顕微鏡生物実験室22ジェリーボールと水滴

***”スマートフォン+ジェリーボール/水滴”で顕微鏡観察 ***

前ページ・”生物実験室21”、及び前々ページ・”生物実験室20”では、スマートフォン(スマホ)に無色透明のビー玉を組み合わせ拡大観察しました。
今回はそれより倍率を上げて顕微鏡と同程度にするため、直径2〜3mmのジェリーボールまたは水滴をスマホに組み合わせて観察してみました。
もちろん、顕微鏡としては高性能ではなく、像は鮮明ではありません。ただ、容易に入手出来るものを使ってこの程度の観察ならできるということです。


観察法
(1)レンズ用のジェリーボール及び水滴の用意
(上写真)
無色透明の球は、中心が周辺部より厚いので、凸レンズとして使えます。小さなほど倍率は高くなります。

1)ジェリーボール
ジェリーボールはポリアクリル酸ナトリウムという、水を吸う柔らかなプラスチックでできた透明な球です。別称は、アクアボール・アクアジェリー・クリスタルボールなど。植物を挿しておく目的のものはプランツボールとよばれることもあります。
着色されたものや芳香剤を含ませたものもあります。吸水させた直径7〜10mmくらいのものがよく市販されています。ここで使用したのは無色透明で、芳香剤を含まないものです。
直径7〜8mmのジェリーボールをプラスチック容器などに入れふたをせず、ほこりよけ用にその容器を紙袋に入れ放置しておくと水分が蒸発して、5〜6日で直径2〜3mmになります。
2)水滴
最初から用意するのではなく、下の(4)の段階で行います。爪楊枝の尖っていない方の先に水をつけ、直径2〜3mmの球状になるように置きます[上の写真及び下の図3)を参照]。

右上写真-方眼紙(最小方眼の一辺は1mm)の上に薄い透明なプラスチック板をのせ、その上にジェリーボールや水滴を置きました。

2)観察用具の台の作成 (図1)
透明プラスチック板(OHPシートや市販惣菜容器のふたなど)を、10mm×45mmに切ります。パンチで穴をあけた黒い発砲スチロールやスポンジシート片(すき間テープなど)を図1に示したサイズに切り、両面テープで貼りつけます。プレパラート台とするスポンジシート片(すき間テープなど)の高さは、レンズとして直径3mmのジェリーボールを使う場合は8mmが適当ですが、2mmのジェリーボールではもっと低いのが適当です。

3)プレパラートの作成 (図2)
スライドガラス用の透明プラスチック板を図2のように切ります。これにサンプルをセロハンテープで貼るか、2枚の透明プラスチック板で挟みます。

(4)スマホにセットする(図3)
スマホをインカメラ撮影モード(自撮りモード)にして、平らな明るいところに置きます。インカメラの上に、観察用具の台を、その黒い発砲スチロールの穴にジェリーボールまたは水滴レンズを置きます。ジェリーボールは、ピンセットではさむと扱いやすいです。水滴は、爪楊枝の尖っていない方の先に水をつけ、直径2〜3mmの球状になるように置きます。失敗したら綿棒かティッシュペーパーで吸い取り改めて試みます。最後にプレパラート台の上にプレパラートを置きます。

5)ピントあわせ・観察・撮影 (図4)
スマホのディスプレイの像を見ながら、ピントを合わせます。その方法―プレパラート台はスポンジなので、左右のプレパラート台の上からプレパラートを押すとプレパラートは下がってジェリーボール(又は水滴)に近づきます。押す力を緩めるとプレパラートは上がります。プレパラートを上げ下げして、最もピントの合う位置を探し、その位置で観察・撮影をします。

図1-観察用具の台  図2-プレパラート  図3-セットのしかた  図4-ピントのあわせ方 



観察・撮影の例

(1)直径3mmのジェリーボールでの観察・撮影

1)花粉 ( 左-ユリ 右-オシロイバナ )

花粉 

ユリの花粉は米粒形、オシロイバナの花粉は球形でした。
サイズがずいぶん違います。あらゆる花粉のうちで、オシロイバナの花粉は最大級だということです〔下記参考資料3)〕。 

2)植物の組織( 左-サツマイモの皮 右-ノハカタカラクサ<別名トキワツユクサ>のおしべの毛 )

植物の組織   サツマイモの皮は色素の色がとても美しく、細胞ひとつひとつが見分けられました。

ノハカタカラクサ
左の写真がノハカタカラクサです。このようにおしべには細い毛が生えており、スマホ顕微鏡でみると、この毛は、細胞が縦に連なったものでした。
近縁のムラサキツユクサやムラサキゴテンなどのおしべの毛も同様に見えます。

3)うろこと鱗粉( 左-サケのうろこ 右-チョウの鱗粉 )

うろこと鱗粉 

 サケのうろこには、年輪のようなスジが見えました。成長のよい時期と悪い時期を繰り返すことによってできますが、必ずしも1年に1つできるとは限らないです。

 チョウの鱗粉は、透明セロハンテープをチョウの翅に押し付けて とりました。ひとつひとつが屋根瓦のようにきれいに並んでいます。


(2)直径2mmのジェリボール/水滴での観察・撮影

同じサンプルを直径2mmのジェリーボールと、直径2mm前後の水滴レンズで観察しました。水滴をいつも正確に直径2mmにするのは困難でした。また、球にならず歪んだ形にもなりやすいです。下の例3つはいずれも、左がジェリーボール右が水滴をレンズでの観察です。

1)オオカナダモの葉

オオカナダモの葉 

左-ジェリーボールのレンズでは、細胞ひとつひとつと、不鮮明ながらその中の葉緑体も見えました。

右-この水滴レンズ は大きすぎたため倍率はルーペほどにしかなりませんでした。

2)タマネギの鱗片葉の表皮

タマネギの鱗片葉の表皮   


左-ジェリーボールのレンズでは、サンプルを染料で染色すれば、核が見えるかもしれません。


右-この水滴レンズ は、かなり小さく(直径2mm以下)できたためこの程度に見えました。

3)チョウの鱗粉

 チョウの鱗粉

左--ジェリーボールのレンズでは、鱗粉の花びらのような形が見られました。


右-この水滴レンズの直径 は、ほぼ2mmにできました。
花びら形は見えませんが、屋根瓦状の配列は分かります。


後記

1)前ページ・前々ページの無色透明ビー玉(直径17mmと12.5mm)をレンズとする観察は、倍率は低いものでした。高倍率で観察するにはもっと小さな無色透明玉が必要です。直径2〜3mmの無色透明ガラス玉はネット販売で購入できますが、もっと手近に入手できるものをということで、ジェリーボールと水滴を使ってみました。何とか”顕微鏡”と名乗れるほどの倍率(40〜100倍)にはなりました。ただ、像の鮮明さはちょっと及びません。1台数万円の顕微鏡にはもちろん、「Leye-スマホ顕微鏡」〔下記参考資料1)〕にも。

2)同じ直径のジェリーボールと水滴とでは、ジェリーボールの方が高倍率です(例-チョウの鱗粉)。なぜなら、観察台に置いた水滴は半球ですが、ジェリーボールは全球ですから。ジェリーボールは、半球2つを重ねていることになるので水滴より拡大率が高いです。屈折率の違いもあるでしょう。

3)レンズとしてのジェリーボールと水滴を比べると−手近という点では水滴ですが、歪みのない完全な球状でかつ直径2mm以下にするのは簡単ではありません。また、蒸発したり、ちょっとの衝撃で形が変ったり流れたりもします。ジェリーボールは直径2〜3mmにするには手間が要りますが、観察・撮影の際は水滴より扱いやすいです。ピンセットで扱っても壊れることはありませんでした。

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[参考資料] 1)Leye-スマホ顕微鏡(http://leye.jp/)
2)『植物の顕微鏡観察』(P104〜105)(地人書館)井上勉-監修
3)『花粉学』(P27)(講談社)岩波洋造-著


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