蒼の島〜島の真実〜

 

森の中、1本の木の上で、何処か楽しげに青年が言う。
「何かと思ったら…やっぱり…もぉ…本気なの?分かったら、ただじゃ済まないのよ」
青年の隣で、呆れた様に呟く少女。
しかしその金色の瞳は、青年と同じく楽しげな光を浮かべている。
「だってさ…やっぱ、試してみたいじゃねーか。あのセイマ様が認めてるヤツらだぞ。それに、ここに居るって事は何だかんだ言ったってお前も気になってるんだろ?」
図星だったのか、少女の顔に、ほんの少し赤みが差す。
「う…五月蝿いわねッ!…ほらッ、そんな事より、来たわよッ」
照れ隠しの様に叫ぶと、少女は、青年よりも先に地上へと舞い降りた。

”バサッ バサッ ”と羽音をたてて、星徒と陽留がリリアとウェルのそばに舞い下りる。
着地すると、二人の羽がスゥッと消えて、代わりにその背中から鳥が現われ、二人の肩にとまった。
その鳥は、ドリムテルゥーであった。
(わぁぁ 綺麗。)と リアは陽留を見て素直にそう思った。
同性でもため息をつかせるほどの、美少女なのだ、陽留は。

しばしの沈黙を破ったのは、くったくのない あの声だった。
「あ〜 陽留ちゃん。おひさなの〜〜。」
「はっ、水優さま! ここにいらしたのですか。ご無事で何よりです。」
突然現れた水優に、頭を下げる陽留、星徒。
それをぼぅ〜〜と見るウェル、リリア。

「皆さんそろいましたね。私は分身ですけど、それでは ウェル君、リリアさん。ここに連れてきたのは…」
「セイさ〜〜ん、いきなりテレポートしてここはどこ?この人たちは?それにこの子はあの時の魔物の群れの子でしょ?それになんで分身なの?
ってーかこの綺麗な人は?とにかくケータイ番号教えて。ガゴッ」
ウェルの質問をリリアがさや付長刀でおもいっきり突っ込みを入れる。
「なに 興奮してんのよ。このスケベッ!大体ケータイってなによっ?」

「…とにかく あの神殿まで歩きながら話しましょう。 彼は星徒、彼女は陽留です。
二人の有翼人のこと、 ドリムテルゥーの事、私の事、あの神殿の事、蒼の島 の事、それと…リアさんの失った過去の事。」
二人のやりとりに苦笑しつつ、セイは微笑む。
「(ハッとして、)そっ それ! 聞きたい。」リリア。
「それでは行きますか。」
そう言って、神殿までの石畳を歩き出すセイ(の分身)。
その手をつかんでニコニコしている水優、それにつづく、 リア、ウェル、陽留、星徒。

 

神殿へと向かい、歩き出した6人。
ややあって、ウェルが口を開いた。
「ドリムテルゥーを連れてるって事は、あんた達も有翼人なのか?」
「いいえ。」
アッサリと答える陽留。
「じゃあ、さっきの羽は何なんだ?それにドリムテルゥーだって…」
再度問いかけるウェル。
そう、以前ヒカゲに聞いた話によれば、 ドリムテルゥーを飼い慣らす事は、有翼人以外には不可能だった筈だ。
「ああ…そう言う事か。」
何か納得した様に星徒が言う。
「ま、詳しい事は省くけどよ…さっきの『羽』は、単純にコイツらの力を借りただけだ。」
言いながら、肩に止まっているドリムテルゥーの頭を撫でる。
「で、コイツらなんだが…有翼人以外でも、飼い慣らす事が出来ない訳じゃないんだな、これが。」
「何…だよ…それ…」
呆然と呟くウェル。
(…じゃあ…この間の戦いは何だったんだ…いや、それよりも…それなら例の組織があんな事をする必要は無いんじゃないか…)
だが、次の星徒の一言でそんな思いも吹っ飛んでしまった。
「もっとも、一つだけ条件があるけどな。…『ドリムテルゥーよりも強い『力』を持っている』っつー条件が…だから、当然『人間』って事は有り得ない。」
言われた言葉の意味を理解して絶句するウェルとリリア。
「…じゃ、じゃあ、貴方達は、一体…?」
辛うじて、リリアが言葉を発する。
「貴方達も名前ぐらいは聞いた事があるんじゃないかしら…」
陽留が呟きに近い声で答え、星徒が残りを引き継ぐ。

「俗に言う『魔族』ってヤツさ。」
魔族―――一般的には「忌わしき者」・「闇に住まう者」と同意語であるが、彼等の場合、少し違った意味を持つのだと言う。
「あんまり上手くは言えないんだけど…私達の持っている魔力は、明らかに『人間』とは違う――要するに、『人間』とは言えないほど強いらしいの。」
「その上、生まれつき魔法とは違う『能力』を持ってるってんだから、普通じゃねーよな。」
陽留が言い、星徒が笑う。
しかし、その笑みは何処か辛そうな色を滲ませていた。
おそらくは、2人とも『普通ではない』と言う事で、色々あったのだろう。
「…それって…どう言う事なの…?」
彼等の笑みの裏側にあるものに気付いたのか、リリアが遠慮がちに尋ねる。
「そうね…例えば……」
そう言うと、陽留は虚空へ手を伸ばし、何かを掴む仕草をして見せる。
すると、何も持っていなかった筈の陽留の手の中に、細い『光』の束が握られていた。
「こう言う事が出来るって事。」
「「!!」」
驚きに目を見開くウェルとリリア。
と、陽留が『光』から手を離した。
あっという間に『光』は形を失って行く。

「見ての通り、陽留の『能力』は『光』だ。」
星徒が再び口を開く。
「で、オレの『能力』は『闇』、水優様は『水』。…あと、ここにはいらっしゃらないが、火摘様の『能力』は『炎』だ。」
「鳥が空を飛ぶように、私達は、この『能力』が使える。…けど、彼女は……魅影は…」
「ミカゲ…ってまさか?!」
聞き覚えのある、その名前。
それは、ほんの少し前に敵として、ラルドが、リアが、そして自分達が戦った相手の物だ。
「どう言う事だ?あんた達、知り合いなのか?」
叫ぶ様にして問いかけるウェル。

だが、あっさりとリリアにかわされる。
「悪いけど、その話は後にして。 私は、私の無くなった記憶のことが知りたいの。」
「だけど…」
「何か文句でもあるわけ?」
「…別にありません…」
リリアに睨まれてしまっては、そうとしか言えないウェルなのだった。

セイが歩きながら話す、いつもはおとぼけ顔なために、 このような真剣な表情の彼は別人のようだ。
「まず…蒼の島の事ですね…ニンゲン…という種族が何故、この島を狙うのかは……侵略に使うためでしょう。」
「……」
「そもそも 蒼の島とは有翼人のふるさとなんです。
有翼人の各個人が持つ特殊な能力がニンゲンにとって 途方もない力のようで、魔力といった力ですとニンゲン100人分に相当します。」
幾多の歴史の中でニンゲンの戦争の終結に、疫病の治療に、自然環境の復興に、有翼人は貢献してきました。
それが、有翼人が元がニンゲンであるために、ニンゲンに 恋をしてしまった…そして…たった一人のニンゲンに 尽くしてしまいそのニンゲンに権力を与えてしまった…」
「はっ!全く、人間ってのは、業が深いぜ!!」星徒。
「ちょっと、星徒」
陽留がたしなめる。
「黙っていろって言いたいんだろ、わかっているけどさ、 でもよ、人間ってのは信用ならないぜ」星徒。
「……」
ウェル、リリアは言葉に出来ない。

「そういうことです。歴史の表舞台には出てきませんが、 伝説や伝承の中には、有翼人は伝えられているのではないのでしょうか?」
「セイさん…そんなことを知っているあなたは…」
リリアがセイを見つめる。
「それは…私が…」
「「私が?」」
ウェルとリアがセイの言った言葉を同時に反芻する。
「私だからです」
微笑みを浮かべて言う…セイ…あんたって人は…この言葉に、ウェルとリアだけじゃなく星徒と陽留もずっこける。
水優は相変わらずセイの手をつかんだまま、ニコニコしている。

 

その間に神殿の入り口に到着するセイ(と水優)
「この神殿は水神の神殿です。そして、蒼の島を封印している枷の一つ。ここが封印しているのは、蒼の島の北の部分と次の島への海路。」
そう、この島と次の島を直線に進むと、途中の大渦に船を粉々にされてしまう。
その為、次の島へは遠回りをするしかないのだ。
ただ、遠回りすると一ヶ月以上はかかる。
「この水神の神殿の封印を今から解きます。するとこの島と???の島を繋ぐ航路にある大渦が収まります。
そして???の島にある炎神の神殿にある封印を解くと その次の???の島への渦が収まり、そして大地の神殿、風神の神殿を解くと…」
セイは一度言葉を切った。
「この先は…いえ…その未来のビジョンを見る…それは、運命を切り開くと言うものです。私が言うべきではないと思います。」
「それは、つまり、その先に蒼の島の秘密が…有翼人の秘密があるって事で…複雑な訳があって、人から聞くより実際に見てこいってこと…?」
ウェルが言う。
やはりコイツは、単純一途な性格なようで、 特に何も考えていなくてシンプルに言ってしまう。
「つまりそういう訳です。それほど、過酷な旅、人が人として、何故生きるのかを 考える事になるからです。」
たんたんと話すセイ。
ウェルを…その深い清んだ湖の底のような美しい瞳で、心を見透かすかのように見つめている。
(この瞳に見つめられると、ウソなんて言えない…)

しかしこのヤバイ状況を打ち破ったのは、リりアだった。
「ちょっと、何言ってんのよ。それよりもね、私が 気を失っていて、覚えていないのは…」
「それは…」
次はリリアをしばらく見つめる。
「理由は一つしかありません。」
「あなたは、人間でなくなる運命を歩まなければならない、と言う事です。」
時が止まる…。
「先ほどの話にもありましたよね。有翼人は、元人間であると。それと同じように、魔族も元は人間なのです。」
「蒼の島の異変…その前兆に現われる世界の変貌のため、あなたは、有翼人になるか、魔族となるか、 それとも…」
最後の言葉は、とても聞き取れるものではなかった。
(そうさ、キミも結局俺らと同じように)
星徒は思う。
「この時、記憶をなくす者が殆どですから間違いありません。そのため 体調を崩す事もあります。」

(ニンゲンデナクナル、ミンナト、ウェルトチガッテシマウ)
ふらっと、リリアが自分の重力をなくしてしまって、地に足が つかなくなる。
いきなりそんなことを言われても わからない。
顔が真っ青になってくる。
顔の血色と一緒に自分 の体が落下してしまうようだ。
そのリリアを支えたのは…ウェルだった。
リリア よりも背は低いが、両の肩をつかむ。
「……」
リリアは言葉が出ない。
「それはもう止められない?」
「そうです」
「……リリアがどうなるかは、蒼の島に辿り着けば わかるのかな、セイ?」
「それは、あなたが決めてください。側にいるあなたが、 リリアさんの事をわかってあげるために、あなたが決めるのです。」

「……わかった。蒼の島に行くんだ。俺がそう決めたんだ。」
はっきりと強い勇気を持った瞳で、セイを見つめ返す。
決意を決めた瞳だった。
「わかりました。それでは、水優、
水神ウンディーネを呼んでください。」セイ。
「うん!! おっけ〜だよ。」
リリアは、くるっとふりむき、ウェルに抱きつく。
人は、不安になると何かに抱きつくものだ。
(有翼人達を支配するつもりの悪党ども、それを止めるためにコイツらを蒼の島までの道を開く、だけど、その仲間に、この人がいる。
でも、これじゃあ、よっぽど …くっ…こんな方法しかないのか?)
星徒は考える。
自分の過去と重ねあわせて…

 

 

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