顕微鏡生物実験室6.

** 納豆菌からDNAを抽出する **

台所でもできるDNA抽出実験です


2001年4月14日、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の一般公開で「お手軽、簡単実験講座」というのをやっていました。「消費税込み966円であなたもDNAを見てみませんか」という実験でした。会場に行ったときには既に実験は終わっていましたが、そこに書かれてあった方法を見ると台所でもできそうでした。そこで、その他の資料も参考にして台所で試み薬品類や方法を工夫してみました。以下にそれを示します。

TDNAを取り出す

<用意するもの>
・材料−納豆      
・器具−ガラスコップ又はガラスびん2個、割りばし、茶漉し
・薬品類−食塩水(食塩18gを水に溶かして150mlにする。これは約2mol/lの濃度)、消毒用アルコール、
              コンタクトレンズ用タンパク除去剤(主成分はタンパク分解酵素−メニコン株式会社発売のアイネスタブレットを使用)

方法>
1.まず準備
消毒用アルコールを冷蔵庫または冷凍庫で冷やしておく(冷凍庫に入れても凍らない)。食塩水も冷蔵庫で冷やしておく。

2.サンプルを水に溶かす
コップ(又はガラスびん)に5mlの水を入れる。納豆のねばねばを割りばしで巻き取りコップの中の水に溶かす。これを4〜6回繰り返す。ねばねばのかたまりがあれば、割りばしでコップの壁にこすりつけてほぐし溶かす。そのあと茶漉しで漉して、溶けなかったねばねばのかたまりや大豆片を取り除き、均一な溶液にする(下の写真1)。

3.サンプル中のタンパク質を分解する
コンタクトレンズ用タンパク除去剤をコップに1錠入れる。時々、コップを持ち上げずに揺すると、タンパク除去剤は10分ほどで溶けきる。その後、タンパク除去剤の使用説明書に書いてある時間だけそのままにしておく(アイネスタブレットの場合は4時間)。

4.DNAを抽出する
時間になったら、3.のコップを氷水につけて冷やす。そのコップに、冷やした食塩水5mlを加えて混ぜる

DNAの抽出

5.DNAを取り出す
別のコップに、冷やした消毒用アルコール30mlを入れる。このコップに納豆を溶かした水(4.のコップの中身)を少量静かに注ぐ。消毒用アルコールを入れたコップを持ち上げずに、ゆっくり静かに揺らす。するとアルコール中に糸くずのようなものが見えてくる。これがDNAである。続いてまた納豆を溶かした水を少量づつ消毒用アルコールに注いでから、コップをゆっくり静かに揺らすことを繰り返す。糸くず状のDNAはさらに増える。そのまま静置しておくと糸くず状のDNAは水面まで浮き上がってくる(写真2)。写真3は、このDNAを竹串につけて引き上げたところ。このとき液中には白い沈殿が一面にひろがっているが、次第に底に沈んでいく。


U.DNAであることの確認

抽出した糸くず状のものがDNAであることの確認実験。糸くず状のものの溶液をろ紙にプロットしそれを、酢酸カーミン、メチレンブルー(いずれも細胞の顕微鏡観察の際に核を染色する色素)の溶液に浸す。DNAであれば染色されるはずである。

<用意するもの>
・材料−上記T.の実験で抽出した糸くず状のもの
・器具−ろ紙(天ぷら敷き紙、コーヒーフィルターなどでも可)、スライドガラス、竹串、ガラス棒(または割りばし)、スポイト
・薬品類−酢酸カーミン、メチレンブルー

方法>
1.アルコールを除く
竹串で、抽出した糸くず状のものをゴマ3粒分くらいの量とる。ろ紙に軽く触れさせてアルコールを除く。このときろ紙に強く押し付けるとぺたっとくっついてしまうので要注意。

2.濃い溶液をつくる
糸くず状のものをそのままスライドガラスに乗せ、そこにスポイトで水を1滴たらす。ガラス棒か竹串でねるようにしてこの水に溶かす。溶けた部分は透明になる。水が不足ならば少量補ってさらに溶かす。

3.ろ紙にプロットする
この溶液をガラス棒か割りばしなどで、ろ紙にぬりつける。
比較のため、抽出液(T.の4.段階の液。すなわち消毒用アルコールに注ぐ前の液)と沈殿(糸くず状のものが浮かび上がったとき、びんの底に沈んでいるもの)も同じろ紙にプロットした。沈殿はやはり少量の水に溶かしてプロットした。
以上のようにサンプルをつけたろ紙を、2枚作る。

4.色素溶液に浸す
サンプルをつけたろ紙のうち1枚は酢酸カーミンに、もう1枚はメチレンブルーに浸し、いずれも5分おく。その後熱湯で洗う。

<結果>
DNAの確認実験
左の写真のようになった。上のろ紙が酢酸カーミン、下がメチレンブルーに浸したもの。

鉛筆書きの輪郭は、資料をプロットした際にスポットが広がった範囲。中央のスポットが糸くず状のものの水溶液。左端のスポットは抽出液、右端のは沈殿(上記<方法>3.参照)。
酢酸カーミン、メチレンブルーともに糸くず状のものの水溶液のスポットは濃く染色された。

抽出液、沈殿のスポットも薄く染色されている。抽出液にはDNAが薄く溶けた状態、また沈殿にはDNAがまだいくらか含まれているためと考えられる。



V.方法のバリエーション

1.コンタクトレンズ用タンパク除去剤の替わりに
@ コンタクトレンズ用タンパク除去剤を加えずに、(その他のことはT.の過程どおりに)実験してみた。
糸くず状のDNAは現れたが
タンパク除去剤を使った場合に比べ、量はずっと少なかった。しかし、DNAを見るというだけならこれでもよい。

Aコンタクトレンズ用タンパク除去剤の替わりに、パイナップル、キウイ(いずれもタンパク分解酵素を含む)の汁を使ってそれぞれ3回ずつ実験してみた。
パイナップル
の場合は2回はDNAは少し現れたのが認められたが、あと1回は認められなかった。また、キウイでは3回ともDNAは現れなかった。
果物のタンパク分解酵素の効果の程度は、その果物の生理的状態によるものかもしれない。いずれにしろ、確実にDNAを取り出すためには、これらの果物の汁よりは、やはりコンタクトレンズ用タンパク除去剤を使った方がよいと言える。

2.
タンパク除去剤を作用させる時間を短縮すると
コンタクトレンズ用タンパク除去剤を溶かしてからそのままにしておく時間を(4時間ではなく)ずっと短縮して30分にしてみた。4時間おいた場合に比べ量はずっと少ないが、糸くず状のDNAは現れた。DNAを見るというだけならこの程度の時間でもよい。


W.後記

この方法は、納豆という手近かな材料を使い、特殊な薬品や遠心分離機器などの器具を用いないということで「台所でもできるDNAの抽出法」です。しかし、取り出せるDNAの量は少なく、また不純物も多く含まれていると思われます。ただDNAを見るということならこれで充分でしょう。

「U.DNAであることの確認」について
この実験は台所にあるものだけではできませんが。
高校の生物の授業での生徒実験には、まず顕微鏡での細胞観察で酢酸カーミン、メチレンブルーで核が染まるのを観察してから、この実験を行えば理解に有効だと思います。しかし、厳密にDNAを同定するには研究室レベルの実験が必要なところでしょう。

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<参考資料>
1)2001年4月14日、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の一般公開での「お手軽、簡単実験講座」−「これは栃木の高校の先生(鹿沼高校、斎藤隆男)が国立博物館ニュースに投稿されたものを引用したものです」と書かれてあった。
2)Webサイト−DNA抽出実験(http://village.infoweb.ne.jp/~yasuhisa/DNAext.htm)森田保久・作成
3)Webサイト−DNA確認実験(http://village.infoweb.ne.jp/~yasuhisa/DNAexc.htm)森田保久・作成
4)Webサイト−台所でできるDNA抽出(http://village.infoweb.ne.jp/~yasuhisa/ktinDNA.htm)森田保久・作成
5)平成7年度静岡大学理学部化学公開講座テキスト(静岡大学理学部化学科)
6)放送大学印刷教材 分子生物学(放送大学教育振興会) 三浦謹一郎・編著


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