顕微鏡生物実験室5.


< 貝割れダイコンを育てて、実験、観察 >


ダイコンの種子が発芽して、2枚の子葉を開いた状態が貝割れダイコンです。
野菜として使われるこれを育て、次のような実験や観察を行いました。


1.貝割れダイコンを育てる
イチゴパック、豆腐パック、おかずパックなど食物が入っていたプラスチック容器に次の写真のようにして育てる。
種子の品種は何でもよいが、貝割れダイコン用として売られているものは、発芽率が高くてよい。

貝割れダイコン用意

1.イチゴパック、豆腐パック、おかずパックなどの容器の底に、錐や千枚通しなどで穴をいくつもあけ、篩(ふるい)のようにする。
2.穴をあけた容器と同じサイズか、それより少し大きめの容器を別に用意する。穴をあけた容器を、その上に乗せて重ねる。
3.ティッシュペーパー、又はちり紙を4〜6重にして敷き、かぶるくらいに水を入れる。そこにダイコンの種子をぱらぱらと播く。
4.暑い季節でなければ、2〜3日に一度水を換える。それ以外は水が少なくなっていたら足す。

水換えは、まず上の容器を下の容器からはずして持ち上げ、ティッシュペーパーに含まれている水をできるだけ落とす。その上から新しい水を静かに注いでティッシュペーパーを洗い、かつ新しい水を含ませる。下の容器は古い水を捨てて洗う。再び元のように重ねて、水の量はティッシュペーパーを覆うくらいにしておく。
夏は水が腐りやすいので毎日とりかえる。また、できるだけ涼しい場所に置く。
こうして生育させた芽生えで次の2.〜7.の実験や観察を行う。


2.根毛の観察
根毛が生えた芽生え
種子から伸びた根が7〜8mmになると、根にふさふさとした毛のような根毛が生えてくる(左の写真)。根毛は表皮起源の毛状の細胞で、水とそれに溶解している物質を吸収する。根毛に水がかかったり、手やピンセットなどで触れると、ぺしゃっとなってしまうので、他の場所に移さず、そのままの状態でルーペで観察する(2000年8月10日撮影)。




3.芽生えの発芽生育過程の観生育中の貝割れダイコン

5〜6cmに伸びた芽生え(左の写真、右端のもの)を観察すると、2つの子葉の大きさには大小があり、大きな子葉の方が葉柄も長くなっている。そこで、発芽生育過程をさかのぼってたどることにする。

同じ容器に同じときに播いた種子も、いっせいに発芽生育するのではないので、容器の中に生育中の芽生えにはいろいろな発育段階のものが見つかる。左の写真はそれらの芽生えを、発芽生育過程順に左から右へと並べたものである(2000年8月11日撮影)

写真の右から左へと発芽生育過程をさかのぼると、種子や発芽初期の段階では2枚の子葉は合わさって重なり、大きな子葉は外側になって小さな子葉を内に包み込んでいたことがわかる。すなわち、種子の中で大きな子葉は小さな子葉を包み込んだ形で収まっており、発芽生育するにつれてそれが展開して次第に、写真右端のもののような状態になったことが観察できる。






次の4.6.7.の実験には、長さ5〜6cm程に伸びたものを使う。夏では4、5日で、冬暖かい場所に置いた場合は6、7日でその長さになる。


4.芽生えの吸水の観察
切り口にもりあがった水
長さ5〜7cmほどに伸びた芽生えの、半分くらいの所から上を鋭利なナイフで切り落とす。やがて、吸水した水が切り口に、もりあがってくる。左の写真は切り落としてから1時間後の状態(2000年8月27日撮影)。

植物の吸水は、根が水を押し上げる根圧と、葉からの蒸散による吸引力によって行われる。
この実験の場合、子葉は切り取ったので、切り口から出てきた水は根圧によって押し上げられたものである。






5.生育に対する光の影響
1.で述べたようにして、2つのプラスチック容器にダイコンの種子を播く。一方の容器は明るい所に、もう一方は、ダンボール箱の中に入れふたをしておく(2000年8月14日)。下の左の写真は4日後の18日の状態。この後、暗所(ダンボール箱内)に置いてあったものも明所に移した。下の右の写真は、移してから24時間後の状態。

暗所で育てると芽生えは、丈は高くなるが細く弱々しく、緑色にならない。また子葉は開かない。その後光を当てると緑色になり、明所で生育したものの形態に近づく。芽生えが正常に形態形成するためには光が必要であることが分かる。

明所、暗所で育った貝割れダイコン


○左の写真−播種後4日

   左が明所、右が暗所で育てたもの

○右の写真−左の写真のものをその後両方とも明所に置いて
    24時間後の状態




次の6.7.の実験には、長さ5〜6cm程に真直ぐに伸びたものを使う。芽生えが曲がって伸びていたら、容器ごとすっぽり入る箱に入れ、上だけから光を受けるようにしておく。1、2時間で芽生えは真直ぐになる。


6.光屈性(ひかりくっせい)
上記のように育てて真直ぐに伸びた貝割れダイコンを1本、根をいためないように抜く。キッチンペーパーを細長く折り、これで貝割れダイコンの根の部分をくるくると巻く。キッチンペーパーに水を充分含ませる。これのキッチンペーパーの部分をフィルムケースにはめこむ。
貝割れダイコンを植え込んだフィルムケースを戸棚(又は押入れ)の戸から15〜20cm奥へ入った所に立て、戸は10cmほど開けておく。15分毎にその運動を観察し、位置を固定したデジタルカメラで撮影した(下の写真)。芽生えは光が入ってくる戸口の方へと屈曲していった。

貝割れダイコンの光屈性

左端がセット直後。
以後15分毎に撮影。
右側が戸口。
(2000年8月12日撮影)






7.重力屈性(じゅうりょくくっせい)

貝割れダイコンの重力屈性

6.と同様にして貝割れダイコンの芽生えをフィルムケースに植え込む。これを横に寝かせる(途中に枕のような支えを置いて水平になるようにする)。場所は、方向による明暗の差が極端でない所とする。

芽生えの運動を15分毎に観察し、位置を固定したデジタルカメラで記録した。芽生えは徐々に起き上っていった。

左の写真、最初のがセット直後。以後15分毎に撮影した(2000年8月19日撮影)。


刺激の方向に対して、常に決まった方向に植物体の一部が屈曲する反応が屈性である。刺激の種類によって、光屈性(ひかりくっせい)、重力屈性(じゅうりょくくっせい)、水分屈性(すいぶんくっせい)のように呼ぶ。刺激の方に向かって曲がる反応が正の屈性、逆に刺激とは反対側に曲がるのが負の屈性である。

屈性のしくみについては、これまで次のように説明されていた。
芽生えが光の方へと曲がる(正の光屈性を示す)のは、植物の成長ホルモンであるオーキシンが光とは反対側に移動して、そちらの方が成長を促進されるため。また、横 たえた芽生えが立ち上がる(負の重力屈性を示す)のは、下側にオーキシンが多くなってそちら側の成長が促進されるためである。
しかし最近、オーキシンは光が当る側とその反対側で均等に分布していることが分かった。また、伸長を阻害する物質の関与も報告されており、屈性のしくみの説明は今後に問題を残しているといえる。








<後記>
4、6、7の実験を、スーパーマーケットなどで売られている貝割れダイコンで行ったところ、反応は見られたり見られなかったりでした。生理的状態がまちまちなためと思われます。やはり、自分で育てたもので実験するのがよいようです。


<参考文献>
1)ほんとうの植物観察(地人書館) 筆者代表 室井綽・清水美重子
2)花も葉っぱも光がだいすき(岩波書店) 和田正三
3)絵とき植物生理学入門(オーム社) 増田芳雄
4)植物の観察と実験を楽しむ(裳華房) 松田仁志


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