大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 共通パート Part.1 〜
震天 さん
どうも俺の周りには変な奴が多い。
美紀曰く、俺自身を筆頭にしているから類友らしいが。
だが、それでも非常識というわけではない。
……何が言いたいかというと、その非常識が俺のすぐ傍にいて、周りまで巻き込
んでいる。
西守歌:涼様。春休みになりましたら、旅行も兼ねてスキーに行きませんか?
涼 : は?
これがその問題の、自称・婚約者の益田西守歌。
見た目に関しては俺も認める絶世の美少女。
料理や洗濯等の家事も完璧にこなす大和撫子。
……なんだが、見た目ではわからないが、こいつ、性格が最悪だ。
どう最悪なのかは……その内わかるだろう。
涼 : 随分急な話だな。
西守歌 : 北海道の高級ホテルに予約を入れてます。今から楽しみですね♪
涼 : おい……。
こいつ、さっき、行きませんか? と尋ねたばかりなのに、なんでもう予約入れ
てるんだよ。
涼 : 誰も行くなんて言ってないだろう!? 大体、そんなところに泊まれるほ
ど金は……!
西守歌 : 心配ご無用。代金は全て私が払いますから。
涼 : ……。いや、そもそも今度は何を企んでいる? お前が無条件でそんな
美味しい話を持ってくるはずが無い!
西守歌 : そんな人聞きの悪い。それではまるで、旅行に誘ってあげますから婚約
者として認めてください、と言っているみたいじゃないですか。
涼 : 俺にはそう聞こえる。
西守歌 : ……即答なんですね。
涼 : そもそも、俺はお前と旅行に行く気はない! お前とそんな旅行に行く
くらいなら、明鐘をどこか小旅行に連れて行ったほうが100倍、いや、一億
倍マシだ!
西守歌 : 誰も涼様と二人っきりで行こうなんて言ってませんよ。涼様が、そのほうが
良いとおっしゃるのでしたら……。
涼 : さて、そろそろ食堂に行くか。
こういうときはこいつを無視するに限る。
西守歌 : 涼様酷い! 私を散々弄んだ挙句、ポイっと捨ててしまうんですね!
それはあんまり―
涼 : 物凄く人聞きの悪い事を言うな!
美紀 : 涼、女の子はもう少し優しく扱ってあげなきゃ。
涼 : ……お前まで誤解を招くような言い方するな。
これは俺の幼馴染の守屋美紀(もりやみき)。
バカな冗談言い合える貴重な友人だが、時にこうしてシャレにならない冗談を言
ってくる。
それじゃあ、俺が西守歌とどうにかなってるみたいじゃないか。
誰がこんなバカ女と……。
西守歌 : 涼様ったら、毎晩毎晩私を乱暴に攻めるので、私少し寝不足で……。
美紀 : よしよし、可哀想に。
涼 : 頼むから既成事実みたいなのをでっち上げるのはやめてくれ。
美紀 : まあ、冗談をこれくらいにして。いいじゃない、スキー旅行。
私も楽しみにしてるんだから。
涼 : ん? お前も行くのか?
美紀 : うん。だって、私達も誘われてるもん。ね? 笑りん。
笑穂 : ああ。
俺の斜め後の席に座っている見た目お嬢様然としているのが陸奥笑穂。
俺からは『お嬢』、美紀からは『笑りん』と妙な呼ばれ方をしている。
お嬢曰く、『二人が親しみをこめて呼んでくれているから、強いて「やめてくれ」
と言わない』、だそうだ。
だから、俺も美紀も呼び方を改めるつもりは無い。
笑穂 : しかし、水原のその反応からすると、旅行の話を聞くのは初めてのよう
だな。
美紀 : あれ、そうなの?
涼 : ああ。二人は前から知っていたのか?
笑穂 : ああ。一週間前から誘いを受けている。
涼 : ほぉ……。
西守歌に冷たい視線を送ってみる。
西守歌 :美紀様も笑穂様も、快くOKしてくれましたわ。
案の定、俺の冷たい視線はあっさりと無視された。
都合のいい事しか聞こえない耳といい、やっぱりこいつ、良い性格してる。
笑穂 : 私の場合、快くOKした、という部分の訂正を願いたいものだ。
美紀 : どういうこと?
笑穂 : どういうわけか、旅行の事を家族にしたところ、全員が声を揃えて、
「行ってきなさい、いや、行くべきだ。というか行きなさい」という
三段活用で勧められたのでな。
美紀 : ……。
涼 : おい、お前、なんかしたのか?
西守歌 : さあ、何の事でしょう? でも、時々思いますわ。
美紀 : 何を?
西守歌 : 権力って、すごく便利だと思いませんか?
涼・美紀・笑穂:……。
……またか……。
そういえば、さっき言い忘れたが、こいつは世にも奇妙な15歳の高校2年生だ。
どう奇妙かは頑張って考えてくれ。
そのときも、俺の質問に対してこいつは万人を騙せる素敵な(俺には悪魔の微笑
みに見えたが)笑顔でこう言った。
西守歌 : 権力って、便利でしょう?
何をしたのかは深くは考えまい。
というより、それを知るのが怖いと言うのが正直なところか。
美紀 : でもまぁ、スキーは楽しみだよね。
笑穂 : ああ。その話題にして、変なことを考えないようにしよう。
涼 : 同感だな。
特に打ち合わせしたわけではないが、満場一致でそういうことに決まった。
二人が物分りが良くて助かる。
西守歌 : ああ、それと。春希様と百合佳様、後、百合佳様の御令妹、あやめさ
んもお誘いしてますので。
涼 : ? 百合佳さんとあやめちゃんはわかるけど、ハルも?
武笠春希。
俺と明鐘の従兄弟にして、保護者。
なぜかここ数年、ずっと29歳。
バレンタインの時、免許証を見せてもらったけど、俺の知っている生年月日の生
年だけがなぜか合わない。
とにかく、謎が多い人物だが、男の俺から見ても見た目は美青年。
だが、中身はこれまたすごい事なのだが、それはまあ、後にしよう。
それより、俺が気になったのはハルが仕事を後回しにして旅行する?
俺が知る限り、ハルはそんなことは絶対にしない。
美紀 : ハルさんも来るんだ。なんか意外。
笑穂 : 保護者として呼んだ、というわけではないのか?
涼 : いや、多分違うな。
俺の横で終始笑顔の西守歌に悪寒を覚えつつ、学校での会話はこれにて終了だ。
ここから先は俺の知らない泥沼の世界に足を突っ込みそうになる。
根拠は無いが本能的にそれを感じ取る。
で。
学校も終わり、プラーヴィでのバイトの時、俺はハルに旅行の事を聞いてみた。
涼 : ハル……、じゃない、マスター。
春希 : ん?
喫茶店プラーヴィのマスター兼店長でもあるハルのここでの仕事、それは指定席
で別の仕事をする事。
喫茶店で真面目に働いている他の店の店長から見ればそんな理不尽な話があるか、
と苦情が来そうだが、実際ちゃんと売上に貢献しているから文句のつけようがない。
どう貢献してるかは……察してくれ。
ちなみに、俺は普段、ハルと会話するときはタメ口だが、仕事中はちゃんとした
敬語で話す。
これはハルの営業方針だし、逆らったら後が怖い。
春希 : なんだ? 今は仕事中だ。用件は手短に言え。
涼 : はい。あの、西守歌が持ち出した旅行の話についてなんですが……。
俺がその話を持ち出した瞬間、ハルはなんだか嫌そうな顔をした。
なんか俺、変なことでも言ったのか?
春希 : 涼。
涼 : はい?
春希 : 詳しい事はお前の婚約者に聞け。それか百合佳にだ。
涼 : だから、婚約者じゃないって……。
春希 : それはどうでも良い。それより、コーヒー。
涼 : ……かしこまりました。
ハルがあそこまで露骨に嫌がるのも珍しいな。
あれに聞いてもはぐらかされるだろうし、百合佳さんにでも聞くか。
カウンターに戻り、コーヒーを淹れる準備をする。
涼 : ねえ、百合佳さん。
百合佳 : ん? なに、涼君。
涼 : 西守歌から旅行の話、聞いてる?
百合佳 : うん。涼君と二人で行くつもりだったけど、二人きりだと了解しても
らえないだろうってことで、誘われちゃったの。涼君愛されてるね。
……らぶらぶ?
涼 : 嫌なこと言わないで下さい。
大体、俺はあいつが俺の婚約者と認めたわけじゃない。
あれが勝手にそう勘違いしてるだけだ。
涼 : それはそうと、ハルも行くんだろ? よくハルが休みを取ったね。
百合佳 : 取ったと言うか……取ってもらったと言うか……。
涼 : ……あいつがなんかしたんですか?
百合佳 : 西守歌ちゃんがその話を持ち出したとき、春希さん、当然のように断
ったの。『今の俺に旅行に行くだけの余裕はありません。休みを取る
つもりもないので、涼達と行くといいでしょう』って。
涼 : まあ、それがハルの当然の答えだな。
百合佳 : それで、西守歌ちゃんがね、『では、休みが取れたら、春希様もいら
っしゃってくれるんですよね?』って言ったの。
涼 : ……なんとなく想像できたけど……それで?
百合佳 : 西守歌ちゃんが、既に旅行の日の休暇をとってあったの。春希さんが
直接確認したから、間違いないと思うの。
百合佳さんが苦笑しながらそういった。
なるほど、だからハルが顔をしかめたのか。
触れられたくない話題と言うわけか。
涼 : なるほどね。……これ、ハルのコーヒー。
百合佳 : 了解。
コーヒーカップを百合佳さんに渡すと、百合佳さんはハルの元へ行った。
まあ、あの二人が旅行に行くなんて滅多にないだろうから、どんな形であれ、旅
行できると言う点では大きいだろう。
……どんな形でも、な。
バイトも終わり、家へと帰った俺。
それを出迎えたのは困惑気味の我が自慢の妹、明鐘だった。
明鐘 : おかえり、兄さん……。
涼 : ただいま……。どうかしたのか?
明鐘 : うん……。ねえ、西守歌ちゃんから旅行の話、聞いた?
涼 : ああ、そのことな。ちょっとあいつにも文句があるから、飯食いながら話そ
うか。
明鐘 : うん。
西守歌が居候するようになってから夕食は家で食べる事が普通になってきた。
それに関しては感謝はしている。
だが……。
涼 : それとこれとは話が別だ。
西守歌 : はい?
居間では西守歌が既に夕食の準備を終え、茶碗にご飯を入れているところだった。
西守歌 : あの、涼様……。いくらなんでも、省きすぎではないでしょうか?
涼 : ふむ。確かにそうだな。じゃあ、改めて……お前。何で俺と明鐘には黙っ
て美紀やお嬢たちに旅行の話を持ちかけたんだ?
西守歌 : だって、涼様にいきなり持ちかけてもお断りされるのがわかってまし
たから。
明鐘 : で、でも、私たちにだって予定はあるんだし、そんな、直前で言われて
も……。
ちなみに、春休みに入るのは明後日だ。
西守歌 : あ、そのことでしたら問題ありません。お二人のその日の予定は全て
こちらでキャンセルしておきましたので。
涼・明鐘:はい?
西守歌 : ですから、安心して旅行に行けますよ。
涼 : ……どうやって俺たちの予定を調べたのかはあえてふれないでおこう。
どうせ非合法な手段をとったに違いない。
知らぬが仏だ。
涼 : だが、こっちの了解もなしにそういうことをするのはやめろ!
明鐘 : あ、ここ知ってる。ここ、結構有名なホテルでしょ? なんだか悪いよ。
西守歌 : お気になさらないで下さい。私が皆さんをお誘いしたんですから、こ
れくらいは……。
涼 : ……。
どうも向こうの都合が悪くなるような事は聞こえないようだ。
もはや何をいっても無駄なんだろうか?
明鐘 : 兄さん。
涼 : ん?
明鐘 : せっかく誘ってくれたんだから、お言葉に甘えさせてもらおうよ。
涼 : しかしだな……。
こいつが何の見返りも求めずこんなことするはずがない。
表向きは無条件でも、いざ旅行に行ったら絶対に何か要求してくるはずだ。
明鐘 : 今から楽しみだね、兄さん♪
涼 : うっ……!
明鐘の笑顔を目にした俺に残された選択肢は……。
涼 : ……結局、こうなるのか……。
あれから明鐘が旅行をすっごく楽しそうに旅行の話をするから断るに断れなかった。
……俺、やっぱり妹には甘いか……。
美紀 : しっかし、自家用機で行くとはねぇ〜。
笑穂 : ああ。これには私も驚きだ。
百合佳 : ほら、春希さん。もうここまで来ちゃったんだから、そんな顔をしな
いで……。
ハルは未だにこの旅行に納得してない様子。
そりゃ、無理矢理仕事を奪われたような感じがしないでもないが……。
美紀 : ところで、鐘ちゃん。私たちを誘った張本人の西守歌ちゃんは?
明鐘 : え? 乗ってないの?
涼 : どうせなんか悪巧みでもしてるんだろう?
あやめ : 西守歌さんって、悪い人なんですか?
笑穂 : そんな事はないぞ。
涼 : そんな事ある! お嬢はあいつの腹黒さのほんの一欠けらしか知らんから
そういうことを言えるんだ。あいつの本性は悪魔に魂を売ったような極悪さだ!
美紀 : そこまでムキになって力説しなくても……。
涼 : 食べ物で懐柔された奴が否定しても説得力ないぞ。
美紀 : 出発前から喧嘩売ってくれんじゃない。
涼 : 今ならサービスであのバカをつけてやるぞ、マダム。
美紀 : 誰がマダムかっ!
春希 : 涼。
涼 : なに?
春希 : どうせ売るなら高値で売れよ。
涼・美紀: ……。
ハルのその一言で俺も美紀もいつものおふざけをする気力がうせた。
そして、今回の事件(?)の元凶がやってきた。
西守歌 : お待たせしました♪ 涼様!
涼 : ……あえて無視してもいいだろうか?
美紀 : なんで私に聞くのよ……?
あやめ : わあ! かわいいですね♪
百合佳 : 本当。西守歌ちゃん、もとが良いからなに着ても似合うよね。
西守歌 : ありがとうございます。
まあ、こいつが可愛いとかどうとかはこの際おいておこう。
問題はこいつの格好だ。
……どう見ても、なあ……。
涼 : ハル、どう思う?
春希 : 俺に振るな。お前の婚約者だろう。
涼 : だから違うって……。
百合佳 : 涼君。
涼 : はい?
百合佳 : あつあつ?
涼 : 断じて有り得ん……。
ハルと百合佳さんの大いなる誤解をしているようだが、俺はこいつが婚約者と認
めてない。
と言うより、認めない。
西守歌 : 涼様。似合いますか?
涼 : 知るか。大体、なんだその格好は?
西守歌 : スチュワーデスです。
涼 : 見りゃわかる。
西守歌 : では、似合いますか?
涼 : 馬子にも衣装、ってとこだな。
西守歌 : おしいですか?
涼 : 的外れだ。お前がなに着ても……。
西守歌 : では、いっそのこと何も着用せずに……。
そう言って服に手をかけ、ボタンを外して……。
涼 : バ、バカ! こんなところで脱ぐ奴があるか!
明鐘 : 西守歌ちゃん! 今から北海道に行くのに、裸になったら風邪引いちゃ
うよ!
美紀 : 鐘ちゃん。そういう問題……?
西守歌 : ですが、涼様に気に入ってもらえないと言う事は、私に服を着る資格
がないのと同意なのです!
このまま放っておいたら本当に脱ぐのだろうか?
こいつにも人並みに羞恥心があれば途中で止めるだろう。
西守歌 : 涼様……止めてくださらないのですか?
涼 : 本当に脱ぐ気があるならやってみろ。
明鐘 : に、兄さん!? それは人としてどうかと……。
美紀 : こういうのってなんていうんだっけ?
笑穂 : ストリップではなかったか?
春希 : 性的虐待でもあるな。
百合佳 : ドメスティックバイオレンス?
あやめ : 違うと思う……。
西守歌 : 涼様……。私の事をあれほど嫌ってらしたのに、私の裸体を見たいと
思うほど私の事を慕ってくださっているのですね!
涼 : ……は?
なんか、大いに誤解してないか、こいつ?
西守歌 : では、お恥ずかしながら、益田西守歌。脱がせていただきます!
明鐘 : に、兄さん! 見ちゃだめぇー!
美紀 : その前に西守歌ちゃんを止めないと!
笑穂 : 水原。お前が止めたほうがいいんじゃないか?
涼 : やっぱ止めないとやばいか?
春希 : ごちゃごちゃ言ってないでさっさと止めろ!
ハルはそう言って俺を蹴飛ばした。
今まさに、服を脱ごうとしている(フリだと思うが)西守歌のほうに。
涼 : おわっ!?
西守歌 : あら? あらら♪
当然、俺が西守歌を押し倒すような形になるわけで……。
ハル、絶対わかっててやったな……。
美紀 : おぉー。涼ってばこんな公衆の面前で……。
笑穂 : 良いではないか。婚約者同士のスキンシップだろう?
明鐘 : でも、兄さんが西守歌ちゃんを襲ってるようにしか……。
あやめ : これって、私たちが見ても良いんですか?
百合佳 : あやめ! 本当は見ちゃいけないのよ。
春希 : 保健体育の参考にすると良い。
おいおい、冗談になってないぞ……?
涼 : って言うか、明鐘。お前、俺を見捨てたか?
明鐘 : うぅん。そんな事ないよ。私は、いつまでも兄さんの味方だよ?
涼 : じゃあ、何で見てるだけなんだ?
明鐘 : 面白そうだったから♪
涼 : ……。
そうか……。
俺も遂に明鐘に見放されたか……。
明鐘 : ……冗談だよ、兄さん?
涼 : いや、いいんだ。明鐘も遂に兄離れを……。
美紀 : というより、さっさと起きたら? ついでに、もうすぐ襲われそうだし。
涼 : は?
西守歌の方を見てみると、すぐ目の前まで迫っていた。
俺が顔を近づけてるわけじゃない。
向こうからやってきているのだ。
涼 : おい、自称・大和撫子。
西守歌 : なんでしょう?
涼 : 仮にも大和撫子を名乗るなら、そう簡単に貞操を捨てるような事はやめた
らどうだ?
西守歌 : まあ、涼様。私をそんな風に見てくださっていたのですね♪
涼 : いや、違う……。
西守歌 : ですがご安心を。私の全ては既に涼様のものです。ですから、涼様の
言いつけなら、羞恥心もドブにポイですわ。
ああ……なんかもう、収拾つかなくなってきたなぁ……。
涼 : こんな時、『パッと行く?』とかあったらなぁ……。
笑穂 : 『パッと行く?』?
美紀 : なに、それ?
涼 : ……ゲームが違うか……。
で、気付けばすでに俺たちが泊まるホテルの前についていた。
涼 : なんか、展開早くないか? というより、あの後どうなったけ?
美紀 : 別にもうどうでも良いわよ。気にしててもしょうがないし。作者の都合
って事にしときましょ。
そういうことを言っていいものなのか?
まあ、それはそれとして……。
明鐘 : 兄さん……。大きいね。
涼 : このホテル、こんなにでかかったんだな……。
テレビとかで見る限り、そうでもないのかと思ったけど。
俺たちのような普通の輩には縁がなさそうだな。
西守歌 : お気に召しましたか?
春希 : まあ、これで仕事の事に関しては少しだけ多めに見ましょう。
西守歌 : 少しだけですか……厳しいですね。
春希 : 本来なら、これくらいは請求するのですがね。
そう言って、ハルは西守歌に何か紙を渡す。
西守歌が受け取った紙を俺も覗いてみる。
興味本位で美紀も覗いているが、ハルが何も言わないところを見ると別に見られ
ても問題ないものなんだろう。
西守歌 : 請求書ですね……。うっ! あ、あの……春希様?
春希 : なにか?
西守歌 : これは……一体……。
紙の事に関して聞いているのではなく、その内容に関しての質問だ。
美紀 : なになに……。経営の臨時休業による損害利益、個人の有給休暇を勝手
に使った損害賠償。
涼 : ……は、はは……またか……。
確か前にもあったな。
あれは明鐘が客に絡まれたとき、西守歌が呼び出した黒服部隊の出した損害賠償
を請求してたな。
今回はあの時あった『ストレス発散の機会を失った精神的苦痛に対する慰謝料』
なんていう理不尽な請求は載ってないが。
笑穂 : 水原。お前の変な性格は彼譲りか?
涼 : ハルに比べたら俺なんてかわいいもんだろう?
笑穂 : まあ、否定はしないな。
美紀 : 笑りんもプラーヴィに行った時は気をつけたほうが良いよ。五月蝿くす
るとハルさんに追い出されるから。
笑穂 : 覚えておこう。
未だにハルの請求書とにらめっこしていた西守歌がようやく復活した。
西守歌 : おほん……。ま、まあ、この金額に見合うだけの内容にしています。
では、皆さん。早速チェックインしましょう。
やっとか……。
なんとなく忘れそうだが、ここは北海道。
外で喋ってるだけでかなり寒い。
ようやくホテルの中へ入れると言う事で俺は内心ガッツポーズをしてたりするん
だな。
美紀 : 涼。現実でもしてるわよ。
涼 : ……つっこむなよ……。
さて、ホテル入ってまず俺達(実際には西守歌だけど)を迎えたのは威厳あるお
じさんだった。
なんと言うか、ハルと同じような空気を持った人だよな……。
オーナー: これはこれは西守歌お嬢様。遠路はるばるようこそ御出でなさいま
した。
西守歌 : お久しぶりですわ、オーナー。二日間、お世話になります。
どうやらこの二人、顔見知りのようだ。
まあ、西守歌の実家は政府をバックにつけることが出来るような家系だ。
こういう高級ホテルのオーナーと顔見知りでもおかしくないか。
美紀 : すっごーい! ここのオーナーと知り合いだったんだ。
笑穂 : だが、いくら顔見知りとはいえ、客は客だ。言うほど安くはならないだ
ろう。
百合佳 : ねぇ、どんなお部屋に泊まるのかな?
明鐘 : そういえば、このホテル20階建てなんだよね?
あやめ : じゃあ、最上階に泊まれたら良いですね♪
涼 : 最上階だとスウィートルームとかの類になるんじゃないか?
美紀 : さすがにそこまで高い部屋に泊まると、気後れすると言うか……。
笑穂 : 私達には似合わんな。
俺達がこんな雑談をしている間に西守歌と一応保護者のハルがチェックインを済
ませてきたようだ。
春希 : いつまで入り口で喋っている。他の客の迷惑になる。
涼 : あ、ごめん……。
西守歌 : とりあえず、お部屋は3部屋用意してますので、そちらまで行きまし
ょう。
と言う事で移動する。
しかし、3部屋とはまた微妙な数だな。
明鐘 : ねぇ、西守歌ちゃん。私たちが泊まる部屋って何号室なの?
西守歌 : 詳しい部屋割りはまだ決めてないんですが、とりあえず、全ての部屋
は同じ階ですぐ近くですので、そうお気になさる事もないでしょう。部屋は
2001号室、2002号室、2003号室です。
涼 : 2000番台?
おいおい、まさかとは思うが……マジか?
涼 : マジだった……。
笑穂 : また私たちには似合わん部屋に泊まる事になったな。
美紀 : この機会逃したら一生入れないかもね。
明鐘 : し、西守歌ちゃん! こんなの悪いよ……。
涼 : 確かに……ちょっと遠慮したくなる雰囲気だよな……。
春希 : なるほど。俺の請求した金額と同等の内容だな。
ハルがなぜこんなに落ち着いているのかはさておき、西守歌が予約していたのは
このホテルのロイヤルスウィートルーム。
一人一泊するのに数十万円掛かるような部屋だ。
……ここに泊まれと?
西守歌 : 気にすることはありませんわ。ここのオーナーとは顔見知りですし。
笑穂 : だが、実際それほど値引きしてもらえないだろう? 私たち全員がこの
部屋に泊まるとなると、200万円はくだらないだろう?
涼・明鐘・
美紀・百合佳・
あやめ : に、二百万!?
西守歌 : 心配ご無用です。ここの代金は私が払うわけではありませんから。
春希 : なら、誰が払うのですか? 我々はあなたの好意でついてきました。今
更我々に払えなどという横暴な行為に出ないですよね?
西守歌 : もちろんです。今回の旅行は私達の親睦を深めるのともう一つ、私個
人のちょっとした嫌がらせです。
明鐘 : 嫌がらせって?
その言葉を聞いて少し思ったのだが、こいつの行動全てが嫌がらせだったのでは
ないだろうか?
……特に、俺に対しての。
西守歌 : いやですわ、涼様。私はただ、涼様への思いをぶちまけて……。
美紀 : 自称・大和撫子がぶちまけて、なんて言葉使う?
西守歌 : ……もとい、涼様へ愛を捧げに参りましたのに、嫌がらせだなんて酷
い!
涼 : 俺からすれば嫌がらせ以外の何者でもなかったが?
初対面で早々に爆発物を俺に取り付ける、不法滞在する、俺を絞め堕とす、一服
盛る、挙句の果てには俺のクラスにまで転校するし。
これが嫌がらせでなくてなんだと言うのだ?
西守歌 : 愛の成せる業ですわ♪
あやめ : 全て権力と腕力による物のように聞こえますが?
西守歌 : 私が白い物を黒と言えば、黒になるんですよ♪
美紀 : ……涼。
涼 : 言うな。俺に責任はない。
むしろこんなのを押し付けられたんだから俺は被害者だ。
西守歌 : まあ、そういうわけで、気にしないで下さい。
春希 : では、お言葉に甘えよう。
涼 : 順応早すぎだよ、ハル……。
西守歌 : ところで、早速スキーに行きませんか? 荷物はその辺にでも……。
美紀 : その辺はまずいでしょ……。
笑穂 : とにかく、部屋にまとめておこう。部屋割りはまだ決まってないとの事
だし。
涼 : 妥当だな。
とりあえず、真ん中の2002号室に全員の荷物を置いてもう一度廊下に集合した。
美紀 : ねぇねぇ、スキーの道具とかは? 借りれるの?
西守歌 : 既に揃えてます。
そう言って西守歌が指を鳴らした。
すると……。
黒服 : お持ちしました。西守歌お嬢様。
あやめ : ど、どこにいたんですか!?
明鐘 : 知らない方がいいと思う……。
俺も明鐘の言うとおりだと思う。
この廊下は隠れるようなところが全くないのに、この人はこいつが指を鳴らして
から間髪入れずに出てきた。
……忍者?
笑穂 : 水原。この人は?
涼 : 本人に聞けよ。
黒服 : 私、佐野と申します。
だから、見分けつかないって……。
佐野と名乗った黒服さんは荷物を俺達にそれぞれ渡してまたしても一瞬で消えて
しまった。
美紀 : 涼……。何であんたの周りってこんなのばっかりなの?
涼 : ……俺が聞きたい……。
一抹の疑問を数人が抱きつつ、俺達は渡されたスキーウェアに着替えてゲレンデ
に出陣した。
一面に広がる銀世界。
雲一つない青い空。
そこは俗世間の穢れを忘れさせてくれる。
……いや、忘れさせてくれるはずだった……。
笑穂 : 水原。考えてる事が手にとるようにわかるぞ。
涼 : ほう。では拝聴しよう。
笑穂 : 変なメンバーでの旅行になってしまったな。……どうだ?
涼 : △。
笑穂 : またか。良いせんをついたと思ったのだが。
涼 : 穢れの元がついて来たら元も子もないよな、が続かないとだめだ。
言うまでもないが、穢れの元とは西守歌のことだ。
涼 : お前はこの世界を見て少しは自分の考えを改める気はないのか?
西守歌 : これを期に涼様との心の距離を縮める算段を……。
美紀 : もう少し言いようを考えたほうが良いんじゃない?
西守歌 : 涼様はどうですか? 私を生涯の伴侶として認めるという気に……。
涼 : ならん。
西守歌 : 少しくらい考えてくれてもいいじゃありませんか。
「よよよ」といわんばかりに泣き真似をする西守歌。
涼 : ところで、みんなスキーの経験とかは?
西守歌 : あの、涼様? せめて何かツッコミを入れてくださらないと、私寂し
いですわ。
こいつのやる事にいちいちツッコミを入れてたらきりがない。
適度に無視するのが一番だ。
涼 : お前はどうなんだ? スキーの経験。
西守歌 : 初めてです♪
立ち直りの早いこいつのことだ。
多少無視されたところでなんとも思ってない。
明鐘 : 私は友達と一緒に屋内のスキー場で滑った事があるから。
美紀 : 私は初めて。
笑穂 : 私もだ。
百合佳 : 私とあやめは一度滑った事があるよね。
あやめ : お姉ちゃんは上手く滑れてなかったけど。
百合佳 : あやめ!
涼 : ハルは?
春希 : 多少かじった程度にはある。
ちなみに、俺も初めてだ。
つまり、経験者は明鐘、百合佳さん、あやめちゃん、ハルの4人か。
西守歌 : あの、せっかくメンバーが偶数なんですし、2人ずつ滑るのはどうで
しょう? 丁度リフトも二人乗りですし。
美紀 : まあ、この人数で固まって動くのもあれだし……。
笑穂 : まあ、それで良いだろう。で?
明鐘 : 問題はどういうペアで滑るか、だよね。
妥当な割り振りとしては、初心者が経験者と一緒に滑るのが普通だが……。
春希 : 俺は百合佳と滑る。あやめの話ではろくろく滑れんらしいからな。
涼 : ハルは上手いのか?
春希 : 上手いかどうか他人が見て判断するもの。そこまで自惚れるつもりはな
いが、人並みには滑れると思っている。
まあ、実際、ハルについていけるのは包容力が有り余っている百合佳さんだけだ
ろうな。
じゃあ、この二人はそれで決定だな。
春希 : じゃあ、俺達は先に行くぞ。
百合佳 : みんな、また後でね♪
ハルと百合佳さんがリフトに向う。
途中、百合佳さんがよろけていたので心配したが、さりげなく(本当にわかりづ
らいが)ハルがフォローをいれていたし、大丈夫だろう。
涼 : じゃあ、後はこっちか……。なんだ?
西守歌がずっと俺のほうを見てる。
……言いたい事はわかるのだが……。
笑穂 : 彼女の言いたい事もわかるが、水原の意思も尊重せねばなるまい。
西守歌 : 当然です。涼様は私と滑りたいと仰るつもりなんですよね♪
涼 : 人の意思を捏造するな……。
美紀 : じゃあ、涼。あんたは誰と滑りたいの? あんたがいるから残りの組み
合わせが決まらないんだし、あんたの意思を最優先にしてあげるわよ。
涼 : なんか俺、邪魔者扱いだな……。
まあ、実際、そうなのかもしれないな。
さて、俺は誰と滑ろうかな……?
・西守歌と滑る。
・明鐘と滑る。
・お嬢と滑る。
・美紀と滑る。
・あやめちゃんと滑る。
Please
Select!!
<<管理人が「Φなる・あぷろ〜ち」未プレイのため、コメント保留CHU!>>
……でもVivaお嬢様っ!!(ぉ
無断転載厳禁です。
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