「夜の森は、どこも同じで静かですね。」
「そうですね、さぁ、本題に入らせていただきますよ。」
のんびりとしたディルに、セイはせっかちに切り出した。
そんなセイの様子にも気を悪くした風もなく、ディルは相変わらずやわらかく微笑んでいる。
「ええ、大体わかってます。私のことでしょう?」
「その通りです、率直に聞きますよ…あなたは、魔王ですね。」
すっと正面からディルを見据え、その真理を探ろうとする。
しかしディルはそんな視線を実にさらりと交わしてあっけないほど簡単に答えた。
「はい、そうですよ。それがどうかしましたか?」
セイはそれでもまだじっとディルを見つめたまま、視線をはずすことなく問う。
「…どうして、私達を殺さないんですか?」
「簡単なことです。私は、生き物を殺すのが嫌いなんです。」
「では、なぜ『魔王』になったんですか?」
ディルの答えはそこで初めて、即答ではなく間を持ったものとなった。
「……この星の未来を、変えるためですよ。」
「この星の…未来?」
「えぇ、そして、それは私の故郷である魔族界を守るためでもあります。」
「魔族…界?」
「教えてあげましょう、この星は『人間界』『魔族界』『冥界』からなる、3元平行惑星なんですよ。」
「3元…平行…惑星…………なんとなく、わかる気がします。」
セイは真剣な面持ちでディルのいうことを頭に入れていく。
「そして、『冥界』では『ヘンリ・ウィール』様が、『魔族界』では、
私の親友でもある『サイ・ラウン』がそれぞれを統治しています。」
「!?…魔族界を…統治!?」
セイは意外な言葉を聞き思わず聞き返した。
ディルは思ったとおり、といった顔で苦笑する。
「魔族だからって、秩序が無いと言う訳ではありませんよ。」
ディルの言わんとすることを理解したセイは声の調子を抑えてつぶやいた。
「なるほど…我々が思っている魔族と実際の魔族は、違うと言うのですね?」
「その通りです。そして、この『界』のうち、どれか一つでもバランスを崩せば…」
「この星は…崩壊してしまう……?」
言葉を引き継いだセイをディルは少し訂正した。
「いえ、少々違います。もしそうなれば、3つの『界』は一つになろうとするのです。」
「!!…それを、阻止するために、来たと…」
セイは今度は声を荒げずに、深呼吸してから言葉をつむぐ。
「はい、その通りです。私は、偶然にもこの『界』の未来が引金になると知ったので。
…あなた方は、魔族に対して誤解してたようですね。」
非難する様子もないディルの様子に、セイはうつむいてぽつりぽつりと告白した。
「確かに…今まで魔族は、忌わしい者と思ってきた。人間の、敵だと。」
それを聞いてディルは諭すようにこう言った。
「一側面だけでは、本質は見抜けないと言うことです。」
それには答えず、セイは顔を上げる。
「あの、最後に、馬鹿な質問をしていいですか?」
「どうぞ。」
いいにくそうにセイはたずねた。
「その…右腕、どうなされたんですか?」
そう、ディルの右腕は無かったのだ。
「これですか、これは昔ある人にかけられた呪いで、切落さざるを得なかったんです。
本当は切落したくなかったんですけど、私の右手が腐り落ちてボロ雑巾みたいになったのを見て、
友人がいてもたっていられなかったんで、切落したんです。」
ディルの話し方は淡々としていた。
「そう…ですか。今日は色々と勉強になりました、ありがとうございます。」
「いえいえ、お粗末さまでした。」
そう言って、ディルは少し笑顔を見せた。
「それでは、孤児院に帰りましょうか」
と、ディルが言うが、セイは
「あ、お一人で帰ってください…もう少しこの森を散歩したいのです」
と言って森の中へ歩き出す。
「あ、待ってください、セイさんっ!貴方一人では危ないですよ!」
ディルがそう呼びかけるが、すでにセイの姿は森の鬱蒼と生い茂った樹木の中に消えていた。
――森の深部――
生い茂った野草を掻き分けもせず、すたすたと歩いているセイ。
「………」
何か考え事をしているようだ。
程なくして多少開けた所にでる。
「…魔王…か…こんな所で会うとは思いませんでした」
そこで立ち止まり、少し空を見上げる。
「…セイマ=アンフィナとセイ=ソグラス…創造と破壊…難しい、ですね」
言い終え、何故か微笑む。
「さて、帰りますか。あまり心配をかけるわけにもいきませんし…」
そう言い、セイは孤児院へ転移魔法で移動した。
「ただいまー」
ディルが孤児院へつくと、すぐにライラックが声をかけてきた。
「おかえりなさいませ、ディル様。ところで、、カロン見掛けませんでしたか?」
「いいえ?みてませんけど?まだ帰ってないんですか??」
「…?どうかしたんですか?」
そこへディルの後ろからセイの顔がのぞく。
「あら、セイさんお早いお帰りですね。」
ディルは安心した声でそう言った。
「ええ、あまり遅いとディルさんが心配してポリスに捜索願出しそうですからね。」
言って、セイは微笑む。
すると、ディルも微笑んで「そうですか。」と返した。
(この二人はいつも笑顔だな、ま、いい事なんだが。。。(−−;; )
そんなやり取りを見て少しあきれたようにカロンはため息をつく。
「ただいまー!あれ?ディル様、こんなとこで何してんすか??」
「あら、ディル様、ここにいらっしゃるんですかぁ。ああよかった、これで早く任務を終らせれそうです。」
セイのあとから入ってきたのはカロンとベローナだ。
「ん?この二人はどうも魔族じゃないようですが…?」
初めて見る顔にセイはディルに説明を求める。
その表情に気づき、ディルは二人の紹介をはじめた。
「あ、この二人は冥界の人なんですよ、最も、カロンは私の部下ですけど。」
「じゃぁ、そちらのワインレッドの髪の女性は?」
セイはベローナのほうをむき小首をかしげる。
「ヘンリ様の使いの人ですよ。それで、ベローナさん、今日のご用は何ですか?」
やっと話を振ってもらえたことにぱっと向き直り、ベローナはすぐに言った。
「今日はヘンリ様の命令でちょっと報告に聞たんですよぉ。」
「あぁ、あのことですか、じゃぁ早速、報告お願いします。」
「はい、先ずアルク率いる『ディス・ア・ティグス』と言う組織なんですが。」
「!」
不本意ながら聞き慣れてしまった名前にセイが驚愕する。
「あの、ディル様を引入れたがってる…あいつか?」
カロンの問いにベローナがさっと返答した。
「そうそう、どうもそのアレクっていう人の右腕っていう人が3人いて、
名前が『マータ』と『セビル』と『ポージ』っていうらしいんです。」
「その内、この前ここを『キメラ』と『ゾンビ』を使って襲ったのは、誰だ?」
ライラックの神妙な問いにまずはセイが声をあげた。
「襲われた!?ここが!??」
「ええ、もっとも、すぐに追っ払いましたけどね。」
ディルはこともなげにそう言い、ベローナは説明を続ける。
「おそらく、ここを襲ったのは『セビル』でしょう、彼はネクロマンサー(死霊使い)だそうですからね。」
「……まだキメラは、合成されてるんですか?」
それを聞き、ディルは悲しそうにベローナに尋ねた。
そんなディルの様子に少し驚いたように、ベローナは尋ね返す。
「はい、そのようです。…ディル様は、キメラやアンデッドが嫌いなんですか?」
「いえ、キメラやアンデッドが使われることが嫌なんです。特にキメラは、生きたままの動物を合成するので。」
ディルの言葉に、セイは心の中で簡単の声をあげる。
(…慈悲深い人だ、孤児院をしていることが頷ける、私達を殺さないと言うことも。)
「そいつ等のアジトは、どこだ?」
今にも乗り込みそうな勢いでカロンがベローナをにらむ。
そんな様子を見透かしたようにライラックはカロンを見た。
「聞いてどうするつもりだ?どうせ乗込むとか言うつもりだろう。」
「あったぼうよぉ、ヘンリ様の千里眼なら一発でわかるだろう!?」
うれしそうなカロンの勢いをくずすように、ベローナは残念そうに言った。
「それが、どうやらそいつ等異次元にいるらしくてどこかわからないのよ。」
カロンが情け無い声を出しながら崩れていく。
「わかりました、ありがとうございます、他に用はありませんか?」
「あ、あります、『盗賊義団』の事なんですが…」
「高峰さんたちの事ですか?」
「はい、ヘンリ様から『できるだけ力になってやってくれ』だそうです。」
ディルはこれにも「わかりました。」とだけ答え、ベローナの報告は終わった。
「ベローナ、帰るのか?」
出て行こうとするベローナにカロンが後ろから声をかける。
「うん、とりあえず、任務は終わったからもう帰れるね。」
にこやかにベローナがそう答えた次の瞬間、
「あっ!!ベローナちゃんだぁー☆どーしたのぉー!?めっちゃオヒサだネ☆」
突然後ろから妙に軽い声が聞こえた。
その声に反応してセイが振り返ると、そこには大体年の頃が15くらいの少年がいた。
髪は青林檎のような緑色で、顔に紫色の模様が入っていて一目で魔族だとわかる。
ベローナが明るい調子でその少年に声をかけた。
「あ、リクラちゃん、オヒサヒサヒサー☆ゲンキしてた?」
「うんうん!おもっきしゲンキだよぉー☆」
愛想よくうなづくリクラにベローナはからかうような声を向ける。
「でも…胸はあまり変わってないみたいねェ〜」
思わぬ言葉にセイはもう一度リクラを見つめた。
「ガビィーン!!い、いたい所をぉ〜……」
「アハハハハ、ごめんごめん」
そのやり取りを聞いてセイがおずおずと割って入る。
「あ、あのぉ〜…」
「ん?何??」
リクラはきょんっとセイに向き直り、にこっと笑った。
「失礼ですが、もしかして、女性なんですか?」
…が、次の瞬間絶句した。
「Σ( ̄□ ̄;)」
「ぎゃははは!!」
「………」
リクラの様子を見て、カロンは大爆笑し、ライラックは困ったように目を伏せた。
セイに詰め寄りながら、リクラはがんがんまくし立てる。
「えーえー、どーせボクは胸ナシですよ!男顔ですよ!!でもこれでも、女だい!♀だいっ!!」
「すみませんすみません本当にすみません」
セイは慌てて必死に謝る。
しかしそんなやり取りはますますカロンを喜ばせたようだった。
「横腹いてぇ〜!しっかし、お前の妹のダンナってどんなんなんだろうなぁ、ライラック。って言うかこんなんの貰い手いるのか?」
カロンはライラックに問い掛ける。
どうやらこのリクラという少年…もとい少女は、ライラックの妹のようだ。
「確かに…仮に死んでもそれを何とかしなければ死んでも死にきれん。
まぁ…いざとなれば遺言状にリクラをカロンにやると書けば済む事だが。」
それを聞いてそれまでニヤニヤしていたカロンは顔色を変えてライラックに突っ込んだ。
「おいおいおいおいおいおいおいっ!不吉な冗談やめろよ!!」
「…っていうか、ボクは兄ちゃんの財産なのか??」
「まぁとりあえずこれでカップリング成立だ、幸せにな!」
双方の意見は無視してライラックは無理やり話をまとめようとする。
「だからそれやめろってぇ!!」
ベローナも楽しそうに乗ってきた。
「カロン、おめでとう!きっとヘンリ様も冥界から祝福してくれるよ☆」
「ベローナちゃんまでやめてよぉ〜!!」
「あのー…」
一同の勢いに圧倒されていたセイが申し訳なさそうに進言する。
「なんでコントしてるんですか?ディルさんどこか行っちゃったんですけど…」
一同ははっと気が付きお互いに気まずそうに顔を見合わせた。
「じゃ、じゃぁ続きは大広間で!」
リクラはとんでもないことを慌てていう。
「続きって何じゃぁ〜っ!」
「しかもいつまで続けるつもりなんだ、リクラ?」
男性二人の問いかけにリクラは楽しそうに答える。
「それはみんなが力尽きるまでだよ、さぁLet’GO!!」
「もぉ〜」
ベローナが慣れたように苦笑すると、それを合図のように一同は大広間へと向かった。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 00年12月09日UP