蒼の島〜近づく秘密〜

 

柔らかい風が湖面をなでて行く。
何種類もの木々に囲まれた、何よりも蒼く美しい湖。
その湖の中央に少女は居た。
灰味がかったその青い髪と太陽の光をそのまま写し取ったかの様な金色の瞳は、 その場の風景にひどく良く合っていて、まるで絵画か何かの様にさえ見えた。
「…ふぅ」
少女の、その形の良い唇からため息が漏れる。
と、同時に後方から声がした。
「そのくらいにしておけよ。体、壊したら元も子もないぞ。」
少女の瞳が驚きに見開かれ…やがて、その視線が言葉を発した人物を捕えた。
漆黒と見間違うばかりの暗いブルネットの髪と闇夜に浮かぶ星月の様な銀の瞳の持ち主を。
「…
星徒(セイト)…」
『星徒』と呼ばれた、男と言うにはまだ若いその青年は、暖かい笑みを浮かべると少女に言った。
「あんまり無茶すんなよな。いざと言う時に倒れられたら困るのはオレ達なんだから。」
どこかおどけたようなその口調に、少女も笑顔で答える。

ひとしきり互いに笑いあった後、少女は再び口を開いた。
「それにしても…珍しいわね、アンタが1人でココに――清めの場に来るなんてさ。 水優様はどうしたの?…まさか、何かあったんじゃないでしょうね?」
「まさか。そんな訳無いだろ。それならお前の所より先に火摘(ホヅミ)様の所へ行くさ…。そう言う事じゃないんだ…」
急に変化した星徒の口調に、少女は怪訝な表情を浮かべる。
「…
陽留(アキル)…よく聞いてくれ。水優様が『鍵』とドリムテルゥー、それから魅影…じゃなかった、ミカゲを見つけられた。」
少女―――陽留が息を飲む。
「それって…まさか!?」
「そう言う事だよな、やっぱり…」
奇妙な沈黙がその場を支配する。
「また…やるの…?…やらなきゃ、いけないの…?」
不安気に陽留が問う。
星徒に、と言うよりは、むしろ自問に近い呟き。
「仕方ないさ…オレ達はその為に居るんだから…」
「……そうよね」

突然吹いた強い風に、ざあっと木々が揺れる。
2人とも、もう何も言おうとはしなかった。

 

磯の香りを潮風が運ぶ…。
本来ならここに喧騒等が加わる筈だが、それは無い。
船から港が見えてくる。
しかし、港に通常あるべき喧騒も大勢の人の姿も無い。
港は静まりかえっている…が、何かの事件に巻き込まれたわけでは無いらしい。
「静かやなぁ〜…船長、何であの港はあんな静かなん?」
ラルドの問いに船長は無表情(地顔らしい…)で言葉を返す。
「なぁに、あの島の神聖な感じに気圧されて皆黙り込んでしまっているだけさ。」
何か訳の解らない答えだが、言われてみれば納得できる。
「私はお先に島へ下りさせて頂きますよ」
セイはそう言って、飛行系の法術を使って島へ飛んでいった。

 

ボ〜〜〜〜ッッ…
汽笛の音が鳴り響き、港に船が到着する。
その桟橋より、 7人の顔なじみのパーティが降り立つ。
セイはいまだに帰 ってこない。
「よっっ ほっっ っと ちょっいさ。」
ウェルは、桟橋 の上を、軽やかに側転からムーンサルトで跳ね回る。
そして、最後に”ビシッ”と、ポーズを決める。
元気が 有り余っているようだ。

「さて、これからどうするか。」
カーレテシーは、長身をキョロキョロして、町の入り口より辺りを見回して言う。
「チキたちはこの島のどこかにいるって事で、俺らが大丈夫なら大丈夫なんじゃない。…ってことで 自由行動にしないか?」
レイオウ。
「おいっ、そんな簡単に決…」
カーレテシーの言葉をさえぎり、
「賛成〜〜」ウェル。
「異議な〜〜し」ケティア。
「私も〜〜〜」リリア。
「そんなら決定だな。夜にこの宿に合流って事で。そんじゃ、俺はさっそくこの町の名物料理を…」レイオウ。
「あっ、僕も、おなか減っているんだ。」ケティア。
「まあいい。それなら、俺は、刀鍛冶屋に刀を研ぎにでも行くか。」カーレテシー。

「あっあのっ、ラルドさん。」
「うん、なんや、リアちゃん。」
「あの、前の戦いの時に、服が破けちゃったじゃないですか。新しい服を仕立てに行きませんか?」
その時、カーレテシー、リリアの耳が30センチ程大きくなったのを見たものはいない。
(なっ、これは…ひょっとして、二人の仲を 一気に進展できるスペシャルイベント。しょっぴんぐ やないか〜〜〜。)
「行く行く行く〜〜。行こうやないか〜〜〜!!」
「うん!それじゃあね。お兄ちゃん。みんな。」
二人が並んで 歩いて行く。
そして、各自それぞれが、道に別れて歩き出した。
カーレテシーは、一旦見えなくなったと思うと、路地に入り込み、ラルド、リアの後ろ10メートルの物陰に隠れた。
二人を尾行するのはまるっきりわかる事だった。

さて、リリアは…。
「ふっふっふっ、あのはっきりしない二人、あやまちが起きないように、しっかり見張るしかないわね〜〜。」
「ただ”覗き”がしたいだけじゃん。」
「なんか言った〜〜(ギロッ)」
「いえっ何も。(超怖っ)」
「それならよろしい。 さあっ、行くわよ。ウェル!!」
さて、ラルドとリアのデートの行方はいかに?

道の曲がり角、その影に当たる部分に、その漆黒の服装と剣を溶け込ませ、その男はいた。
鍛えぬかれ、一片の贅肉もなく、頬の肉がこけるほど、鍛練を重ねた端整な顔立ちには、幾度もの修羅場 を超えた、見るものを凍り付かせる視線を発している。
しかし、その鋭いナイフのような視線の先のカップルには悟られないようにと、自分の殺気を押さえ、自分の気配も完璧に消している。
その視線の先には…ラルドとリアが、お互いに笑いながら、恋人同士とは言い切れない、中途半端な距離で並んで歩いている。
ラルドは、お得意のシャレで、リアを笑わせている。
リア「このお店でいいですか?」
ラルド「ええで。まあ、わいは、どこでもええしな。 リアちゃん、ばっちし、こーでぃねいとして〜や〜。」
そして別の角度の物陰には何故かリリア。
「ほら、こっちよ。こっち。けっこう、大きなお店ね。 さぁ、尾行開始よ。」
そして隣には、もう嫌だ…といった感じのウェルがいる。

 

―――― そのころ、ケティアとレイオウは、
「く〜〜っ、美味い!この魚は絶品だぜっ!」
「うんっ、美味しいね。でも、これって、この島だからなんだよ。」
「美味けりゃいい。美味けりゃ!」
「も〜〜ちゃんと聞いてよ。この島を包む、神聖魔法のエネルギーフィールドで、こんなに美味しい魚が取れるんだよ。僕の魔法の闇術に拒絶反応起ってるし。
確かセイさんが、そんなこと言っていたでしょ…って、聞いてるの?レイオウ」
「フガフガッ」
レイオウは、口いっぱいに料理をほおばっている。
(そう言えば、カーレテシーさんって、あの、真っ黒い剣を使うんだよなぁ。だとすると、うまく剣を使えないんじゃ?
でも、暗黒剣って、剣士の中で外法っていうのじゃないっけ?なにか、訳があるのかな?)
「そう言えば、セイさん、何してるのかな」

 

所変わって森の中。
黒い岩の柱と白い岩の柱の狭間にセイは立っている。
瞑想でもしているのだろうか、セイは微動だにしない。
そんなセイに、突然現れて抱き付く少女…少女?
「セイマさまぁ〜お久しゅうございますぅ〜」
この独特の喋り方でわかるでしょうが、セイに抱き付いた少女の名は水優。
「水優さん、お久しゅう。私の事はセイと呼んでください」
「えぇ〜、セイマさまはぁ〜、セイマさまですよぉ〜」
「まぁ、いいですけど。水優さん、少し下がっていてください。」
微笑を浮かべてセイは言う。
水優も素直に後ろに下がる。

白の柱と黒の柱が光と闇を放ち始める。
同時に、セイの持つ杖から刃が現れ、鎌となる。
「混在する場より出でし鎌、聖にて白を断ち、魔にて黒を絶つ…」
そう唱えながら鎌を一振りする…白の柱と黒の柱が真っ二つに切り裂かれる。
鎌の刃が消え、杖に戻った所で…セイは倒れてしまった。
「セ、セイマさまぁ!?」

 

俺は…何をしているんだ。)
そう心の中でつぶやく カーレテシーは、気配を消していて、さらに自分の心までも消えてしまうような虚無感に苛まれていた。
(リアは、年頃の女の子だぞ。恋人がいて当たり前じゃないか?俺は、ラルドを認めていないのか?いやたとえ、他のどの男でもこうイラ立つんだろう。これでは、兄失格だ…)
ラルドは、ニコニコ状態で、リアの決める服を何着も試着している。
「もう、じれったいわね!でもまあ、最初はこんなカンジで、その後、お食事にでも誘って〜〜〜」リリア。
「全く、ブツブツ言っちゃって…リリアって昔っからこういう事に首を突っ込むんだよな。」ウェル。

「オイオイ、あんなにやけ男があんな可愛い女の子、連れてるぜ。なんだよ〜〜。もったいね〜な……こっちにも、カップルの値踏みしているのがいるのか。男がやると、最低だな。」
ウェルがその言葉を聞いて振り返った場所にいたのは…
(あっ!こいつ、あのハートのチョーカー男!)
そう、ラルド達のデート現場に出くわしたのは、あの ハートのチョーカー&シークレットブーツ男、ディネだったのだ。
「全く…ミリアとキリアとヒナタ三姉妹が裏切って逃亡して、俺は、パシリだし…」
ぶつぶつ言いながらディネは、部下5人と階段を上がって行った。
それを隠れて見ていた、ウェルはリリアに小声で話す。
「リリア、あいつらと出くわすのは、マズイぞ。みんなと合流しよう。」
「うん…でもさ〜、あの幸せいっぱいのラルドにそう話すの?」

”ポンポン”
ウェルの肩を叩くのは、半透明のセイだった。
ケティアと同じ様に、分身を飛ばしてきたのだ。
「ウェル君、リリアさん。すみませんが、ご足労お願いできますか?」
言うが早いが、ウェルとリリアは、転移魔法の粉を振り掛けれられ、飛ばされてしまった。

 

「ここは…」
ウェルとリリアが転移させられた所は森の中の開けた場所。
大理石で作られているような柱が道に沿って無数に立ち並ぶ。
道の先には白亜の神殿が見える。
「すごい…あ、セイ!」
道の真ん中に立っている半透明なセイの姿を見付けたウェルは、セイに走りよる。
「ちょ、ウェル、まちなさいよ」
そして慌ててウェルを追うリリア。
はてさて、この先なにがあるのやら。

 

1         10 11                       00年10月3日UP

 

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