水中用装甲戦闘猟兵発達史(第2回)




 Nr.36スキーズブラズニルの喪失、そしてアイヒマン博士の失踪以降、ケルンテン海軍は新たな水中用装甲戦闘猟兵を配備していなかった。いや、できなかった。と言うのも、装甲戦闘猟兵の開発が陸軍用兵器としての開発に注力されたためであった。この理由として、ケルンテン海軍の規模が小さく予算が足りなかったと言うのもあるが、水中用機の開発が陸上機に比べて非常に困難であった事があげられる。これは、かのアイヒマン博士をしても水中用機を1機しか製造できなかった事でも明らかである。もっとも、水中用機の需要が極端に少なかっただけかもしれないが……。
 しかし、ケルンテン海軍も予算・人員ともに少ないとは言え、水中用装甲戦闘猟兵の再配備を考えていない訳ではなかった。いや、むしろ規模が小さいだけに、少人数で扱える上に優秀な戦術兵器である装甲戦闘猟兵を強く望んでいた。そこでケルンテン海軍は十三博士の一人ロルフ・マルヒ氏を技術少佐として迎え、独自に水中用機の開発に取り組む事とした。この開発計画については極秘であった上に十分な資料が現存していないため、開始時期などを含めて不明な点が多い。ごく僅かな情報から、ベハーゲン海軍基地の近くに存在していたマインファルケンビール工場の倉庫に偽装した秘密工廠で開発が行われていた事がわかる。
 この秘密工廠では2つの機種が開発されていた。一つは既存の装甲戦闘猟兵を流用して開発された人型の水陸両用機、もう一つは潜行艇型の水中専用機であった。今回はこの内の、水陸両用機について紹介を行っていきたい。



防水型エカテリーナ『タコリーナ』

 マルヒ技術少佐によって開発された水陸両用機は、王立兵器工廠製の陸上用装甲戦闘猟兵『Gu−208Eエカテリーナ』を改造したものであった。なおこの機体には型式番号の付与が行われた形跡は無く、文書でも『防水型エカテリーナ』と記述されている。ケルンテン海軍内部では、その独特な頭部形状から『タコリーナ』の通称で呼ばれていた。ドイツ語圏で「タコ」という日単語が使用されていた事を奇異に感じるかもしれないが、ケルンテンは日本人移民を多数受け入れていた上に海軍にも日系人がいたため、日単語もごく自然と受け入れられていた様だ。

 機体構造については基本的にエカテリーナと同一であった。しかし各部を水密構造とする必要があるため、また水中での抵抗を低減するため、外見はかなり異なっていた。特に頭部は潜水具の様な球状になり、複数方向に展視孔が開くと言う独特な形状をしていたため、陸上型との識別は容易である。
 また、内部構造も大いに異なっていた。当然ながら内燃機関は使用できないため取り外され、新たに蓄電池と気嚢が追加された。このうち気嚢は、浮沈装置としてではなく搭乗員への酸素供給のために使用されていた様だ。
 さて水中機として必須とも言える浮沈装置および推進装置であるが……残念ながら一切不明である。唯一残されている防水型エカテリーナの写真にも、それらしき装置の類は写っていない。もっとも、この写真は前方から写したものであるので、背中に何らかの装置が搭載されていた可能性はある。実際、運用時の記録を見ても海底ではなく海中での活動も多いため、何らかの浮沈装置および推進装置が搭載されていた事は確かである。

 武装に関してであるが、他の水中専用機と違って固定武装は施されず、全て手持ち式となっていた。その中でも主な武装は3連装(もしくは4連装)小型対潜弾発射器と格闘戦闘用の槍であった。3連装小型対潜弾発射器は触発式の榴弾が採用されていた。いわゆる爆雷を使用した場合、射程距離が短いため自機も損害を受ける恐れがあったためである。格闘戦闘用武装として槍が採用されたのは水中での取り回しを考慮してであったが、防水型エカテリーナの水中機動力に難があったためか実戦での使用例は発見できなきなかった。上陸戦闘を行う際には37ミリ小銃JM16(G)、20ミリ機関短銃JM35(MP)、手榴弾JM26(Gr)、手斧と言った陸上機と同一の武装を使用していた(もっとも、防水加工などが施された可能性はあるが)。

 防水型エカテリーナの運用であるが、武装を見てもわかるように水中作業・対潜水艦・対水中用装甲戦闘猟兵を主目的としており、対水上・対陸上戦闘はあまり重視されていなかった。これは必要な武装が開発されなかった事、何より防水型エカテリーナ性能そのものに難があったためである。そもそも防水型エカテリーナは習作的な強い機体であったが、他の機体と比べて容易に製造(既存陸上機からの改造)が出来たため、そしてマルヒ技術少佐の亡命によって水中専用機の実用化が遅れてしまったため、仕方が無く運用されていたふしがある。これは1938年5月中旬に行われた海軍内会議の中で、上陸戦闘能力を重視した防水型エカテリーナ中隊規模配備計画が、搭乗員を(当時まだ開発中である)水中専用機へ極力割り振りたいとの理由から却下された、と言う事からも見て取れる。しかし、例え性能に不満があろうと、ケルンテン(ほぼ)唯一の水中活動機であり、ケルンテン・グリューネラント・ドイツ海軍通じて最多配備機であったのは事実である。

 では実際の運用状況を見てみよう。防水型エカテリーナの初陣は1938年1月17日の事であった。マインファルケン湾内に侵入した呼称『タコラス』の邀撃へ水中専用機と共に投入されたが、反撃を受けて撃破されている。(なお残念ながら『タコラス』とは何物であるかを示す明確な資料は残されていない。少なくともグリューネラント海軍の秘密兵器と言った類の者ではなさそうである。今後、研究の進展によって新たな資料が発掘される事を期待する。)2月には3機が新たに追加され、3月12日まで先に撃破した『タコラス』の水中捜索に使用された。
 3月22日のアルゴナウト作戦(第二次トーテンコプフ沖海戦)では、活動時間の短い防水型エカテリーナを輸送艦バウメルンに2機搭載して西トーテンコプフ島沖まで輸送し、水中での機雷敷設作業を行わせている。この作戦で防水型エカテリーナは直接戦闘に参加しておらず、敷設した機雷も2基のみであったため、何ら戦果の無いまま引き上げる事となった。
 4月30日のケルベロス作戦(西トーテンコプフ島攻撃)では遂に上陸作戦が敢行された。防水型エカテリーナ2機はその水陸両用能力を活かして秘密地下軍港へと潜入・上陸を行った。潜水艦・水中用装甲戦闘猟兵・水上機は全て出払っていたためこれらを破壊する事は出来なかったが、手榴弾によって工員多数を殺傷した他、37ミリ小銃によって邀撃に出てきたリュフトフェン2機を撃破している。その後シュツルムG型と交戦、性能・火力共に劣っていたが(このシュツルムG型は37ミリ機関銃JMG35を装備していた)2機がかりで何とか撃破する事に成功した。しかしこの戦闘で防水型エカテリーナは2機とも大破し機体はそのまま放棄された。
 5月31日にはマインファルケン湾内にて単独警戒を行っていた機体がシュビムケーファー(グリューネラント軍の水中専用装甲戦闘猟兵)2機の攻撃を受けて撃破された。これは史上初の装甲戦闘猟兵同士による水中戦闘であった。
 6月18日、グリューネラント海軍による『灼熱の海』作戦でマインファルケン湾内に侵入したシュビムケーファー2機、『げんごろう』1機に対して3機で邀撃を行い、対潜弾の撃ち合いでシュビムケーファー1機が中破、防水型エカテリーナ1機が小破した。対潜弾によって泥が巻き上げられ視界が失われたため双方共に撤退したが、この混乱時に防水型エカテリーナ1機が『げんごろう』を捕らえ、必死攻撃によって両機とも沈没した。なおこれが唯一のパイロット死亡事例である。
 8月16日、ケルンテン海軍はマインファルケン市内のクーデター部隊に対して砲撃を行っていたがその際にドイツ海軍からの攻撃を受け、ブルーメ級特設護衛艦2番艦ムメルに搭載されていた防水型エカテリーナ1機を喪失した。なおこの時ケルンテン海軍は特設巡洋艦レヒフェルト、ブルーメ級護衛艦4隻、機動砲艇2隻を撃沈され、事実上壊滅となった。

 以上が防水型エカテリーナの運用実績である。まとめてみると

投入日投入数損失数敵撃破数
1月17日
2月16〜3月12日
3月22日
4月30日
5月31日
6月18日
8月16日
    
延べ作戦参加機数13
延べ戦闘参加機数
となる。戦闘参加機体の75%を損失という惨憺たる戦績であった。しかし4月30日の例もある様に、適切な運用さえ行えばそれなりの戦果を上げる事の出来る機体であった様だ。




参考文献

    遊演体ネットゲーム95「鋼鉄の虹」リアクション
      11月期
        行動処理No.061 ENT_「ジョッキの泡の蔭に」 担当マスター:金城首里
      12月期
        行動処理No.230 MAIN「海軍秘密工廠」 担当マスター:金城首里
      1月期
        行動処理No.100 MAIN「硅国海軍のクリスマス」 担当マスター:椎 冬利
      2月期
        行動処理No.092 MAIN「大奮闘! 硅嵐典海軍」 担当マスター:椎 冬利
      3月期
        行動処理No.158 MAIN「暮れ暮れタコラス」 担当マスター:椎 冬利
      4月期
        行動処理No.230 MAIN「アルゴナウト大作戦」 担当マスター:椎 冬利
      5月期
        行動処理No.082 MAIN「海賊島大空襲」 担当マスター:椎 冬利
        行動処理No.231 MAIN「大激闘! 海賊対空軍」 担当マスター:椎 冬利
      6月期
        行動処理No.080 MAIN「硅国海軍増強指令」 担当マスター:椎 冬利
        行動処理No.230 MAIN「輸送船団発進!」 担当マスター:椎 冬利
        行動処理No.232 MAIN「敵輸送船団見ユ!」 担当マスター:椎 冬利
      7月期
        行動処理No.088 MAIN「どうする硅国海軍?」 担当マスター:椎 冬利
        行動処理No.231 MAIN「灼熱に墜つ」 担当マスター:椎 冬利
        行動処理No.232 MAIN「敵輸送船団見ユ!」 担当マスター:椎 冬利
      9月期
        行動処理No.081 MAIN「硅海軍壊滅!?」 担当マスター:椎 冬利
    ネットゲームマガジン クリエイター 1995年11/12月合併号 (遊演体)




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