数分後、森の中で高峰はハスナを従えて立っていた。
「………来た。」
高峰がつぶやくと肩のハスナも答えるようになく。
「カァー…」
すると次の瞬間、転移魔法により、一人の男が現れた。
顔に仮面をつけ、紺のローブを身にまとっている。
「………ゲルサドラ」
高峰が呼ぶのを聞いた仮面の男は簡単の声をあげる。
「ほぅ、意外だな。盗賊義団が私の名前を知ってるとは。」
「そんな事はどうでも良い。フィス=ラグレーンとその娘を殺したのは、お前か?」
フィス=ラグレーン、それは史上最高と呼ばれた英知を持っていた高峰の恩師の名前だった。
「あぁ、あいつも、その娘も、私が殺してやったよぉ!」
挑発するようなゲルサドラのせりふに高峰は殺気立つ。
「…貴様は」
「おっとぉ、話はここまでだ、今日はこいつをここに送るだけの予定なんだよ。」
「!まさか…」
「いけぇ!!アロサウルスゥ!!ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
ゲルサドラの呼びかけと共にアロサウルスが高峰の前に現れる。
ゲルサドラはすでに転移魔法を使って遥か遠くにいた。
「ちぃ…ハスナ!逃げろ!コイツの届かない上空にまで飛べ!!」
それを聞いて、ハスナが空高く舞い上がる。
高峰はアロサウルスの攻撃をかわし、股の間を通ってアロサウルスをまいた。
(尻尾を切り落とせば…コイツは間違い無く立てなくなる。)
その場所から少し離れた場所では、ケティアとカーレテシーが走っていた。
「あれ?今何か音しなかった?ズシーンって」
「そうか?気のせいじゃないのか?」
「おっかしいなぁー…」
ケティアが周りを見渡すと、異様な光景が目に入った。
「!!」
「どうした?」
「あ、あれあれ」
ケティアは半分怯えながら『あれ』に指を指す。
その指の先500mのところで、アロサウルスは雄たけびをあげていた。
「とにかく行ってみよう。」
カーレテシーが提案すると、浮巾をまとたケティアが、スゥーと飛んでいく。
「おっ、あぶねっ」
そのとたん、カーレテシーが一歩下がる。
その足元には、投げナイフが地面に刺っていた。
そのナイフを投げた先には、先ほどの白ずくめの盗賊義団の仲間達がいる。
「オマエ達、今、決闘をしているところだ!立ち去れ。』
そのうちの一人が声高に宣言した。
それを聞いてカーレテシーはむっとして反抗した。
「決闘だぁ。港が怪物に教われて火事場泥棒なんてしている連中がたいそうなこというじゃね〜か!」
言葉に詰まった盗賊義団に向かって重ねてカーレテシーは挑発を続ける。
「こっちも用があるんでな、力づくでも行かしてもらうぜ」
そう言いながら小声で、カーレテシーはケティアに話す。
(ここは俺に任せて行けっ。ただ…戦おうとするな、様子見だけだ。
あのマントの男はあそこにいるはずだ。接近戦用の格闘術の使い手だと思う。いいか、絶対に手を出すなよ。)
ケティアは素直にコクンとうなずいた。
その頃、高峰はアロサウルスから走って逃げていた。
その速さは驚異的だが、しかし対するアロサウルスはさらに早い。
徐々に盗賊義団とアロサウルスの距離が狭まって行く。
次の瞬間、盗賊義団の目の前にライラック、カロン、リクラが現れた。
「た、高峰さん!?」
ライラックが驚いて叫ぶ。
「こりゃまたでっかいなぁ、これも寄付するつもりで?」
カロンがふざけて場違いな冗談をかます。
「これあったら一ヶ月は食うに困らなさそうだけど、不味そうだぁ。」
リクラもボケる。
「そんなこと言うヒマあるんならこいつの注意をオレからそらしてくんねェか?
こっちは今必死で走ってんだからよぉ。」
高峰は緊迫した空気をぶち壊す3人に、それでも苦笑して指示する。
「了解、じゃぁ誰がしとめる?」
ライラックがカロンとリクラにたずねる。
「オレがしとめる。だから、早く手伝ってくれや。」
「ラジャー、じゃ、ボクとカロンは高見の見物と行きますか。」
「そうだな。じゃぁ、ライラック、たのんだぞ。」
「あぁ。」
そしてライラックがアロサウルスに向かっていき、
高峰は一息ついてから再びアロサウルスに向かっていった。
一方、カーレテシーは…。
(しっかし…こいつら妙に引っかかるんだよなぁ、盗賊義団の仲間にしては。
不精ヒゲ生やした黒髪メガネ男とシャツの下から贅肉が見えてる金髪でぶ男…どうも不釣合いだ。
さっきは勢いで盗賊義団の仲間だと思ったんだが…)
「我ら、最強、ヘブンリィィィィィィィィィーーーーーーバディーズッ!!」
その悩みを打ち切らせるように、目の前の二人は声を合わせた。
「見よ、この普段食っちゃ寝してできたこの体!」
(ダメじゃねぇか…)
「鍛え上げられたこの贅肉!!」
(おいおい、贅肉って…)
「でも、人生の目標は、、」
(まさか『世界征服』とか言わねえだろうな、そんな事言ったら太陽が西から昇るぞ。)
「見失いっぱなし!!」
「だめじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!」
我慢も限界。
叫びながらカーレテシーがヘブンリーバディーズに襲いかかる。
「食らえ!ヘブンリィーバディーズの背筋も凍る攻撃を!!」
「うっせぇぇぇぇぇ!!」
でぶ男の方にカーレテシーが突っ込む。
が、ヘブンリーバディーズの片割れが背後に回りこむ。
そして、カーレテシーの背中を人差し指でゆっくりと背骨に沿ってなでて行った。
「!!…うぁぁっ…」
カーレテシーの背中になんとも言い表しにくい嫌な感覚が走る。
「みたかっ!我ら、最強、ヘブンリィィィィィィィィィーーーーーーバディーズッ!!」
そう、確かにカーレテシーの背筋は凍った…でも、こんなんでいいのか?
「行くぞ!次の攻撃!!苦しみながら死ねぇ〜ッい!!」
「ざけんなぁぁぁぁぁぁ!!」
カーレテシーが右手一杯に力をこめて剣を振り下ろす。
そして、それは確かにヘブンリーバディーズにあたった。はずだが?
「こいつら、透けてる!?」
「ハッハッハッハッハ、バァーカ!!」
不愉快な雄たけびとともに、ヘブンリーバディーズは消えていった。
「……なんだったんだ…」
ライラックが十字槍を片手にアロサウルスに向かって飛んでいく。
そして、アロサウルスの目の前でライラックが6〜9人に増える。
「お、なつかしぃー、高幻法じゃねぇか。久しぶりに見るなぁー。」
カロンが楽しそうに言う。
「そーだねぇ、アレを最後に見たのって、確か魔族界だったしねぇ。」
リクラも楽しそうだ。
もちろん、アロサウルスは攻撃対象が一気に増えたために少し動揺を隠せないではいる。
しかし、すぐさま攻撃を開始した。
アロサウルスがライラックに気を取られているうちに高峰はアロサウルスの背後に回った。
そしてアロサウルスの尻尾にきりかかった。
アロサウルスが悲鳴を上げる。
高峰のブレードはかなり大きいがさすがに一回では切断できない。
高峰はもう一度きりかかり、今度はうまく尻尾を切り落とした。
それと同時にアロサウルスが倒れる。
「はぁー、なるほどぉ。
尻尾がでかいから尻尾切り落とせば体のバランスが保てなくなるんだなぁ。」
感心したように言うリクラにカロンがからかうように声をかける。
「そう言うこと、またひとつおりこうさんになったか?」
「うん!ボクまたひとつおりこうさ…って子供みたいに扱うなぁぁぁ!」
「ハハハハハハ!」
「おいおい、痴話げんかもそれぐらいにしとけよ。」
ライラックが制止に入る。
「おいおい、だからそれやめろって!!」
慌ててカロンは笑いを止めた。
「あれぇ?恐竜は?」
「高峰さんが首を落とした、死体は放っておけばいい、魔物や動物が食うだろうしな。
高峰さんはもう帰ったぞ、私たちもそろそろ帰ろう。」
「そうだな。」
カロンの返事を合図に三人は孤児院へ帰っていった。
そのころケティアは…
「あれぇ?ここってさっきと同じ場所だよねぇ〜。」
…道に迷っていた。
薄い光のさす昼さがりの森、そこを高峰は肩にハスナを乗せて歩いていた。
「待て。」
声と同時にカーレテシーが現れる。
高峰が足を止める。
「何だ?」
「おまえを倒す。」
唐突にカーレテシーが右手に魔鉱石の剣を握る。
「あいにくお前と遊ぶ気はない、あばよ。」
そう言って、高峰はまたスタスタと歩き始める。
「待てといってるだろうがぁっ!!」
カーレテシーが斬りかかる。
次の瞬間、魔鉱石の剣に軽い石があたったような感覚があり、それと同時に魔鉱石の剣は音も立てずに崩れていった。「な…」
カーレテシーの膝がショックのあまり地に付く。
そして高峰は何事もなかったかのように深緑の森に消えていった。
「あら、高峰さん、おかえりなさい、もうすぐお昼ご飯ですよ。」
メルツが高峰を迎えた。
「昼食はいい、しばらく部屋で寝るから、誰も入れないでくれるか?」
「あ、わかりました、おやすみなさい。」
「あぁ」
高峰は部屋に戻っていった。
ウェル達に与えられた寝室ではラルドが横たわっている。
その周りにウェル、リリア、リア、ケティアレイオウ、カーレテシー、ディル、テール、ソルは集まっていた。
カーレテシーが新しい包帯を巻いてもらっている隣で、ケティアが先ほどまでの説明を皆にしていた。
「…と言うわけで、結局取り逃がした…んだよね。」
「ああ、どうしようもなかった。俺の剣もこのとおりだ。」
カーレテシーは、柄だけになった魔鉱石の剣を投げやりにテーブルに置いた。
「これは…魔界に伝わる”魔剣レティヴィアン”…どうしてこれを…」
ディルは普段にないほど驚く。
「これはもらい物だ。俺の剣の師匠から免許皆伝の時にな。」
「そうですか、カーレテシーさん。あなたはただ者ではないと思いましたが、この剣を使うとは…」
ディルが剣の柄をつかむと、淡い光と共に刃が形作られ、前以上の黒き輝きを持つ剣が生まれた。
驚く一同に向かってディルは話し始めた。
「皆さん、聞いてください。あの高峰と言う男が何故盗賊などをしているかを」
誰も外気を飲み、ディルの言葉に耳を傾けた。
「まずあのヒトの名前を教えましょう。あのヒトは『高峰無月』という名前なんです。」
「無…月??」
リリアが繰り返す。
「えぇ、しかし昔は『伊』と言う名前だったようですが…」
「え?」
一同が声をそろえて言う。
名前が途中で変わるとはどういうことだろうか。
「まずは、そうですね…無月さんの作られた理由でも話しましょうか。約七年前にさかのぼります。
当時、高峰さんはまさに純真無垢と言う言葉通りのヒトだったんだそうです。」
それを聞いて真っ先に異を唱えたのはケティアだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!そんな人がどうしてあんなのに!?」
「ちょうど高峰さんが18に成った時です。その時に高峰さんは誘拐されたんです。」
「誘拐!?」
一同がまたも口をそろえて驚く
「えぇ、高峰さんはとある研究施設に連れて行かれ、そこで二年間を過ごしました。」
「まさか、実験材料に…?」
恐る恐るリアが口にする。
「いえ、その逆です。高峰さんは研究員として、その施設に迎えられました。
高峰さんは、ああ見えても人一倍賢く、興味だけで物理学、生物学、化学を完全にマスターしていました。
そしてその研究施設で出会ったのが、彼の有名な皇宗司祭、フィス=ラグレーンさんでした。
高峰さんは、フィスさんの英知をその頭でもって、ものすごいスピードで吸収したそうです。
そして、その研究施設で高峰さん、いえ、伊さんのもっとも嫌な事が行われていたのです。」
「……」
全員が静かにディルの話に耳を傾けている。
「それが、動物実験でした。」
「動物実験、だと?」
カーレテシーが復唱する。
「はい、ただし、ただの動物実験ではありませんでした。
それは、一匹だけでどんな国でも一晩で壊滅状態に陥らせることのできる圧倒的な力と、
一夜で何百にも増殖できる生殖能力を持つ恐ろしい生物兵器の実験でもありました。」
「ちょっと待て、どう言うことだ。そんな生物がいてはその組織も壊滅の可能性があるんじゃないのか?」
カーレテシーがたずねる。
「そこは、私も詳しくはしりません。
ただ、それが当時の伊さんに無月さんを作らせる動機となりました。
そして、約二ヶ月で伊さんの第二の人格、無月さんができました。
それから…無月さんはある金属の精製に成功したのです。」
「?」
「それが、、最古の硬金属、『ソロボイドの白銀』です。」
「『ソロボイドの白銀』だと!?」
カーレテシーが叫ぶ。
「え?どういうこと?ソロボイドのしろがねってなに??」
リリアがたずねる。
「約三千五百年前の英雄、ソロボイドが使っていたとされる剣の原料だ。
それで剣を作れば、ダイヤなんぞ豆腐のように簡単に切れる程の代物だ。」
カーレテシーが説明する。
「その通り。無月さんはそれで衣類と一本のロングブレード、二本のショートブレード、
そしてショットガンを作りました。そして五年前、研究所を破壊し、脱出しました。」
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 01年1月1日UP