顕微鏡生物実験室17               

*** 光屈性に有効な光の色は?***

  植物は光の方向を感じてそちらに屈曲します。この反応に有効なのはどの色の光でしょうか


光屈性(ひかりくっせい)とは?
植物は体全体を移動させることはできませんが、体の一部を屈曲させて動かすことはできます。外部の刺激の方向と、屈曲の方向に関係がある運動を屈性といいます。刺激の方へ向かって屈曲するのが正の屈性、その反対に屈曲するのが負の屈性です。刺激の種類により、光屈性・重力屈性・水分屈性などがあります。植物に一方だけから光を当てると、やがてその光の方へ向かって屈曲します。これが正の光屈性です。

カイワレダイコンで光屈性を観察する
無色透明のプラスチックの箱の内面を、1つの面だけを残して、黒い紙で被います。真直ぐ上に向かって伸びたカイワレダイコンの芽生えをその中に入れます。これを2つつくります。一方は残った面も黒い紙で被います(下の左の写真)。もう1方はその面を、無色透明なセロハンで被います(下の右の写真)。2つとも、その面から太陽光を当てます。

光屈性観察 左の写真は1時間後の状態です。前面だけ黒い紙を外して撮影しました。暗黒中にあった方は、真直ぐなままですが、無色透明なセロハンの面から太陽光を受けた方のカイワレダイコンの芽生えは、光の方向に向かって屈曲しています。


光屈性に有効な光の色を調べる実験
太陽光にはいろいろな色(波長)の光が含まれています。それはプリズムなどによりスペクトルに分けられます。そのうち、光屈性に有効なのは、どの色の光でしょうか。
いろいろな色の光をカイワレダイコンの芽生えに当て、その芽生えが光屈性を示すかどうか調べました。いろいろな色の光は、太陽光を色セロハンに透過させてつくりました。しかし、ここで考慮すべきことがあります。
色セロハンに当たった太陽光に含まれる光のうち、特定の色の光だけがそのセロハンを透過します。透過した光をカイワレダイコンの芽生えに当てるわけです。しかし例えば、青い色セロハンを透過した光に含まれるのは青だけではなく、ほかの色の光が混ざっているかもしれません。そこでまず予備実験として、色セロハンを透過した光の色を簡易分光器で調べました。簡易分光器は回折格子レプリカを使って光をスペクトルに分けるものです。その作り方と使い方は、こちらのページを見てください→箱の中の虹-分光器をつくる


1)予備実験−色セロハンを通ってきた光のスペクトルを調べる

<準備するもの>
色セロハン(赤・青・緑の3種類)、簡易分光器、
<方法>
簡易分光器のスリットを色セロハンで被い、そこを通り抜けた太陽光のスペクトルを調べる。
<結果>
各色のセロハンを透過した光のスペクトルは次のようになりました。

色セロハンを透過した光のスペクトル 写真は、左端のは太陽光のスペクトルです。ほかの3つは写真の下に記した色のセロハンを透過した光のスペクトルです。
赤セロハンを透過した光には赤い光だけが含まれています。しかし、緑・青のセロハンを透過した光には、複数の色の光が含まれています。緑セロハンを透過した光には、緑だけでなく青い光も、そして赤い光も少し含まれます。また、青セロハンを透過した光には、緑や藍・紫の光も含まれます。

2)本実験−光屈性に有効な光の色を調べる
<準備するもの>
真直ぐ上に向かって伸びたカイワレダイコン、色セロハン(赤・青・緑の3種類)、無色透明なプラスチックの箱、黒い色画用紙、、輪ゴム
<方法>
各色セロハンを透過した太陽光をカイワレダイコンの芽生えに当てる。その方法は下の写真とその説明を参照のこと。1時間後に屈曲しているかどうか調べる。

光屈性実験法 無色透明のプラスチックの箱の内面を、1つの面だけを残してして黒い紙で被う。真直ぐ上に向かって伸びたカイワレダイコンの芽生えをその中に入れる(左の写真1。前面の黒い紙を外して撮影)。黒い紙で被わなかった面を、赤・青・緑いずれかの色セロハンで被って輪ゴムでとめる(左の写真2)。色セロハンの面から太陽光が差し込むようにして明るい場所に置き、1時間そのままにしておく。

<結果>
光をあて始めてから1時間後に、前面だけ黒い紙を外して撮影したのが下の写真です。
赤セロハンを透過した光を受けた芽生えは全く屈曲していません。緑セロハンを透過した光を受けた芽生えは、ほんのわずか屈曲しています。青セロハンを透過した光を受けた芽生えは、光の方へはっきり屈曲しています。

光屈性実験結果

<考察>
光屈性に有効なのは青系統の光
・赤セロハンを透過した光に含まれる、赤い光は光屈性には有効でないといえます。
・緑の光を最も多く含むのは、緑セロハンを透過した光です。緑の光が光屈性に有効ならば、これを最も多く受けた芽生えがいちばん大きく屈曲するはずですが、実際はほんのわずか屈曲しているだけです。
・青セロハンを透過した光を受けた芽生えは、はっきりした正の光屈性を示しました。青セロハンを透過した光に多く含まれるのは緑以外では青・藍・紫の光です。よって、これら青系統の光もしくはこれらの光のうちのどれかが光屈性に有効といえます。
緑セロハンを透過した光を受けた芽生えがほんの少し屈曲しているのは、受けた光に少し含まれる青い光のためと思われます。

[追記]
<青色光の光受容体フォトトロピンについて>
光に対する植物の反応には光屈性以外に、形態形成・気孔の開口・葉緑体の運動・花芽形成などがあります。それらの反応に有効な光の色は、赤または青です。
植物において光が作用を行なうには、植物体に含まれる物質によって光が吸収されなければなりません。この物質を光受容体といい、赤色光j受容体としてフィトクローム、青色光受容体としてクリプトクロムとフォトトロピンが知られています。光受容体はいずれも、タンパク質に低分子化合物の色素が結合した物質で、この低分子化合物が光吸収を行います。光屈性に関わる光受容体はフォトトロピンであることが分かっています〔参考資料2)3)4)5)〕。
<単色光を得る方法は?>
色セロハンを透過させた光を使う方法では、単色光を得ることができません。専門の研究者は、スペクトログラフという巨大な虹を使い、目的の波長のところに植物を置いてその光を当てるそうですが〔参考資料6)〕。一般人が単色光を得る方法はないものでしょうか。

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[参考資料]
1)『花も葉っぱも光がだいすき』(P40〜41)(岩波書店)和田正三-著
2)『絵とき植物生理学入門』(P116〜117)(オーム社)増田芳雄-監修 山本良一・櫻井直樹-著
3)日本植物生理学会-市民講座-植物の目は何?http://www.jspp.org/17hiroba/ippan/siminkouza/kouza_19.html
4)フォトトロピン研究の現状 http://www.b.s.osakafu-u.ac.jp/~toxan/tokutei/page/phototropin.html#top
5)植物が光を感じる分子メカニズムの一端を解明−光屈性を担う青色光受容タンパク質フォトトロピン光受容ドメインの構造解析に成功
http://www.spring8.or.jp/ja/current_result/press_release/2008/080821
6)大型スペクトログラフ室http://www.orion.ac.jp/data/nins/oshirase/syutupan/okazaki_2002_04/okazaki_07pdf/okazaki_07_3.pdf


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