12月27日(下の左の写真)。
(結果)
下の右の写真は14日後の2002年1月10日に撮影。対照実験に比べて、リンゴを入れた方は緑色が薄くなり、オレンジ色に色づいてきた。

ダイダイの成熟の実験



【植物への接触刺激を与えた実験】

植物への接触刺激は、その植物のエチレン生成を促進する。そこで、キクの苗を使って次のような実験を行った。この場合も、その結果は接触刺激によることが言えるだけで、その接触刺激でエチレンが生成されることは実験室で相応の装置や薬品を使って調べなければならない。

[1]キクの苗の成長と開花
(方法)
2001年10月30日、キクの苗を植木鉢に植える。そのうち一方だけを、その後毎日、午前9時と午後3時に下から上へ30回なでる。もう一方はこの処置をしない(これが対照実験)。こうしてその後の生育状態と、開花状態を観察した。
(結果)
対照実験に比べ、1日に2回30回ずつなでる処置をした方は、少し伸びが抑制され開花が遅れた。下の3枚の写真は、10月30日(植えた日)、12月10日(41日後)、12月19日(50日後)に撮影。いずれも左が対照実験、右がなでる処置をした方。

10月30日 高さは対照実験32.0cm、処置実験33.0cm
12月10日 高さは対照実験44.8cm、処置実験41.5cm。対照実験の方は、茎頂のつぼみは黄色がのぞく。処置実験の方はつぼみはまだかたく色づいていない
12月19日 高さは対照実験45.5cm、処置実験42.0cm。対照実験の方は、開花した。処置実験の方のつぼみは黄色にほころび始めた。

キクへの接触刺激の実験


【まとめ】
1)リンゴの果実から放出されるものには、次の作用がある。
・ダイコンの芽生えの伸長をおさえて茎を太く短くし、子葉のすぐ下の茎の部分を曲げる。
・ツバキの枝の落葉(らくよう)を促進する。
・ダイダイの果実の成熟を促進する。
2)キクの苗を毎日2回一定時刻になでる刺激を与えると、茎の伸長と開花が抑制される。

【追記】
1)リンゴの果実を使った実験は、同じ実験を数回くりかえし行った。どの場合も[まとめ]に記したよう結果になったが、その結果が現れるまでの時間は時期により差がみられた。一般に、気温の低い時期だと遅れる。例えば、ツバキの枝の落葉の実験を、12月末〜1月に行ったところ、リンゴを入れたポリ袋の中で、枝を水に挿してからすべての葉が落ちるまでに15日かかった。
2)産地で未熟な緑色のうちに摘み取られたバナナを黄色に成熟させるのに、エチレンは使われている。そこで、果実の成熟の実験は、ダイダイで行う前にバナナを使って行ってみた。しかし、全体が緑色の未熟バナナは入手できなかったため、茎に近い部分数cmが緑色のものを使った。その結果は、リンゴを入れた方と対照実験との色づきの差は何とか認められる程度だった。
3)キクの苗を毎日2回一定時刻になでる実験は、まだ1回行ったのみ。今後同じ実験を、多個体使って行うべきだと考えている。
4)エチレンの作用は、植物の種によりまた器官により表れ方は同じとは限らない。例えば、リンゴを入れたポリ袋の中でアサガオの芽生えは、茎が太く短くなる、子葉のすぐ下の茎の部分が曲がるということ以外に、茎が水平方向に伸びるということもみられた。

【参考文献】
1)植物の一生とエチレン(東海大学出版会)太田保夫-著
2)絵とき植物ホルモン入門(オーム社)増田芳雄-編著


次へ 戻る
生物実験室目次へ Topのページヘ