顕微鏡生物実験室3.

**セイロンベンケイソウの不定芽形成に対する諸条件の影響**

セイロンベンケイソウ 不定芽
セイロンベンケイソウ 葉のふちに形成された不定芽



ベンケイソウ科の多肉植物セイロンベンケイソウの葉を茎から切りとっておくと、やがて葉のふちのくぼみのところに根と芽が形成される(上の写真)。次のような条件が、不定芽形成にどのような影響をおよぼすかを調べた。

2.葉の大きさ 3.葉をいくつかの片に切断する 4.温度 5.植物ホルモン 6.重力


1.水
セイロンベンケイソウの葉を茎から切りとって、水を浅く入れたシャーレーや、水を含んだ土の上に置くと、やがて葉のふちに不定根が、続いて不定芽が形成される。しかし、切り取った葉をそのままピンで壁に止めておいたり、本のページの間に挟んでおいても、不セイロンベンケイソウ・スケッチ1定芽はできる。水の存在は不定芽形成についてプラスかマイナスか調べてみた。

(方法)
葉を葉柄で切り取る。
(1)10枚は2〜3mmの高さに水を入れたシャーレーの中に置く。
(2)ほかの10枚は、水を入れないシャーレーの中に置く。
実験期間は1994年9月16日〜10月29日。
(結果)
右上の図は、43日後に(1)(2)それぞれの平均的な状態の葉をスケッチしたもの。左が(1)、右が(2)
水がある場合の方が不定芽の成長状態はよい。




2.葉の大きさセイロンベンケイソウ・スケッチ2
小さな葉にも不定芽が生ずるかどうか

(方法)
長さの平均値がそれぞれ、8.3cm、1.7cm、0.7cmの葉を10枚づつ、2〜3mmの高さに水を入れたシャーレーの中に置く。実験期間は1994年10月27日〜11月26日。
(結果)
右の図は30日後にそれぞれの平均的な状態の葉をスケッチしたもの。
長さ1.7cmの葉には不定根は生じたが、不定芽は生じなかった。また長さ0.7cmの葉には、そのどちらも生じなかった。
あまり小さな葉には不定芽は生じにくい。




3.葉をいくつかの片に切断する
葉をいくつかに切ると不定芽ができるか?
セイロンベンケイソウ・スケッチ3

(方法)
(1)葉の周辺部を残し、内側の部分を切り取る(右図、左側のもの)。
(2)葉を2〜数個の片に切り分ける。どの片にも、葉のふちの くぼみを含むようにする。最も小さい片は、右図の右の2つのように、葉のふちの くぼみ1つを含むもの。
(3)葉のふちの くぼみを含まないよう、小片を切り取る。
実験期間は1994年10月27日〜11月26日。
(結果)
右の図は30日後のスケッチ。
(1)は不定芽、不定根を生じた。生じる部位は必ずふちの、くぼみの部分である。
(2)も(1)と同様な結果であったが、右図の右の2つのように小さな片には、不定根だけが生じた。
(3)不定芽、不定根とも全く生じなかった。
不定芽、不定根を生ずるのは必ず、葉のふちのくぼみの部分からである。葉をいくつかの片に切断しても、そこからの不定芽、不定根の形成は起こる。しかし、あまり小さな片には、不定根は生じたが、不定芽は生じなかった。



4.温度

セイロンベンケイソウは熱帯に分布する多肉植物で、寒さには弱い。どの程度の気温ならば、不定芽を形成できるのか?
セイロンベンケイソウ・スケッチ4
(方法)
平均の長さ8.3cmの葉を20枚を2〜3mmの高さに水を入れたシャーレーの中に置く。、
(1)10枚は常温に置く。
(2)、あとの10枚は5℃のインキュベーター内に置く(ガラス窓を通して光は入る)。
実験期間は1994年10月27日〜11月26日。
(結果)
右の図は30日後にそれぞれの平均的な状態の葉をスケッチしたもの。
左が常温に置いたもの、右が5℃のインキュベーター内に置いたもの。
常温に置いたものには、不定根と平均10mmの長さの不定芽が生じていた。しかし、5℃のインキュベーター内に置いたものには、どれも不定根、不定芽は全く生じなかった。
5℃以上の、どの程度の温度ならば不定根や不定芽を生ずるかは、さらに実験する必要がある。


5.植物ホルモン
葉で作られた植物ホルモンの移動が妨げられると、不定芽の形成が促進されるという(下記文献2)。それでは、外部から植物ホルモンを与えると不定芽形成に、どのような影響がでるだろうか?

(方法)
オーキシンの一種である2,4−Dと、サイトカイニンの一種カイネチンについて試してみた。これら、2種類の植物ホルモンの10−9〜10-4mol/lの濃度の溶液を入れた三角フラスコに、茎から切り取った葉を挿しておく。
別に対照実験として、水を三角フラスコに入れたものにも葉を挿しておく。
(結果)
2,4−Dとカイネチン どちらの濃度の溶液についても、不定根、不定芽形成への影響(促進、阻害とも)は特に認められなかった。
ただし、カイネチン10
−6mol/lの溶液に挿しておいた葉の切り口は、ふくらみカルス様になっていた。



6.重力
切り取った葉を裏返しておいても、葉の下側(表)に根が、上側(裏)に芽がつくられる。では裏表の上下を、1日に数回取り替えると不定芽はどのように形成されるだろうか。

(方法)
平均の長さ8cmの葉20枚を2〜3mmの高さに水を入れたシャーレーの中に入れ、常温に置く。
(1)10枚は午前10時、午後4時、午後10時に葉の裏表の上下を取り替える。
(2)ほかの
10枚は、対照実験として葉の表を上にしたままにしておく。
実験期間は1999年9月17日〜10月17日
(結果)対照実験・不定芽水平に伸びた不定芽
右の写真は30日後に(1)(2)それぞれのうち、平均的な状態の葉を撮影したもの。左が(1)、右が(2)。
日3回葉の裏表の上下を取り替えたものは芽も根も、水平方向に伸びている。
そして、根の発育状態が著しく悪い。




参考文献
1)絵をみてできる生物実験(講談社サイエンティフィク)岩波洋造・森脇美武著
2)ほんとの植物観察(地人書館) 室井綽・清水美重子−筆者代表

このサイト内の、セイロンベンケイソウ関係のページ
 生物実験室1(CAM植物の葉の組織内のpH変化)
生物実験室15(セイロンベンケイソウの不定芽形成とその後の生育)


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