顕微鏡生物実験室11

葉はなぜ緑色?-葉の色素の化学

葉にはどんな色素が含まれている? 葉の色素の抽出液に光をあてるとどんなことが見られる?
こうした葉の色素の化学について、家庭でもできる実験方法を工夫しました


植物の葉は、二酸化炭素と水を材料にして光合成により有機化合物をつくります。光合成を行うためのエネルギーは太陽の光から得ています。その光のエネルギーをとらえる役目をしているのがクロロフィルa、クロロフィルbなどの葉の色素です。葉というものは殆ど緑色ですが、紫、赤などの葉もあります。このような葉の色素について次のような実験をしてみました。

1.ペークロマトグラフィーで葉の色素を分離する
 葉にはどんな色素が含まれているのでしょう。赤や紫の葉には緑色のクロロフィルは含まれないのでしょうか。.ペーパークロマトグラフィーで調べてみました。
1)材料
使った植物は下の写真の4種類です。
・ナンテン-緑の葉、紅葉した葉
・ポインセチア-緑の葉、赤い葉(これは花と見まがうばかりですが、形から葉だと分かります.ほんとうの花は赤い葉に囲まれた中心にあります)。
・アルテルナンテラ・パープルナイト-葉はすべて紫色です。
・ムラサキゴテン-やはり、葉はすべて紫色です。

緑、赤、紫の葉

2)薬品、器具、用具など
・天ぷら敷き紙(両面ともざらざらなもの。片面がつるつるのものは水の吸い上げが非常に悪いので使えない)、またはペーパーハンドタオル
・ピンセット ・ゼムクリップ ・ドライヤー
・透明な空きびん(ふたができるもの)
・展開剤-ベンジン(主成分はn-ヘキサン)とマニキュア除光液(アセトンを含むもの)を5:2の体積比で混合したもの

3)方法
サンプルの葉から色素を抽出する方法ではなく、次のように紙に葉の組織を直接つけて、空きびんの中で展開剤を滲み込ませて、展開する。
なお、このウェブサイト内でペーパークロマトグラフィーを用いた実験は「みんなの実験室6」「みんなの実験室9」(←クリック)にあるので参照のこと。

紙にスポット
@)てんぷら敷き紙(又はペーパーハンドタオル)を14.5cm×11cmほどに切り、下端から2.5cmのところに鉛筆で横線を引く。これが原線。

A)各サンプルの葉の小片を原線上に置き、ピンセットで押し付けて、葉の組織を用紙に付着させる。直径3mmほどのスポットになるようにする(左の写真)。

B)サンプルをつけた用紙を裏返して、各スポットにドライヤーの温風をあてて乾燥させる。裏返すのは、風でスポットにつけた葉の組織がはがれて飛んでいかないようにするため。

C)B)の用紙を筒状に巻き、上だけをゼムクリップで留める。

D)透明な空きびんに、底から1cmほどの高さまで展開剤を入れる。これに、C)を立てて入れ、ふたをする(右の写真)。

E)7〜8分展開すると、展開剤は8〜9cm滲みこみ、各サンプル中の色素は用紙の上で分離する。

F)用紙をびんから取り出す。展開剤はすぐ蒸発する。
展開中


4)結果
ポインセチアの赤い葉以外の5つのサンプルからは、緑と黄色の色素が分離された。

クロマトグラム1
@)左の写真が展開したクロマトグラム。右の写真は、そのクロマトグラムからポインセチアの緑葉の展開パターンを切り取って、分離した各色素の名称を記したもの。黄色のカロチンとキサントフィル類、青緑色のクロロフィルa、黄緑色のクロロフィルbが検出された。

A)ナンテンでは、緑葉だけでなく紅葉からも緑と黄色の色素が分離された。葉が紅葉するときには、クロロフィルが分解され、赤いアントシアンがつくられるが、このサンプルの紅葉には、まだ壊されずに残っていたクロロフィルがあったわけである。

B)6つのサンプルのうち、ポインセチアの緑葉では緑と黄色の色素が最も多く分離された。しかし、赤い葉にはこれらは全く認められなかった。

C)アルテルナンテラ・パープルナイトとムラサキゴテンの葉は、見た目には紫色で、緑色は見えないが、展開したクロマトグラムには緑と黄色の色素が分離された。

D)ナンテンの紅葉、ポインセチアの赤い葉、アルテルナンテラ・パープルナイトの葉、ムラサキゴテンの葉において、原点に赤いスポットが残っている。それぞれに含まれるアントシアンで、この展開剤には溶けないため原点に留まった。
クロマトグラム2



2.葉の色素を抽出して光をあてる

葉の抽出液
1)葉の色素をエタノールで抽出する

@)ホウレンソウの葉5gを沸騰した湯に約1分浸す。この葉を布にはさんで水をとる。

A)@)の葉を細かく刻んでガラス容器に入れ、そこに消毒用エタノール60mlを加える。この容器にアルミ箔のふたをして、80〜90℃の湯に入れる。

B)3〜4分後、色素が抽出されたら容器を湯から出し、ろ紙(又はコーヒーフィルター)でろ過する。

左の写真がこうして得られた抽出液。


2)葉の色素の抽出液に光をあてる
@)葉の色素が吸収するのはどの色の光?
植物が受ける太陽の光には、いろいろな色の光が混ざっています。葉の色素はこれらの光のうちどれを吸収しているのでしょうか。手づくり分光器を使って調べてみました。手づくり分光器については「みんなの実験室11」(←クリック)を参照のこと。

吸収スペクトル 手づくり分光器は、幅1mmで長さ2〜3cmほどのスリットから入れた光を、回折格子レプリカで分光します。
このスリットの長さの半分に、葉の抽出液を入れたガラス容器を当て、分光されたスペクトルを観察しました。つまり、スリットの長さの半分には太陽の光がそのまま入り、あとの半分には葉の抽出液を透過した太陽の光が入るわけです。そこで、太陽光のスペクトルと、葉の抽出液を透過した太陽光のスペクトルとが並べて見られます。

左の写真がそれで、右半分が太陽光のスペクトル、左半分は葉の抽出液を透過した太陽光のスペクトルです。
抽出液を透過した光のスペクトルでは、青の部分と赤の一部が暗くなっています。つまり、葉の色素はこの部分の光を吸収し、そのほかの色の光は吸収しません。

私たちの目に入るのは、葉の色素が吸収しなかった色の光が混ざったものです。それが緑色というわけです。これが葉が緑色に見える理由です。

なお、1)の抽出液はそのまま分光器に当てると色が濃すぎてスペクトルが見にくいので、エタノールで3倍に薄めたものを使いました。


A)クロロフィルの蛍光
葉の色素の抽出液に光をあて、それを横から見ると赤い蛍光が見えます。緑だと思っていたのが、赤く見えるので驚きます。見る角度によって赤い蛍光の強さや、見える部分がちがいます。

クロロフィルの蛍光1 クロロフィルの蛍光2
上の2枚の写真では、画面の右上方向から直射日光をあてました。 上の2枚の写真では夜、画面左下から懐中電灯で照らしました。

抽出液中のクロロフィル分子は光を吸収すると、エネルギーを持った不安定な状態(励起状態)になります。それが安定な状態(基底状態)にもどるときに蛍光としてエネルギーを放出します。それがこのように見えるわけです。
生きた葉においては、こうして放出されるエネルギーは光合成の反応に使われ、糖やデンプンなどの有機物がつくられます。


<追記>
・展開剤
1.の実験では展開剤として、ベンジン(主成分はn-ヘキサン)とマニキュア除光液を5:2に混合したものを使いました。しかし、マニキュア除光液中のアセトンの割合はメーカーによって違います。色素がよく分離する割合を工夫してみてください。
学校などで行う場合には展開剤としては、石油エーテル:エチルエーテルの3:1混合液や、トルエン、キシレン、ベンゼンなどが使われます。

・薄層クロマトグラフィー

家庭でもできる方法ということで、天ぷら敷き紙やペーパーハンドタオルを使って光合成色素を分離しました。しかし、ペーパークロマトグラフィー用の長方形のろ紙があり、理科実験器具を扱う業者から買うことができます。そして、そのろ紙よりも薄層板を使った薄層クロマトグラフィーの方がシャープに分離します。その際は、葉の色素をエタノールで抽出して濃縮したものを毛細管で原点につけます。

・紅葉と光合成色素
ナンテンの葉ははじめは緑色で、秋から冬にかけて徐々に紅葉します。そのとき緑色のクロロフィルは壊されていき、赤いアントシアンがつくられます。その過程の進む度合いによって、壊されずに残っているクロロフィルの量が違います。紅葉の度合いがあまり進んでいない葉では緑色のスポットは濃く、反対に真っ赤になった葉では薄い色でした。(紅葉のしくみについての観察と実験をアップしてあります→生物実験室12 紅葉のしくみ

・ポインセチアの赤い葉
ポインセチアの赤い葉には、緑や黄色の色素は認められませんでした。その点、同じ赤い色の葉でもナンテンの紅葉とは違います。光合成色素をつくらず、みかけの通り花びらに近くなっている葉といえるでしょうか。花びらの起源は葉です。

・紫色の葉に含まれる光合成色素
ここで使ったアルテルナンテラ・パープルナイトやムラサキゴテンの葉のような紫色の葉は、そのほかでは赤シソやムラサキキャベツなどいろいろな植物に割に広く見られます。
光合成色素がとらえたエネルギーによって、植物は生きるために必要な有機物を合成します。そのように、植物にとってはなくてはならない光合成色素ですから、紫色の葉にも含まれていると予想されたのですが、ペーパークロマトグラフィーで調べた結果はやはりそうでした。ここには示しませんでしたが、赤シソの葉もやはり同じ結果になりました。なお、これらの葉は季節により、肉眼的にも明らかに緑色が見えることがありますが、そのような時期の葉をペーパークロマトグラフィーで調べると、クロロフィルも黄色の色素もは上記のクロマトグラムよりも色の濃いスポットとして分離されました。

・光合成色素の吸収スペクトル

2.の実験の抽出液には、葉に含まれる光合成色素(クロロフィルa、クロロフィルb、カロチン、キサントフィル類)がそのまま分離されずに含まれています。したがって2.@)の吸収スペクトルはこれら複数種類の色素の吸収スペクトルを重ねたものということになります。

・黄色の色素の役割
光合成に必要な太陽光のエネルギーをとらえるのは主にクロロフィルです。では、カロチンやキサントフィル類のような黄色の色素はどんな役割をしているのでしょう。
従来は、これらの色素は、クロロフィルが吸収できない光を吸収して光合成に使えるようにする補助色素としてはたらくと考えられてきました。しかし最近の研究では、光が強すぎるときに、その光から植物を守っているという説が有力とのことです〔下記の参考ウェブサイト1)〕。これらの色素の役割については、まだこれからの研究を待たなければならないようです。


<参考資料>
文献 
1)「ろ紙のクロマトグラフィで植物の色素調べ」『
子供の科学流めざせ科学の達人』 P44〜45 (誠文堂新光社)
2)「葉緑素(クロロフィル)の蛍光の観察」『植物の観察と実験を楽しむ』松田仁志著 P121〜125(裳華房)
ウェブサイト
1)光合成色素について(http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/sonoike/shikiso.htm)
2)光合成色素の分析(http://www.bio-sci.myswan.ne.jp/sample/hikari/hikari.htm)
3)実験 簡易分光器による光合成色素の観察(http://www.ne.jp/asahi/osaka/tanchan/bio/b14bunko/bio14.htm)


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