蒼の島〜ディルの孤児院〜

 

セイが宿のドアを開けると、何故かそこには見知らぬ人が。
セイがドアを見てその部屋を自分達のものだと確かめると
セイ御一行様は宿屋のご主人に文句を言いに行った。
「誠に申し訳ございません。本当に申し訳ございません。」
「謝られても…こちらはどうすればいいと言うんですか。」
「でもなんで、僕らの部屋に知らない人がいるのさ。」
ひたすら平謝りする宿屋の主人にセイとウェルが尋ねる。
「だからしてそれはこちらのミスでしてぇ…申し訳ありません申し訳ありません。」
「わかりました…もういいです。でも、今夜はどこに泊まろう。」
主人を哀れに思ったかセイがそう言うと、主人はぱっと顔を上げた。
「そ、それなら、良い場所があります。」
「良い場所??」
「は、はい…西の森にある『
ディル様の孤児院』なら、多分。」
「ディル……?」
どうやらセイは"ディル"という名前を以前聞いた事があるようだ。
「そこなら泊めてもらえるのか?」
ウェルの問いに主人は即座に答える。
「はい、今日は何分旅人が多いようで他の宿もいっぱいでしょうし。
何よりそこはマース家のお嬢様が作らせたとかで随分大きいようですし。」
「マース家??」
ウェルが首をかしげるとその疑問にはセイが答えた。
「遠い北の地域の強い権力を持った貴族の家柄ですね。
なんでも独特の風変わりな魔法を使い、大地の祝福を受けている、とか。」
「はい、ですから大丈夫だと思うんです。それにそろそろ孤児院の人がここに来る時間ですし。」
主人はチラッと時計を見た。
それを見てウェルがまた疑問をぶつける。
「孤児院の人がここに?またなんで??」
「それは、募金活動のためです。あの孤児院はどうも子供たちがやたら多いんだそうで。」

その時だった。
セイは宿の外に異様な空気を感じて振り返った、人でもない、魔物でもない。
ただ土と魔力が固まったような…それなのに、とても暖かい、そんな空気を。
「すいませーん、ディルの孤児院のものですがー。」
宿のドアを開けて瓜二つの二人組の男女が現れた。
「おやおや、
ソルちゃんにテール君丁度良いところに。」
主人は愛想よくその二人を迎え入れる。
「良いところ??」
「何かあったんですか??」
テールと呼ばれた少年が首をかしげると、ソルというらしい少女も尋ねてきた。
「実はぁ〜、とっても言いにくいことなんだが…」
主人が言葉をつむぐ前にテールが叫ぶ。
「えぇーっ!?ま、まさか募金してくれないとかぁー!?!?」
「それじゃぁ、全然"良いところ"じゃ、ないんじゃないの、テール??」
「あ、それもそうか。じゃぁ何?」

二人のやり取りに苦笑しつつ、主人が話を切り出そうとした。
「実は…」
「俺達の泊まるとこがないんだ。このオジサンから孤児院のこと聞いたんだけど。」
またもや主人の言葉はさえぎられ、ウェルがソルに向かって事情を話す。
「あ、そう言うことですかぁ。それならいつでも大歓迎ですよ☆あなた方3人で良いんですか??」
にっこりと笑うソルにセイが慌てて付け足す。
「あ、いえ…後数人いるんです。結構な人手になりそうで申し訳ないんですが。」
「ドント ウォーリー♪大丈夫ですよ、部屋は馬鹿ほどありますから。」
心配そうなセイに向かって今度はテールが片目をつぶって見せる。
どうやら宿の心配はしなくてすみそうだ。

その時、ケティア達が宿に戻ってきた。
「ただいまぁ〜…って何してるの?」
「実は…」
セイがみんなに事情を説明する。

「…と、言う訳で今日はその孤児院に世話になる事になったんです。」
「ちょい待てぇ〜、この荷物持ってその西の森まで行けってか、そらキツイわぁ。」
「あ、重かったですか、すいません。」
情けない声をあげたラルドの持っている買い物袋を持とうとするリアに、今度は逆にラルドが慌てて言った。
「い、いや…そういう訳やないんやけど…」
「荷物なら、僕が持ちますよ、お疲れなんでしょう?気持はわかりますよ。特に、随分と連れ回されたようですしね。」
そういってテールが笑いながら荷物を受け取る。
「じゃぁ、行きましょうか。」
ソルが前に立ってみんなを促すと、ウェルがおずおずと言った。
「ま、待って…俺腹へって死にそう。」
「そういえば、そうですね。」
ウェルの言葉にセイが思い出したように同意する。
「それなら、孤児院に行けばお母様が夕食を作ってる頃ですからもう少しの我慢ですよ。」
「じゃぁ、お財布の中身の事も考えて…行きましょうか。」
ソルの言葉を聞いて幾分元気が出たのか、一行は重い体を何とか動かし、出発した。

 

宿を出てから約15分後、まだ森の入り口付近である。
「あ、馬車だ。いいなぁ、陸を旅するならあんなのがあれば便利なのに。」
ケティアがのんびりとつぶやく。
そう言いつつもケティアは浮布で浮いているので他の者から見れば十分楽そうなのだが。
「ん、どーしたの、ソルさん??」
リアのその声に一斉にソルに注目する。
なんと、ソルがテールに抱きついて震えているのだ。
「あ、皆さんどうか気にしないでください。ちょっと訳ありで…ソルは馬車がとても嫌いなんです。」
その視線に気づいてテールは苦笑しつつそう言った。
「ふぅ…そんなんじゃ、きれいな顔が台無しだぞ。そら、顔あげな。」
レイオウの言葉にソルは少し反応するがやはり小さな震えは止まらなかった。
ちなみにソルとテールは赤みのかかった茶色い瞳と薄くて茶色い髪でソルの方が少し髪が長い。
ソルは気立てがよく、テールはよく働くと村でも評判の姉弟である。

「テール、もう大丈夫…」
「そう?なんならおぶってくけど?」
やっとテールから離れたソルに向かってテールは優しく言う。
テールは現在も大量の荷物を持っているのに、それでもソルのことが心配なのだ。
「ううん、ホントに大丈夫だから…レイオウさん、ありがとうございます。」
「いやいやいやいや、どーってことねぇよ。それより先行こうぜ。」
「はい、そうですね、いきましょう…」
歩きだしたソルの背中を見ながら、
(なんだ、なんか妙だなぁ、、特に、語尾の"…"の部分。)
レイオウは微妙にずれてたことを考えていた。

更に5分後、森を歩いてる一同の前に突如として一匹の魔物が現れた。
もちろん全員が身構える、しかしその時。
「待って!!」と、テールが叫んだ。
「なんだと、お前正気か!?」
なおも身構える体制を崩さず叫ぶレイオウにソルが更に叫ぶ。
「待って下さい、レイオウさん!!」
「怪我してる…相当深いよ…ソル、急いでお父様呼んで来て!!」
「うん、わかった、急いでいってくる!!」
テールの言葉にソルは素早く反応し、孤児院に向かって走っていった…結構早い。
「あの、誰かこの子運ぶの手伝ってくれませんか??」
「まってよ、それじゃぁ、僕が何の為にここにいるんだよ、回復魔法ぐらい使えるって」
テールの問いかけに、最近あまり活躍してないような気のするケティアが出てきた。
が、しかし、ケティルが魔法の詠唱をし始めると魔物は牙をむいてケティルを威嚇した。
「ちょ、ちょっと、ボクは君を治そうと……」
「この森の魔物達は、孤児院のみんなにしか心を開きません…だから、お父様でないとダメなんです。
この子を運びますから、誰か手伝ってください。」
テールが一同を見渡すと、ラルドは慌てて抗義した。
「ちょい待ちーや、ほんなら、手伝ってもこいつに襲われんのがオチやないか。」
「大丈夫。僕が前を持ちますから、そっちが見えないようにちゃんとしますし。」
「ほんなら、わいがてつどうたろ。」

数分後、テールたちのもとにソルとテールの父親、ディルが駆けつけた。
その長い髪(腰まで伸びてたりする、長すぎ)の隙間から女のような顔を覗かせている。
「大丈夫ですか…?」
ディルはそう言うと、詠唱もせずに回復呪文を発動させた。
とても、あたたかく…
「お父様、その子治る??」
ソルの問いかけに、ディルはゆっくりと、首を横に振った、歯軋りをして、涙をこらえながら。
するとディルは、呪文を止め、魔物をゆっくりとなで始めた。
「大丈夫、何も怖がることはありませんよ、目を瞑って…」
明らかに周囲の空気が変わった、初めは警戒していたウェル一行も、
ディルの放つとても優しい、まるで母の胸の中にいるような空気に包まれていた。
「キュゥゥゥゥ〜………」
魔物が小さくうめき声をあげる…そしてそれは最後にその魔物が発した声となった。
「…………息を、引き取りました。」
周りに少し辛気臭い空気が流れる。

涙をこらえてディルは立ち上がった。
「さぁ、行きましょうか、
メルツがきっと食事を作って、首を長くしてフロイと一緒に待ってますよ。
それに、あなたがたもへとへとなのでしょう?」
「そうだね、お母様とフロイ兄さんが待ってる、いきましょう。」
テールの明るい声に、ソルも同調する。
「兄さんはいつもお父様にべったりだから、きっと気が気でないでしょうしね。」
「あ、それ言えてるかも。」
テールも笑いながら言う。
そして、一行は孤児院に向けて再出発した。

「なんか…変だな。」
突然カーレテシーがぽつりと言った。
「へ??」
ソルとテールは同時に聞き返す。
「お前らの『親』にしては、あのディルってやつ、若すぎくないかと言ってるんだ。」
「んー…まー、そこらへんは諸事情と言うことでー。細かい事気にすると…」
テールが思わせぶりに言葉を切ったのに、ケーレテシーは先を促した。
「…ん?」
「ん?なんだっけ??」
期待はずれのテールのつぶやきにカーレテシーはうんざりして目をそらす。
「…もういい、お前と話すと調子が狂う。」
「じゃぁ、私と話しますかー??」
「いい、どうもやりにくい。」
せっかくだがソルの誘いも断って、カーレシーはぷいと外を向いてしまった。
セイはそんなやり取りを眺めて苦笑している。

 

「さぁー、つきましたよぉー。」
一行がたどり着いたのは森の真ん中らへんにある弧を描くように立てられた洋館だった。
「ささ、皆様遠慮なくくつろいで下さいねー。」
「うわー、こらまた中も随分とでっかいなぁ〜。」
簡単の声をあげるウェル。
「あれ??セイさーん、入らないんですかー??」
テールがセイに声をかけると、セイはちょっと微笑んで見せた。
「ねー、ディルさーん、とりあえずリリアをどこかに置いときたいんだけど…」
「あ、それもそうですねェ…
カローン、カロン、ちょっと来て下さいなー。」
ディルの言葉に答えて、天井から一人の男が降りてきた。
背は180cm位、髪は赤く、背中に蜂のような羽をつけ、その額には、立派な角が生えていた。
ライラックじゃありませんか、、カロンはどうしたんですか?」
ライラックと呼ばれた男はディルの言葉にすぐ答えた。
「カロンなら、森を見回りに行きました。何分、最近森の中が物騒ですので。」
「あら、そうですか、じゃあ、ライラックに頼みましょうか。」
「!…何か、あったんですか?」
さっと顔を厳しくして、ライラックはディルに問う。
「いえ、そんな大した事じゃないんですが、そこのお嬢さんを、部屋まで連れていってほしいだけです。」
「そうですか、そんな事なら、お安いご用です。」
ほっと表情をやわらかくして、ライラックはすっとリリアのほうを向く。
「そのお嬢さんを、こちらに貸していただけますか?」
そういって、ライラックは少し警戒しているウェルからリリアを受け取り、部屋へ行こうとした。
それを慌ててウェルが引き止める。
「ちょっと待って!その…一緒について行っても…いいかな。」
「ええ、構いませんよ、ついて来てください。」
ライラックはすぐにそう言い、ウェルと一緒に階段の上へ上っていった。

「さぁ、食事にしましょうか、、食堂はあっちです、ついて来てください。」
にこやかなディルの言葉にラルドがおずおずと言う。
「あんな、ディルさん、悪いんやけど、ワイら実はもう食事摂ってるねん。」
「あら、そうなんですか?」
「そそ、摂ってへんいうたら、セイとウェルとリリアぐらいや。」
羅列された名前を聞いて、ディルはふと首をかしげる。
「リリア?あぁ、、あの眠ってたお嬢さんですか?」
「そやそや、そういうことやねん。」
ディルはそこでセイに向き直った。
「じゃぁ、セイさん、食堂はあっちなので、いっしょに参りましょう。」
「あ、はい……」
セイは少しうつむいて答える。
「どうか、なされましたか?」
「いえ、なんでもありません。行きましょう。」

 

「あ、ディルさま、お帰りなさいませ。魔物の方はどうでしたか??」
と、ディルが食堂にはいるやいなや尋ねたのは、金髪にブラウンの瞳。
その顔は少々男にも見えないこともない女性だった。
ディルはそれを聞いて残念そうにその女性に微笑みかけた。
「いいえ…ダメでしたよ、メルツ」
「そうですか、残念です…」
メルツと呼ばれたその女性は、自分も表情を曇らせる。
「あ、セイさん、遠慮なくお掛け下さい。メルツ、セイさんに食事を」
メルツは慌てて食事の準備にかかった。
「はい、わかりました。ちょっと座って待っててくださいね。」
そう言われて、セイはこれまた随分と広い食堂の沢山あるテーブルの一つに腰を下ろし、ディルもその向かいの席に座った。
「ディル…さん?」
「なんでしょうか?」
セイはずっと難しい顔をしていたが、ふと顔を上げてディルに向き直った。
「食事の後に、話したいことがあるんでしょうが、よろしいですか?」
「?今じゃ、ダメなんですか?」
「いえ、二人きりで話したいことなんです。」
「…わかりました、それじゃぁ、食後に、少しそこでも散歩しますか。」
「ええ」

 

その頃、ラルド・ケティア・カーレテシー・リアとレイオウは…
「どわぁ〜〜!!なんやねんこの子供の数はぁ!!?」
そこには、約500人の子供たちがいた。
「これだけいれば、資金不足って言うのも頷けますね。」
変に感心したように言うリアに、ソルが苦笑して答える。
「今からこの子達が全員いるか確認して、それからみんな一緒に就寝の準備するです。」
「できれば…手伝ってくれますか??」
申し訳なさそうに頼むテールに、レイオウとケティアが苦笑した。
「なんか…こんなの見せられると。」
「絶対手伝えって感じだねェ。」

 

それと同時刻、ライラックとウェル。
「これでよし、さぁ、食堂へ行きましょうか。」
「そうだね、リリアにちゃんとふとんもかぶせたし、くつもちゃんと脱がせたし。」
律儀なウェルの確認に、ライラックはふっと笑った。
「あなたは、変わった人ですね。」

 

その頃、森の中。
「ひゃっほぉ〜〜〜〜〜〜う!やっぱ体動かすなら森に限るよなー!!」
と、木々を飛び移りながら独り言を大声で言うこの肉球&猫耳付きの赤毛の男。
この男こそカロンだった。
「さってとぉ〜、そろそろ見まわりも終わりにするかなー…ん??」
その時カロンが見たものはカロンの幼馴染の
ベローナだった。
「ベローナじゃねぇか、久しぶりだな、おーい!ベローナァァ!!」
ベローナは呼ばれて振り向くと、カロンに気づき手を振った。
「あ、カローンひさしぶりぃ〜!あ、そうそう、ディル様いるー?」
「ディル様ならいるけど、
ヘンリ様からの用事か?」
「うん、そんなとこだよ、ディル様のことまで連れていってくれる?」
「あぁ、まかせとけ!」

 

    5     10 11                      00年12月09日UP

 

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