顕微鏡生物実験室18

*** 葉の緑化に有効な光の色は?***

植物の葉が緑化するには、光を受けることが必要です。
太陽光に含まれる光のうち、葉を緑化させるのは何色の光でしょうか。


暗黒中で育ててもやしになったカイワレダイコンを太陽光に当てると、葉が緑化してきます。太陽光にはいろいろな色の光が含まれますが、そのうち葉を緑化させるのは何色の光なのか、色セロハンを透過させた光を当てて調べてみました。

【 実  験 

[実験1]暗黒中で育てたカイワレダイコンの緑化
暗黒中で育ててもやし状に育ったカイワレダイコンを明所に移し、その葉が緑化してゆく過程を観察する(9月下旬に実施)。
(方法)1)3つの透明容器a,b,cにキッチンペーパーを敷き、それに水を含ませまる。そこにダイコンの種子を播き、その種子の高さまで水を足す。これらをそれぞれ次のような場所に置いて4日間育てる。
aとb−暗黒中におく(ダンボール箱をかぶせ、さらにそれに黒い布をかぶせる) c-明所に置く。
aとbに光を当てないよう、水替えは夜間に暗黒中で行なう。
2)4日後、aとbの葉は黄色くもやし状に、cの葉は緑色になる。これらのうち、bを明所に移してその後の緑化の程度を1時間毎に観察する。
aはそのままダンボール箱をかぶせておき、cもそのまま明所において、この2つは対照実験とする。

(結果)下の写真のような結果になりました。

 a-ずっと暗黒に置く   b-暗黒→明所   c-ずっと明所に置く
      
(写真中に記した時間は、bを明所に移してからの時間)
もやしの緑化1

0時間-セットしたときの状態です。aは撮影後すぐにダンボール箱をかぶせました。この後の撮影の際も、aはそのときだけとり出してb,cと並べて撮り、すぐダンボール箱をかぶせました。

2時間後-bの葉は少し緑に色づきました。

4時間後-bの葉の緑はずいぶん濃くなりました。

下の写真
24時間後-bの葉の緑はcのそれとほとんど変らないまでに濃くなりました。aの葉がほんの少し緑に色づいているのは、撮影のときにダンボール箱から出して白色光に当てたためと思われます。それ以外に注目すべきことは、ずっと暗黒中に置かれていたaが、b,cに比べて背が高くなっていることです。これについては、このページ最後の〔付記〕に記しました。
もやしの緑化2

[実験2]葉を緑化させるのは何色の光?
赤・緑・青のセロハンを透過した光のうち、どれがカイワレダイコンの葉を緑化させるのに有効かを調べる(9月下旬に実施)。
まず予備実験として、これらの色セロハンを透過した光に含まれるのは何色の光であるかを、簡易分光器を使って調べた。

1)予備実験−色セロハンを通ってきた光のスペクトルを調べる
(準備するもの)
色セロハン(赤・青・緑の3種類)、簡易分光器、
(方法)
簡易分光器のスリットを色セロハンで被い、そこを通り抜けた太陽光のスペクトルを調べる。簡易分光器の作り方と使い方は、こちらのページに→箱の中の虹-分光器をつくる

(結果)
各色のセロハンを透過した光のスペクトルは次のようになりました。

色セロハンを透過した光のスペクトル 左端の写真は、太陽光のスペクトルです。ほかの3つは写真の下に記した色のセロハンを透過した光のスペクトルです。
赤セロハンを透過した光には赤い光だけが含まれています(ときに緑の光が薄く認められることもあります)。
緑・青のセロハンを透過した光には、複数の色の光が含まれています。緑セロハンを透過した光には、緑だけでなく青い光も、そして赤い光も少し含まれます。また、青セロハンを透過した光には、緑や藍・紫の光も含まれます。

2)本実験葉を緑化させる光の色を調べる
(方法)1)暗黒中で種子を発芽させ、葉を育成する。
5つの透明小容器d,e,f,g,hにキッチンペーパーを敷き、それに水を含ませまる。そこにダイコンの種子を播き、その種子の高さまで水を足す。これらの容器にダンボール箱をかぶせて暗黒中におく。水替えは夜間に暗黒中で行なう。

色セロハンをかぶせたもやし 2) 赤・緑・青のセロハンを透過した光を当てる。
4日後、これらは黄色くもやし状に生育していた。d〜hの容器を暗黒中でそれぞれ金属のカンに入れ、そのカンの上部を左の写真のように次のもので被う(セロハンはすべて二重)。金属カンを用いたのは、セロハン以外の部分からは光を入れないため。
d−黒い紙 e−透明セロハン f−赤セロハン g−緑セロハン h−青セロハン
d〜hを日当たりのよい明所に置く。

3)1時間毎にd〜hの葉の緑化の程度を比べる。
1時間毎に、暗黒中でd〜hそれぞれからカイワレダイコンを1本ずつ手探りで取り出してその葉を並べ撮影する。暗黒中で取り出したのは、実験中のカイワレダイコンに白色光に当てないため

もやしの緑化3
(結果)
緑化の程度を、時間を追って比べてみます。
やはり、透明セロハンを透過した光を受けた葉の緑化が最も早いです。
次いで、赤セロハンを透過した光を受けた葉で、透明セロハンを透過した光を受けた葉とあまり差がありません。
その次に緑化の程度が早いのは、青セロハンを透過した光を受けた葉です。
以上3つは、6時間後には、ほとんど同じ程度に緑化しています。
それに対し、緑セロハンを透過した光を受けた葉は6時間後でも、緑化の程度は大きくありません。

(考察)
以上のことから、葉の緑化に最も有効なのは赤セロハンを透過した光、次いで青セロハンを透過した光といえます。
赤セロハンを透過した光に含まれるのは、ほぼ赤色光だけですが、青セロハンを透過した光には青色光以外に藍色・紫、緑色の光も含まれます。

白色光を色セロハンに透過させる方法では、単色光を得ることはできません。そこで、この方法では、何色の光が葉を緑化させるのに有効であるかを正確に特定することはできません。赤色光が有効であることはかなりはっきりしているといえますが。

下記〔参考資料〕1)によると、葉を緑化させるのは赤色光と青色光となっています。
そして、緑色光は葉を緑化させないとなっています。しかし、本実験の結果では緑セロハンを透過した光を受けた葉がわずかに緑化しています。これは、緑セロハンを透過した光に少し含まれる赤色光と青色光のためと思われます。

〔付記〕葉の緑化以外のこと-弱い光の下で育つと背が高くなる
実験1の最後の写真(24時間後)では、ずっと暗黒中に置かれていたaは、白色光をあてたbとcに比べて、背が高くなりました。これは、弱い光の下で生育した植物は、強い光の下で生育した植物に比べて、ジベレリンという植物ホルモンをより多く合成するためです。ジベレリンには、茎を伸長成長させる作用があります。このことは、群落中など弱い光しか届かない場所の植物を、より多くの光を受けられる高さまで伸長させるということに適っています。[〔参考資料〕3)]

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[参考資料]
1)『花も葉っぱも光がだいすき』(P26〜27、P42〜43)(岩波書店)和田正三-著
2)『植物の観察と実験を楽しむ』(P39〜42)(裳華房)松田仁志−著
3)『植物の生理』(放送大学印刷教材)(P156〜157)(放送大学教育振興会)庄野邦彦・菊山宗弘-編著


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