蒼の島〜不可解な真意〜

 

「水神様〜、おいでください〜」
水優がそう言った直後、水優の前に水色で半透明の女性が現れた。
と、同時に神殿の扉も開く。
「…水優さん、お久しぶりです。」
「お久しぶりです、ウンディーネちゃん〜」
頭を下げて挨拶する二人。

続けてウンディーネはセイの方に向き直り…怪訝な顔をする。
「貴方は、何者ですか?セイマさんの姿をしても、私は騙されませんよ」
ウンディーネの言葉に一同が驚愕をあらわにする。
水優はセイから離れる。と、セイが口を開いた。
「流石に水神の瞳は誤魔化せないか。」
そう言うと、セイの偽者は素早くリリアを気絶させ担ぎ上げて神殿の中へ侵入する。
後には突然の事に呆然とした四人と、厳しい表情になったウンディーネが残された。
「皆様、何か嫌な予感がします。早くあの偽者を追いましょう」
ウンディーネは何処からか三又の矛を出し、そう言って、神殿の中へ入っていった。

 

「セイマさま…っ、セイマさまぁ〜…っ」
セイの姿をしていた者がリリアを連れ去ってから、水優はずっと泣きっぱなしだった。
そいつを追って神殿の中を走っている最中もだ。
「水優様、あの者はセイマ様ではなかったんです。セイマ様が裏切った訳では御座いません。」
陽留が絶えず肩を抱き慰めつづけているが、水優は泣き止まない。

「でも…っ、あれが誰だとしてもセイマ様にそっくりでしたぁ…
あれだけそっくりに出来るって事は…セイマ様に接触した可能でいが高いでしょぉ…?」
水優の言葉に、その場にいた者全員がはっとする。
水優はセイが裏切ったと思って泣いていた訳ではなかった、セイの安否を心配していたのだ。
確かに、あいつがセイの姿、魔力、気配や口調までを完全に真似ていたと言うことは、
直接セイに接触した可能性が高い。
…という事は、今はセイは…。
ウェルは自分の頭に浮かんだ考えを振り払う様に頭をフルフルと振った。
「大丈夫です、セイマ様の強さは並じゃない…」
星徒が今正にウェルが自分に言い聞かせた言葉と同じ言葉を口にする。

しかし…ウェルには気にかかる事があった。
いつもにこにこと笑っているセイだが時々寂しそうな頼りなさげな顔をすることがある。
マータが現れた時、急にセイが姿を消した事もあった。
セイにはどこか不安定な部分がある気がするのだ。
自分たちにはその部分を聞いたり立ち入ったりする事は出来ない。
きっと自分達なんかには理解しえない事だから…。
そんなセイを支えられるとしたらカーレテシーだとウェルは思っていたが、
今二人は別行動をしている…だから、今はセイが心配だった。

嫌な胸騒ぎがする。
いつも気丈なリリアも、ショックな事実を聞かされ、不安でいる筈だ。
守れなかった自分自身にも腹が立ったし、何よりいつもの仲間が側にいない事が、
ウェル自身を不安にさせていた。

 

「只やみくもに走っていても、あの者に追いつくことは出来ませんよ」
途端、ウェル達の後ろから、ウェルには聞き覚ぼえのある声がした
まばらながら全員が足を止め、後ろを振り返る…
「あっ!……お前!」
ウェルが思わず相手を指差すが、無理もない。
彼らの視線の先に立っていたのは、以前冷酷な感情とイメージだけを残し
ヒカゲを連れ去った少年…マータだったからだ。
「一体何の用だよ!」
敵意むき出しでウェル。
「ご挨拶ですね、せっかく協力してさし上げようと訪れたのに…」
マータの目は以前会ったときと殆ど変わっていなかった。
ヒカゲたちを『回収』するなどといった、あの冷淡な目と…
「協力なんて信じられるか大体お前は」

「追いつけないとはどういうことですか」
ウェルの言葉を遮り、ウンデーネがウェルとマータの間に割入ってきた
「それを聞くということは…?」
「わかっています。
今は一人でも多くの力を必要とするとき人を選んでいる余裕などありませんから」
ウンでーネのその言葉にウェルが反応する
(そうだ…今は…リリアを助ける為には…でも)
リリアを助けた後、あいつが再び敵に回ったら?
不安。ウェルはこぶしを硬く握り締める
そのウェルを、水優が心配そうな目で見ていたことを…ウェルは知らない。

 

―マータの道案内で一同は1つの扉の前に立っていた
「この中にリリアがいるのか?」
「そうとは限りませんが、ヤツがここに入ったことは確かです」
「じゃぁあ〜入りましょう〜」
水優がのんびりと扉に手をかける。
扉は重い音を立ててゆっくりと開かれた…

部屋の中には人影が二つ…
段々と近づき人影がハッキリしていくにつれ、ウェルの表情は驚きの色にかわっていった。
一同の目の前に立っていたのは、うつろげな表情をして武器を構えている。
…ラルドとケティアだった…
ラルドが虚ろな瞳のまま話す。
「おいっ、ウェル=カーオ、ここまで…」
バキッッッ!
ウェルがおもいっきりラルドの顔の横を殴り付けた。
するととたんにラルドが煙を発して姿が薄れてくる。
「おいっ、お前も消えろ!!」ウェル。
ケティアに小剣を向けて話す。と言うか脅す。
「わかったよ。」
ケティアは煙のように掻き消える。

そして、誰もいなくなった部屋でウェルが大声を上げる。
「おいっ!リリアをさらったヤツ、でてこ…」
「来てやったぞ〜〜」
ウェルの言葉が終わる前に姿をあらわした男。
それは、あの、ディネだった。
「どうしてわかったんだ。ツレなんだろ。」
「ラルドはな、俺の事を”ウェル”っていうんだよ。(それと、関西弁じゃねーなんて、バレバレだって)あとな、殴りやすかったからだ!!そんだけ。」
(コイツ…何も考えてねぇ)
星徒陽留

マータ 「ディネ、お前こんな勝手な事をして許されると思っているのか?」
ディネ 「マータ様、たしかに俺の独断で、こんな事をしたのは悪いと思ってます。でもマータ様。この子は今、ここで殺しておいた方がいいですよ。ホントに」
バキッ!ドコッ!
ウェルが小剣を構えて突っ込んで行ったのをディネが六角の槍ではじいて蹴り飛ばす。
ウェルが受け身をとって立ち上がり、叫ぶ。
「そんな事は、させるもんか!!」
「そうだ。そんな事はしなくてもいい。」マータ。
「しかし、マータ様。」ディネ。
「ディネ、命令違反は目をつぶろう。処罰もしない。だがしかし、これ以上の暴挙をするとあれば、私がお前を殺す。」
言葉の重みは、その人の目の鋭さに現われる。
マータの瞳には、情けと言ったものが一片もない無慈悲な冷たさが宿る。
この視線が突き刺さり、”殺される”と、そう思った。
そばで仰向けで浮いたまま寝ているリリアが、すぅ〜〜 と、ウェルの側による。
そして、リリアが落下し、それをお姫様抱っこするウェル。

「ウンディーネ、それと、陽留さんと星徒さん。私達は、これでおいとまします。ただ、わかって欲しい。
我らはただいたずらに、世界を混乱するために、蒼の島を探している訳ではないのです。また、会う時があれば、お話したいものですね。
…セイは、この水晶玉の中にいますよ。それでは…」
そう言い残し、マータとディネは、煙のように消えてしまった。
水優が水晶玉を手に取り、
「セイマ様〜〜、今出してあげますよ〜〜〜。」と言い、解呪の呪文を唱える。

シュウゥゥゥ
水優の魔法とともに、セイが姿を現す。
「ん…やあ、皆さん」
水優に抱き着かれながら、ケロリと話す。
「こっちが、本物なの??」
リリアをお姫様抱っこしながらウェル。
「どうやら、本物らしいわね。感覚でわかるわ。」ウンディーネ。
「やあ、ウンディーネさん。お久しぶりです。」セイ。
( 知り合いか??)ウェル。
「ねえ。
陽留さん。さっき、ニセモノのセイさんが言った言葉は…」
「本当よ。」
「残念だけど、その子…その子の事は、もう代えられない運命の道を歩み出したと言う事ね。」
陽留

 

……そして……
「さぁ、ウェルくん、リリアさんが目覚める前に皆のもとに帰りましょうか。」
「ちょっと待て、ウェルとかいったな、お前。お前に話しておく事がある!!」
星徒がウェルを呼び止める。

 

  3       10 11                        00年10月7日UP

 

小説TOP