顕微鏡生物実験室16

植物色素の紫外線カット効果

野外で1日中日光を浴びている植物は、その間ずっと紫外線にさらされています
植物色素であるクロロフィルやアントシアニンは植物を紫外線から守っていると考えられています
これらの色素の紫外線カット効果を調べました


紫外線について
紫外線は、可視光線で最も波長が短い紫の光よりもさらに短波長の光で、ヒトの目には見えません。波長の長い順にUV-A、UV-B、UV-Cに分けられます(下の図)。
太陽光中のUV-Aは、大気圏でほとんど吸収されずに地表に達します。UV-Aはヒトにとって日焼けの原因になりますが、紫外線のうちでは作用は弱いのです。UV-Bは一部が地表に到達します。地表に届く紫外線のうちUV-Aが92%で、UV-Bが8%です。太陽光中のUV-Cはオゾン層により吸収されほとんど地表に達しません。

植物は紫外線によりDNAの化学構造に損傷をうけることがあります。しかし、ある程度はそれを修復する機構がはたらきます。また、クロロフィル(葉緑素)やアントシアニン(アサガオやスイートピーの花、ムラサキキャベツやアカシソの葉、ナスやブルーベリーの果実など植物に広くに含まれる赤・青・紫の色素)などの色素が紫外線をカットすると考えられています。以下の実験では、これらの色素の紫外線カット効果を調べました。

スペクトル


実験−クロロフィル、アントシアニンの紫外線カット効果を調べる
紫外線試験紙の上に色素の抽出液入りの容器を置き、そこに太陽光又はブラックライトの光を当てる。紫外線試験紙が発色するかどうかで、色素の紫外線カット効果をみる。〔ブラックライトが発する光は主にUVA(上の図参照)〕
<準備するもの>
緑葉4〜5枚、冷凍のブルーベリーの実10粒ほど、エタノール、水、紫外線発色えのぐ(これの入手方法はこのページ下端の〔参考資料〕3)を見てください)、名刺大の白紙、紫外線を透す透明な容器(ポリエチレンテレフタレートなど)、ブラックライト(紫外線源として太陽光を使わない場合)
<方法>
1)紫外線試験紙を作成
紫外線発色えのぐは初めは白色で、紫外線を受けると化学変化して発色する。ピンクが最もはっきり発色するので、これを使用。このえのぐを名刺大の白紙に塗って乾燥し、紫外線試験紙とする。(なお発色したえのぐの色は、暗所に置くと数分で消える。したがって、紫外線試験紙は何回も繰り返し使用できる)。
2)色素の抽出
・クロロフィル
80〜90℃のお湯に緑葉4〜5枚を1分浸す(ここではサクラの葉を使用)。これをペーパータオルにはさんで水分をとる。この葉をガラスびんに入れ、葉が浸る程度の量の消毒用エタノールを加えて1晩おく。クロロフィルが抽出されて、エタノールは緑色になる。急ぐ場合は、びんを80〜90℃のお湯に入れると、5〜10分で抽出される。
・アントシアニン
冷凍のブルーベリーの実10粒ほどをガラスびんに入れ、浸る程度の水を加える。実の解凍が進むにつれて、皮に含まれるアントシアニンが水に溶け出してくる。抽出量が少なく色が薄い場合は、スプーンの凸側で転がすようにする。実の皮は青紫に見えるが、溶け出した色素の色は赤に近い。
3)紫外線カット効果を調べる
・クロロフィル
紫外線を透す透明な容器2つを用意する。ここでは、ポリエチレンテレフタレート(PET)の容器を使用。このうち1つにはクロロフィル溶液を、あと1つには溶媒であるエタノールを入れる。これらの容器を、紫外線試験紙の上に置き、太陽光やブラックライトの光を照射する。試験紙の色は数秒で変わるので、そのようになったら2つの容器を試験紙から外して、その下になっていた部分の色を見る。
・アントシアニン
紫外線を透す透明な容器2つ(ポリエチレンテレフタレートの容器を使用)のうち1つにはアントシアニン水溶液を、あと1つには溶媒である水を入れる。これらの容器を、紫外線試験紙の上に置き、あとはクロロフィルの場合と同様にする。
<結果>
エタノール入りの容器、水入りの容器を置いた部分は、容器の輪郭がかすかに分かる程度にはなりましたが、発色がよく抑えられたというほどではありません。つまり、エタノールや水には紫外線カット効果は、ほとんど認められませんでした。しかし、クロロフィルのエタノール溶液、アントシアニン水溶液を置いた部分は発色していませんでした(下の写真)。すなわち、クロロフィル、アントシアニンとも紫外線をカットする効果が認められました。

紫外線カット-実験結果


生きた植物の観察−紫外線への対応という面から
生きた植物における、クロロフィルやアントシアニンによる紫外線への防御効果は、まだ明らかになっていないこともあるようですが、植物を観察すると例えば次のような例が見られ、色素の紫外線カット効果との関連が考えられます。
1)クロロフィルをもたない葉
クロロフィルをもたない白い部分がある葉〔斑入り葉(ふいりよう)〕では、その白い部分が強い太陽光を受けて損傷し、茶色や黒に変色しているのが見られることがあります。下の写真はその例です。

アオキとガクアジサイ

アオキ(ミズキ科)
Aucuba japonica


ガクアジサイ(ユキノシタ科)
Hydrangea macrophylla

2)若葉が赤い植物
芽生えたばかりの若葉が赤い植物は、下の写真のアカメガシワ、アカメモチ(カナメモチ)以外にも、多くみられます。アセビ、ヒュウガミズキ、モッコク、ヤマザクラなど。この色素がアントシアニンです。まだクロロフィルを充分にもたない若葉を、強すぎる紫外線から守っていると考えられています。

アカメガシワとアカメモチ

アカメガシワ(トウダイグサ科)
Mallotus japonicus


アカメモチ〔カナメモチ〕(バラ科)
Photinia glabra


[追記]
1)生きた植物においては
この実験は、クロロフィルとアントシアニンそれぞれの抽出液を使って行なったものです。生きた植物の細胞内でのこれらの色素のはたらきには、細胞の構造・細胞に含まれるその他の物質・環境条件などが複雑に関係してくると考えられます。
2)バナナが紫外線を受けると
バナナの実の皮は、初めはクロロフィルを含んで緑色をしています。しかし、店頭に並んでいるのは既にクロロフィルが壊れていて黄色です。この状態のバナナは強い紫外線に当たると損傷を受け褐色や黒になります。しかし、一部をアルミホイルや紫外線カットフィルムで包んでおくと、その部分だけは褐色や黒にはなりません。バナナを使って紫外線の作用を調べた実験をアップしてあります。→生物実験室13
3)紫外線は植物にはプラスにはたらくこともある
紫外線のうちでは波長が長く、より可視光線に近いUVAについては、次のようなことが知られています。
・アントシアニンの合成は、UVAによって促進されます。高山では花の色が濃いのは紫外線量が多いからだとされています。
・植物がより明るい方に向かって屈曲して成長する現象(光屈性)に有効なのは青〜UVAです。
4)紫外線試験紙を使って調べられること
上記の実験で使用した紫外線試験紙を使って、サングラスや紫外線カットフィルム、日焼け止めクリームなどの紫外線カット効果を調べることもできます。(日焼け止めクリームの場合はセロハンなどにぬる)。ただ、紫外線カット効果が小さい場合は紫外線試験紙は発色します。つまりわずかな紫外線カット効果はこの試験紙では調べられず、発色したからといって紫外線カット効果が全くないかどうかは分かりません。そのように小さな紫外線カット効果を調べるには、そのための装置が必要です。

(お断り)この実験は、植物への紫外線の作用を調べたものです。ヒトの肌に紫外線が及ぼす影響については、この実験からは何もいえません。
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[参考資料]
1)『植物の観察と実験を楽しむ』(P126〜150)(裳華房)松田仁志=著
2)日本植物生理学会-みんなのひろば-質問コーナー http://www.jspp.org/17hiroba/question/index.html
3)忍者えのぐ−環境学習教材− http://www.ninjya..jp/
 〔このサイトから紫外線発色えのぐ(フォトクロミック色材-商品名・忍者えのぐ)の注文もできます〕


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