顕微鏡生物実験室12紅葉落葉

紅葉のしくみ-その観察と実験

秋深まるとモミジやツタは美しく紅葉します。そのしくみについて観察や実験を行いました
そして、植物自身にとって紅葉はどんな意味があるのでしょう


右の写真は散り敷いていたモミジの落葉で、濃い赤、薄い赤、黄色と混ざって千代紙のような美しさでした。イロハモミジ(Acer palmatum)か、その亜種のオオモミジ(Acer palmatum var.amoenum)のようです。なぜこのように色にちがいができたかの考察は下の〔観察と実験〕の、ここに記しました→〔2〕紅葉するには光が必要である-〔考察〕


紅葉のしくみについては、次のように考えられています。

葉に含まれる色素には緑色のクロロフィル(葉緑素)、黄色のカロチノイド(カロチン類とキサントフィル類)があります。量はクロロフィルがカロチノイドよりずっと多いので、黄色はめだたず葉は緑色に見えます。秋、気温が低くなると葉のはたらきが弱まり、クロロフィルが分解されます。そのため、クロロフィルにかくされていたカロチノイドの色がめだって黄色になります。イチョウ(Ginkgo biloba)やポプラ(Populus × canadensis)の葉が秋に黄色になるのはそのためです。(緑の葉にも黄色の色素が含まれていることを調べる実験はここにアップしてあります→生物実験室11 葉はなぜ緑色?葉の色素の化学 )

一方、植物は葉を落とすための準備を始めます。葉柄の付け根にコルク質の離層という組織がつくられ、物質の行き来はここで妨げられます。そのため葉の中の物質は茎に移動できなくなり、光合成で生産された糖は葉に留まることになります。紅葉する葉では、この糖から赤い色素アントシアニンができて葉は赤くなります。葉はやがて、離層のところで切り離されて落葉します。

アントシアニンの合成には、温度と光の条件が重要です。1日の最低気温が8℃以下になると紅葉が始り、5〜6℃以下になるとぐっと進むといわれています。鮮やかに紅葉するには、日中の気温は20〜25℃で夜間は5〜10℃になり昼夜の気温の差が大きいこと、空気が澄んで葉が充分日光を受けられることや、大気中に適度な湿度があって葉が乾燥しないことなどが必要です。

これらのことを確かめたり、調べたりした観察や実験の結果を以下に示します。
また、植物自身にとっての紅葉の意味は最後のここに記しました→<追記>


 観  察  と  実  験 

〔1〕葉と茎の物質の行き来が妨げられるとアントシアニンがつくられる
このことを示す観察例。
下の写真、1と2はナンテン(Nandina domestica)、3はテイカカズラ(Trachelospermum asiaticum)。
1のナンテンは、↓のところで折れ、そこから先の葉がこのように鮮やかに紅葉していた。しかしほかの葉は緑色だった。
2のナンテンは葉の途中で切れ、そこから先が紅葉していた。
3のテイカカズラでは、1枚の葉の↑から先の部分だけが、このように紅葉していた。この葉の裏側を見ると、↑から先の葉脈の主脈が平らにつぶれていた。テイカカズラは常緑樹であるが、紅葉することがある。

ナンテン-1 ナンテン-2 テイカカズラ
1.ナンテン 2.ナンテン 3.テイカカズラ

〔考察〕
以上3つの例はいずれも、葉柄の付け根に離層ができた場合と同じように、折れたり切れたりつぶれたところで物質の移動が妨げられ、そこから先にアントシアニンができている。


〔2〕紅葉するには光が必要である
1)観察
@.モミジの紅葉の色
下の写真はいずれも紅葉したモミジで、それぞれ一本の木の葉の色が部分によってちがっている。

モミジ


1の写真では、梢の先端付近は色づいているが、樹冠の内部はまだ緑色である。

2の写真では、右の方の枝の葉は紅葉しているが、左の方の枝の葉はまだ黄色でアントシアニンの合成はおくれている。日光を受けやすい位置の葉から紅葉していくと思われる。
               1                               2

A.ナンテンの重なった葉

ナンテン-3
写真1
11月15日、ほとんど葉が落ちた枝に、1枚の葉がもう1枚の葉の一部を覆うようにして重なってついていた。

写真2
手前の方の葉に軽く触ると、ぽろっととれて散ってしまった。その葉に隠されていた後ろの葉の部分は、このようにまだ紅葉しておらず、少し緑が残っていた。

写真3
2日後の11月17日、隠されて紅葉していなかった部分が黄色になり、うっすらと赤みも帯びてきた。クロロフィルが壊されて、カロチノイドが目立ち始め、アントシアニンができてきた。

2)実験
@ナンテンの葉にシールをはる

ナンテン-4

9月17日、緑色のナンテンの葉に白いシールをはった。


3ヶ月以上経った12月25日、この葉はすっかり紅葉していた。シールをはがすと、その下の部分は、まだ黄色だった。やはり日光が当らないと、アントシアニンはできないと思われる。


Aハゲイトウ(Amaranthus tricolor)の葉にシールをはる
緑の葉が紅葉する例ではないが、参考として、ハゲイトウで下記のような実験を行った。

ハゲイトウ
一部が黄色いハゲイトウを日の当るところに置くと、次第にアントシアニンがつくられて赤く色づいてくる。そこで、@と同じ実験をハゲイトウでもやってみた。

9月5日、2枚の葉に白いシールをはった。

11日後の9月16日、葉はかなり赤くなっていた。シールをはがすと、このように、シールの形どおりに黄色が現れた。そこがくっきり黄色ではなく、多少赤くなっているのは、葉脈のデコボコのためシールが少し浮き上がり、そこから光が入ったためと思われる。

シールを4つはった右の葉は、先のほうの緑の部分にもアントシアニンができたようで、9月5日より9月16日の方が赤みを帯びていた。

〔考察〕
以上の観察と実験はいずれも、アントシアニンの合成には光が必要であることを示している。
このページ冒頭の写真、モミジの落葉の色に違いがあるのは同じ木についた葉でも、そのついていた位置により日光を受けやすかったり受けにくかったりして、合成されるアントシアニンの量に差ができ、いろいろな濃さの紅葉となり、散ったものと思われる。


〔3〕葉の顕微鏡観察
 ナンテンの葉を材料として、緑葉から紅葉へのいろいろな段階の葉の内部を顕微鏡で観察した。葉を薄い切片にして、その断面を観察したものである。

1)緑葉から紅葉へ-アントシアニンは柵状組織に多くつくられる
下の顕微鏡写真は、緑葉、紅葉しつつある葉、すっかり紅葉した葉の内部である。それぞれ左上の小画面は、切片にする前の材料の葉を示す。
顕微鏡写真の上側が葉の表、下側が裏である。葉の内部の表側に近い位置には縦長の細胞が密に並んで柵のようになっている。ここが柵状組織で、その柵状組織の下、隙間がみられる組織は海綿状組織である。
紅葉しつつある葉では柵状組織にアントシアニンが見られるが、クロロフィルもまだかなりある。紅葉では柵状組織にアントシアニンが充満し、クロロフィルはもはや見られない。アントシアニンは表側の表皮組織や海綿状組織にもわずかに見られる。

ナンテン顕微鏡像-1

2)柵状組織以外にもアントシアニンがつくられる
アントシアニンが見られるのは主として柵状組織だが、それ以外の組織にも観察される。

ナンテン顕微鏡像-2

これも、紅葉しつつある葉で、切片にして内部を顕微鏡観察したら、こんな状態だった。

柵状組織が一番赤く色づいているが、海綿状組織にもアントシアニンはかなり見られる。
表皮組織には見られない。


そして、こんな葉もあった。

ナンテン顕微鏡像-3
1の写真は、その葉がついていたときの状態を示す。
葉の付け根の部分が大きく切れて、葉は縦方向に曲がってぶら下がってた。葉の裏が外側を向き、主に日光を受けるようになっていた。

その、日光がよく当る裏側がこのように赤く色づき、内側になった表側は緑色だった。

2の写真は、その葉を切片にして顕微鏡で見たものである。アントシアニンは、葉の裏側に多くみられる。それも、海綿状組織にはまばらで、表皮組織に多く含まれている。普通、最もアントシアニンが多くつくられる柵状組織には見られない。
          1                     2 

〔考察〕
通常は葉の表に近く位置する柵状組織にアントシアニンが多くつくられる。それは、普通日光がよく当るのは葉の表側だからだろうか。上の最後に示した写真の葉では、裏側に日光がよく当りそちらにアントシアニンが多くできていることからも、そのように推測できる。
海綿状組織や表皮組織にも、アントシアニンはつくられる。


<追記>
植物自身にとっての紅葉の意味
紅葉現象は、木本の植物だけでなく草本でもかなり普通に見られます。いわゆる「草紅葉」です。その例はスイバ(Rumex acetosa)、イヌタデ(Persicaria longiseta)、ヒメツルソバ(Persicaria capitata) 、エノコログサ(Setaria viridis)、メヒシバ(Digitaria adscendens)など。
葉が紅葉するのは、葉緑体を保護するためという考え方があります。つまり、気温が低くなって機能が低下してきた葉緑体が過剰な光を受けると、クロロフィルが分解される。そこでアントシアニンが光を吸収して葉緑体を保護し、クロロフィルの分解を遅らせ、できるだけ光合成を続けさせているというのです。確かに、葉の内部の顕微鏡観察ではアントシアニンができていてクロロフィルが相当残っているのが、たびたび認められました。しかし、紅葉した葉は老化しはじめており、その葉緑体は光合成活性が低下しているので、それを保護する意義は少ないという考えもあります。
秋の紅葉ではありませんが、カナメモチ(Photinia glabra)アカメガシワ(Mallotus japonicus)などは春に出る若葉が赤い色をしています。それについても、アントシアニンが光を吸収して幼い葉を強すぎる光から守っているという説がありますが、そのような葉緑体保護効果ははっきりしていないそうです。(下記<参考資料>ウェブページ1)

アントシアニンをつくらない植物
イチョウ(Ginkgo biloba)やポプラ(Populus ×canadensis)のようにクロロフィルが壊されて黄色になるだけでアントシアニンがつくられない植物もあります。そのような植物はアントシアニンをつくるための遺伝子のどれかをもたないか、またはもっていてもはたらかないようになっているのでしょう。


紅葉の進行と、環境条件との関係は複雑
〔2〕には、日光を受けやすい梢の先端から先に紅葉しているモミジを示しました。しかし紅葉の進行は、単純に日当たりとの関係だけでは説明できない場合もあります。例えば、樹冠の内部から色づき始める木もあるということです(下記<参考資料>文献2)。

考資料>
文献 
1)「紅葉現象」『
絵とき植物生理学入門』増田芳雄・編著 P52〜56 (オーム社)
2)「紅葉と落葉」松下まり子 『
週刊朝日百科植物の世界29』 P3-158〜3-160(朝日新聞社)
ウェブページ
1)日本植物生理学会-みんなのひろば-質問コーナー http://www.jspp.org/17hiroba/question/index.html


次へ 戻る
生物実験室目次へ HOME