蒼の島高峰伊と高峰無月

 

黒い黒い真っ暗な世界の海…
その海面に高峰伊は座っていた。
次の瞬間、上から無月が降りてくる。
「無月…?」
伊は無邪気にそれを見上げた。
「伊、ゲルサドラのことなんだが。」
「やっぱり…無月も気になったんだね。」
「あぁ、あいつがラグレーンと同じ波動を持っているのはわかった、それにしても…」
無月の言葉を伊が引き継ぐ。
「波動がまだ幼い、そう言いたいんでしょ?」
「あぁ、あれはどう言うことなんだ。」
伊は少し考えてから答えた。
「多分、あれは先生の…孫だよ。だから、そんな感じがするんだよ。」
「外見は完全に大人で精神状態もほぼ大人、でも実際は子供…妙な呪いかけられやがって。」
「それは、アンタも同じでしょ?」
二人の頭上から声が聞こえる。
上を見てみるとそこには一匹のカラスが。
「あ〜、ハッちゃ〜ん♪」
伊がうれしそうに言う。
「ハスナか。またシンクロしてきたのか?」
それには答えずハスナは疲れたように苦情を唱えた。
「全く、精神の海なんかで話なんかしないでよ、ここまで来るの大変なんだから。」
「…だからと言って、伊を外に出すわけにはいかんだろう。」
「たしかにねぇ。ま、私としてもココまでくればモールス信号で話さなくて良いから良いけどさ」
あきれたような無月の意見にハスナも同調した。

「それはそうと、さっきのはなんだ」
「さっきの?あぁ、あれね、ちょっと音波使って幻覚みたいなの見せれないかなぁ〜って。
やってみたんだ、見事に大成功だったでしょ?」
「そーだね、大成功だったね☆」
伊はハスナと同じ口調で楽しそうに言った。
「全く、いらん事をしやがって。」
「しっつれいねぇ〜、この姉の弟を思う心遣いってのがわかんないの?」
「カラスにそんな心遣いされるほど落ちぶれちゃいねえよ。」
「なんですってぇぇぇ!!」
「まーまーまーまー、で?この後は、どうするの?」
始まりそうなハスナと無月のケンカを抑えて伊がたずねた。
「とりあえず、大方あの組織の収入源となりそうな店舗は破壊した。あとは…」
「潰すだ…か。良かったね、おとーさん、あと少しでキミに会えるよ♪」
伊はにっこりとうれしそうに笑った。
「そうだね、でも、時とカイルは、キミに預けときたかったな。」
「仕方ないだろう、あいつらは邪魔になるだけだ、それに、ココにおいておく方が安全だしな。」
それを聞いていたハスナは横目で無月を見やる。
「おーおー、弟さん達には随分と優しいんだねぇ、姉にも優しくしようって気は無いの?」
「無い!」
「なぁんですってぇぇぇぇぇ!!」
「まーまー、ハッちゃん落ち着いて、で?明日はどうするの?」
「明日の午前四時にココを出る。そして北のセイラの塔へホバーで行く。」
「うん、わかった。」
うんうんと一緒にうなずいていたハスナははっと叫んだ。
「ちょっと!もしかして私また座席の下なの!?あそこ窮屈でいやなのよ!!」
「じゃぁ、自分の羽で飛ぶことだな。じゃぁな伊、少なくともオレはとっととお前と変わりたいんだ。だから…」
「だから?」
「…期待しとけよ、じゃぁな、アバヨ!」
そういって、無月は消えて、それに続いてハスナも消えていった。

 

「その研究施設ってのは、世界征服だとかを企んでいるの?」
ケティアがディルに問うと、ディルはあっさり答えた。
「いえ、そんな事はありませんよ。」
「なんでさ、戦力になる生物兵器と、超古代の超兵器を手に入れる組織なんてそんなのが目的でしょ。
ていうか、他に何が…」
ケティアは納得の行かない様子で考え込む。
「もう真実は解りませんが、フィスはそんなことはしませんよ。」

「あふぅ…」
リアとレイオウのあくび。
難しい話でついていけないのだ。

「そうそれ、そのフィスって言う人も高峰さんに殺されちゃったの?」
フィスの名前を聞いてケティアが思いついたようにいった。
「いえ、そんなことは…高峰に限ってそんな事はしません。
本当に、彼はフィスのことを尊敬していましたから…」
一度うつむいて口を閉ざし、ディルはまた話し始めた。
「彼が研究所を脱走したことは、それに関係あるのです。
彼の恩師フィスとその娘が、ゲルソダラと言うものに殺されたのです。」
…一同、息を呑む。

しかしリアとレイオウは…寝てしまっていた。

沈黙を破ってカーレテシーが口を開く。
「どうしてお前はそんなにアイツの事を知ってるんだ?」
「…そうですね。あなたには、そのことが気になって仕方が無いでしょね。
でも、今はその理由を話すときでは無いんですよ。この続きは、またにしましょう。
あ。それと、ケティアさん。」
「はい?」
「あなたは、高峰さんをさらった組織の黒幕がフィスさんだと見てるようですが。」
図星を疲れてケティアは意外だという顔で聞き返した。
「え?違うんですか?」
「ええ、フィスさんも、高峰さんも…同じですから。」
なぞのディルの言葉は、ケティアはもちろんほかの誰にも理解できなかった。

「さぁ、そろそろ子供達のおやつの準備を始めないと、また暴れだしますよ。」
その場の空気を塗り替えるように、笑いながらディルが言う。
「あぁ!いっけなぁーい!!忘れてたぁーッ!!」
ディルの言葉に反応してソルが台所に駆けて行く。
それに続いてテールもあわてて台所へ駆けて行った。
ディルはそんな二人を笑って見ながらゆっくりと台所へ向かっていった。

 

残された一行の部屋に再び沈黙が広がる。
そんな中、突然ケティアが含み笑いを浮かべる。
「どうした?ケティア??」
カーレテシーがケティアにたずねる。
「ん?ちょっとね、昔の事を思い出したんだよ。
ラルドと一緒に王都ラクロアにいたころの事をね。」
そう言いながらケティアが笑顔になる。
「……おまえは…のんきだな。」
「そう?でもね、よくよく考えれば、盗賊義団に僕らなんかが」
「?」
「……勝てる訳、無かったんだよ。
遊子さんも、正一さんも勝てなかったんだしさ。」
「遊子…?まさか…遊子ってのは…」
カーレテシーには思い当たることがあるらしい。
「『
ラクロアの魔人』の異名を持つ、高草木遊子さんの事だよ。」
「……そうか」
カーレテシーは頭を少し前のほうに垂らした。
その姿には、少し寂しげな物を感じられた。

 

「あの、ディル……様」
セイが台所のディルに話しかける。
「なんですか、セイさん?」
ディルが楽しそうに笑いながらセイに答える。
「私も、手伝っていいですか?」
セイが静かに言う。
「ええ、一向に構いませんよ、それじゃぁ、コレをこねるのを手伝ってください。」
そういってディルが肉まん(おやつ)の生地をこねるのをセイと一緒にはじめる。
「あの…」
「なんですか?」
「一つ聞いて良いですか?」
「神の国と、悪魔の国についてですか?」
「やっぱり、あなたは凄い人だ。私の言おうとしてる事を全て理解している。」
「そうですか?」
「ええ、その上まるで赤の他人とは思えないほど…親近感が沸いてくるんです。」
「似たもの同士って事でしょう。」
なおも笑いつづけるディル。
「…似たもの?」
「ふぅ…このぐらいで良いでしょう、この生地を発酵させるためにしばらく寝かせますから、
一息入れましょう。」
「あ、はい」
二人は台所の椅子に腰を下ろした。

「昨日、この世界は三つの世界からなる三元平行世界だと、私は言いましたね。」
早速ディルが口を開く。
「はい。そして、その三つの世界は、常に一定のバランスを保ってるんですよね。」
「その通りです。でも、それだと矛盾する事が一つだけ、ありますよね?」
「神の世界と悪魔の世界、どの神話にでも必ず出てくるこの二つの世界はどこなのか。」
即座にセイは答えた。
それこそがセイの聞きたかったことなのだ。
「その昔、確かに神の世界と悪魔の世界がありました。
しかし、その二つの世界は星の理を破ったが為に滅亡しましたよ。」
ディルが何のフリも無く結果を述べた。
「なぜ、そこまで知ってるんですか……我が父、将神よ。」
セイが突然訳の分からない事を言葉を口にする。
しかし、ディルは笑いながらなおも答える。
「やぱり、わかってたんですね、私が将神だって。」
「えぇ、なんとなくでしたけど。しかし、将神は3人のはずでは?」
「いえ、将神は1人ですよ。その1人が力を分け与え二人の将神を作った、それだけです。」
「では、魔神というのは?」
「それは…知っているんでしょう?私が言う必要は無いと思いますけど??」
「でしょうね。」
そういってセイは深くため息をつく。

そんなセイを見てディルはとても優しい笑顔を浮かべる。
「あなたを見ていると、昔を思い出しますよ。」
「ディル様も…悩んだんですか?」
「さぁ、覚えてません。でも、神になるって言うのは、実質的には、何も変わりませんよ。」
そう言われてもセイにはわからない。
「そうですか…」
「ねえねえ、ディル様ー、おやつはぁー?」
1人の子供がディルにおやつをせがみに来た。
「あ、そうですねぇ、そろそろおやつ作りを再開しないと。」
「お腹空いたよぉー…」
子供が甘えた声を出すと、ディルは苦笑した。
「お腹空いたって、まだ2時じゃないですか。もうちょっと待っててくださいね。」
「はぁーい。」
「セイさん、行きましょう。」
そう言ってディルがセイに微笑む。
「はい、わかりました…ディル様。」
セイの胸のうちは複雑だった。

 

         10 11                       01年1月1日UP

 

小説TOP