―――チン!
カーレテシーが、閃光のような動きで剣を振るい、鞘に収めたかと思うと
取り巻きの男達が、バタバタと倒れていった。
「まっ、7人と言ったところか。」
カーレテシー。
「そして、私が残りを魔法で気絶させて…」
セイ。
「僕が、防御呪文で引き付けておいて、雑魚を一掃っと。これで、後は、おねーちゃん一人だよ。」
ケティア。
なんだか打ち合わせをしていたような連係プレーだ。
「あなたっ、私が聞いたところ。ドリムテルゥーでなんでも願いがかなうと聞きました。
それでも、こうして実力行使で、人(鳥?)さらいと言うのはいけませんね。
…これだけ大規模ということは、何か、組織的なものなのでしょうか?
というと、ひょっとして、世界征服でも、企んでいるのですか?」
何故か、フードを深くかぶりながら話すセイ。
「答える義務はないな。私は仕事をこなすだけだ。」
銀髪の女がフッっと浮いて、ケティアの眼を見ると、ケティアは、気持ち良い顔で、眠ってしまった。
「おい、ケティア?」
カーレテシーが寝ているケティアに声をかける。
「無駄だ。その魔法使いはしばらく夢の中をさ迷いつづける」と、銀髪の女性。
瞬時に女性に斬りかかるカーレテシー。
しかしその剣は女性が抜いたナイフにあっさりと止められる。
「!」
一瞬、驚愕の表情を浮かべるカーレテシー。
その一瞬で女性はカーテレシーの後ろに回りこみ、カーレテシーの首元にナイフをつきつける。
カーレテシーが弱いわけは無い。
…女性が強すぎるのだ。
「…名前くらい名乗れ」
カーレテシーが言葉を発する。
「そうだな。私の名はミリア=レリエス。…冥途の土産には十分だろう?」
「!…」
カーレテシーはその名を知っていたようだ。少し驚く。
「…放たれよ、魔狼の咆哮ッ!」
セイが魔法を放つ。
セイの眼前から放たれた暗い紫色の光線がミリアへ向けて突き進む。
「いと高き蒼空に在りし存在よ、汝の力、一条の光芒となりて彼の者を撃て」
ミリアが呪文を唱え、魔法を発動させる。
ミリアが放った白い光線がセイの放った暗い紫色の光線をかき消し、セイの顔面に向かう。
それをセイは紙一重で避けるが、フードが光線に焼かれて顔が顕わになる。
「なっ…!」
絶句するミリアと…微笑んだままのセイ。
カーレテシーは絶句したミリアのナイフを拳で弾き飛ばしてミリアから間合いをとる。
「…ふむ、少々見くびっていたようだな…」
ミリアは呟くようにそう言うと、次の瞬間叫んだ。
「ヒカゲ!ミカゲ!」
「「はっ!」」
何処からともなく先程の姉妹の声がした。
まあ、吹き飛ばした方向に走って来たのだから当然と言えば当然だ。
「お前達、2人でドリムテルゥーとその飼育者を追え」
「…ですが、どちらを?」
恐る恐るといった様子で尋ねるミカゲの声。
「そうだな…」
わずかな沈黙。
その間も視線はセイとカーレテシーから外れていない。
「格闘家らしい男と逃げた黒髪の娘がいたな。そちらを追え。残りはチカゲがどうにかするはずだ」
「チカゲが?!」
「チカゲ姉様が?!」
ほぼ同時に叫ぶヒカゲとミカゲ。
その声に含まれるのは、驚きと言うよりもむしろ…
――― 恐怖 ―――
「ああ、お前達は知らぬのだったな。チカゲは私の命令なら聞くのだ」
それはつまり『ミリアの命令以外は何をするか判らない』という事か。
「解かったのならば、行け」
「「りょ、了解!!」」
直後、ヒカゲとミカゲ、2人の気配が消えた。
「良いんですか?止めさせなくて」
いつもの口調で、セイがカーレテシーに問う。
「あの女がそれを許すと思うか?それに…」
「それに?」
剣を構え直しながら答えるカーレテシー。
更に問いかけるセイ。
「…リアには、ラルドがついている」
「そうですね」
カーレテシーの返答に、セイは微笑で同意する。
何時の間にか、2人とも戦闘体勢に入っていた。
――― 一方、ラルドとリアはと言うと ―――
困っていた。
非常に困っていた。
リアの体力がついてこないのである。
男と女で基本的な体力の差があるのはラルドにも分かっている。
しかし、格闘を得意とするラルドと後方支援を主とするリアとでは、その差が更に広がってしまうのである。
とりあえず今は休憩を取っているものの、このままこの場に留まっている訳にはいかない。
もちろんラルドがミリアとヒカゲ達の会話を知っているはずがない。
ただ、ラルドの第6感が、このままこの場にいることを良しとしないのだ。
「リアちゃん、すまん!」
そう叫ぶと、ラルドは片腕をリアの膝の裏に差し入れ、もう片方の腕で背を支えて抱き上げた。
俗に言う『お姫サマ抱っこ』の体勢である。
「嫌やったら、後で幾らでも殴ったらええ。せやから、今はちょっとだけ我慢しててな」
そう言うと、ラルドはそのまま再び走り出した。
リアはと言うと、顔を真っ赤にしているものの、ラルドの暴挙(笑)を止めさせる気は、とりあえず無いらしい。
ラルド君、『役得』と言うやつである。
――― 一方ウェル達。
―――
「ほらっ、もっと早く!」
リリアの手を引くウェルは、全力疾走だ。
ガワッシャ〜ン!!
…と思ったら、思いっきりこけた。
樹の根本にもつれ合う ウェルとリリア。
(わっ、こんな近くにリリアの顔が????)
困惑するウェル。
「オイッ このバカッ!
俺は、ヤローに見つめられる趣味ねーんだ。見るんじゃねーよ。減るだろ!」
口の悪いレイオウが怒鳴る。
なんと、リリアと思ったら、それは、レイオウだった。
顔だけ見ると、リリアとレイオウの区別がつかないウェルだった。
「へえ、君達ドリムテルゥーを連れてるんだ?」
「…それが何だよ?」
突然現れた女に問い掛けられ、無愛想に答えるレイオウ。
どうやら先程の1件がまだ尾を引いているらしい。
「それじゃ、殺さないといけないね」
「何ですって?!」
無邪気な口調で発せられた物騒な台詞にリリアが反応する。
「あ、違った。ドリムテルゥーとその飼育者は捕まえないといけないんだっけ」
独り言の様に言う女にウェルが問う。
「アンタ…何者だ?」
「ぼく?ぼくはねぇ…チカゲだよっ」
言いながらその手に鋭い鍵爪のような物の付いたグローブをはめる。
「さあ、覚悟はいい?」
問いかけるその眼は、楽しそうに笑っていた。
チン!!
ガキッ!ズガガガガッ チャリ、リン!
激しくウェルの小太刀二刀流と、チカゲの鍵爪のつばぜり合いの音が止まる事なくこだまする。
二人の武器が、接近戦用、手数で勝負するもの…と同じ性質なために二人は激しく戦いあう。
しかも樹を伝って、樹の上から下へとものすごいスピードで戦い、打ち合う。
もう、この二人には、お互いの敵しか見えていないように…
「ちっ、こんなにスピードじゃあ、俺の矢がウェルに当たっちまうぜ!」
レイオウが、何もできずに矢をつがえたままだ。
「おいっリリア!!お前、どこに行くんだ。」
叫ぶレイオウ。
その視線には、リリアは一目散に走り出している。
「くそっ、あの女、自分がヤバクなったらとんずらかよ。ちっ
これだから女ってのは…」
(ちがうっ、リリアが俺を置いて逃げるわけ…ないよでも死ぬくらいなら逃げてくれ…いや、これは作戦?)
ウェルの心の中でポツリポツリと…
「はははっ、逃げたよ。君が守ってあげているのにね。まあいいよ。
君を片づけてそのあと捕まえるから。あれっ殺すんだっけ?」
チカゲが話す。
その声には、人としての抑揚と言うものが何も感じ取れない。
戦いの最中チカゲがリリアの方にほんの少し目をむける。、
「あれっ、あれってあの鳥…」
ピカッ…!
チカゲがリリアが走った後の方向にドリムテルゥーを見つけて、その方を見た。
…となると、チカゲと向き合って戦っているウェルの後ろにドリムテルゥーがいるという事になる。
そのウェルの後ろから
まばゆい光がチカゲの視界いっぱいに入っていく。
目がくらみチカゲが目を伏せ攻撃が止むと…
「そういうことか…っ」
バキィッッ!
一瞬の油断の隙にウェルの蹴りがチカゲの頭にヒットした。
チカゲが重力の方向を見失い落ちていくと…
「なるほどね…」
ヒュン ヒュン スクッ―――
レイオウの矢がチカゲの両のふくらはぎに突き刺さる。
いや、これは、突き刺さるというよりも、くっついたと言う表現の方が正しい。
魔力を帯びた球状の矢じりが くっついたのだ。
「これで動けないな。俺達3人の勝ちだ。おっと…3人と1匹か。」
レイオウ 。
そして、ドサッっとチカゲが落ちる。
樹の上からウェルを抱いたリリアが降りてくる。
ウェルは汗びっしょりで、切り傷も無数にある。
この疲労と傷からすると
あのまま戦っていたらスタミナ切れでウェルが負けていただろう。
「もう…こんなになるまで戦って…バカ」
リリアは泣く寸前のか細い声でウェルに話し掛ける。
「はははっ、3人寄れば文殊の知恵ってやつな。―――あたっ、そこ痛いって…」
「あっ!ゴメンネ。」
「なあ、リリア …信じていたよ…」
瞬間、リリアはパッと顔を紅くした。
「何恥ずかしい事言ってるのよ!」
そのまま勢いに任せてウェルの背中をばんっと叩く。
「痛ぁぁっ!!」
涙目で叫ぶウェルと慌てて背中をさすり始めるリリアを見て、レイオウは楽しそうに笑った。
「しかしチキを使うなんてよく考えたなぁ」
レイオウの肩に止まったドリムテルゥー…チキというらしい…を撫でるレイオウ。
「こいつの能力を知ってたのか?」
「え…ううん」
きょとんとして答えるリリアに、ウェルとレイオウは眼を丸くする。
「ただ、ドリムテルゥーって普通の鳥じゃないみたいだから、
何か能力があるだろうな、と思って…」
「じゃ、じゃあ、何も起こらなかったらどうするつもりだったんだ!?」
「その時はその時で考えるまでよ!」
レイオウの問いかけにガッツポーズを作りつつ、リリアは元気に答えた。
「……お前の幼なじみ、半端じゃねぇのな」
レイオウがウェルに呟くと、ウェルは黙って苦笑で答えた。
ラルドは走っていた。
リアをお姫様抱っこのまま走り
、頭の上にドリィがとまっている。
はたから見れば、 相当変な格好である。
「へやっっ」
そう叫ぶと、森の樹の上に入り込む。
外からは見にくいはずだ。
「もう こんなもんでええかな。だいぶ 遠くや。
リアちゃん、ここに座りなや。」
ラルド 。
「うん…でも…これからどうしたら良いのかしら。ドリィ
ちゃん達を誘拐しているなんて…
それに、お兄ちゃん も戦っていて…」
暗く沈んでいくリア。
「ああ…リアちゃん。暗くなるのはやめ〜や、なぁ。
大丈夫や。
そのうちケティアの分身でも飛んできて
うまい方法でも考えてくれる。」
「うん、そうだよね。
きっと、お兄ちゃんがなんとか
してくれるわ。いつもそうだったもの。」
リア。
その表情を見ていてラルドは少し悲しくなった。
この状況でも、リアはカーレテシーを頼りにしている。
カーレテシーならば全ての問題を解決してくるれると
信じているのだ。
自分よりも…
今の自分がリアの心の支えになってもいない事を実感せざるを得ないのだ。
―――その時、小さな竜巻の中から、ヒカゲとミカゲが現れた。
「あれ〜〜、この当たりなんじゃない。」
「ええ。多分。私のアンテナはすごいんですのよ。
ここまで すごいスピードで走って来て…ここで止まっていますわ」
「あんた、前もそんな事言っていなかった?
それで、前は どこにでもいる時速100キロで走るただのブタだったじゃない。」
「うう…でも、今度は本当ですわ。そこいらに隠れています。」
「あっちゃ〜〜。もうばれてしもたんかい。あいつら
てれぽ〜と だかゆう魔法つこーてんやな。」
ラルド。
(わいが、あいつらをへこまして…そんで、ウェル達と合流。
これでええんやけんど、でも、ゼッタイ負けへんかと言うと…あんま自信ないな…)
ラルドが自分の第6感で勝てるか、
勝てないかを判断する。
こういう動物的勘はバツグンなのだ。
「なあ、リアちゃん、ここから、絶対出てこないと誓って
くれへんか?」
「えっ?でも、こういう時は…」
「ええから!わいのない頭で考えた作戦を実行するんやから…ええな。ゼッタイ、ここから出んといてな。」
「うん…」
静かに樹の中から出てきて、ヒカゲ達の後ろから
怒鳴るラルド。
「おいっ、おめ〜ら、リアちゃんと、ドリィをどこにやった〜〜!」
飛んでいるヒカゲ達は、ラルドの前にやってくる。
「あらっ、自分から出てくるとは、とんだお馬鹿ね。」
「だって、見かけ通り頭悪そうですわ。あら?でも、ドリィ
って何かしら。」
ヒカゲ&ミカゲ。
「鳥のことや!
ええから、どこへさらったんや!
今の内にゲロったほうが身の為やぞ!!」
きつい言葉のラルド。
「ああ嫌だ。品がなーい。」
「でも、解りましたわ。きっと、チカゲ姉様がもう一方の方を
ちょちょ〜〜いと捕まえた後に、
こっちも捕まえたみたいですわ」
「嫌よね。全くあの子ったら気が早くて…」
「私たちは、これだけですの?ついでですから、
殺しちゃいましょう。」
ヒカゲ&ミカゲ。
お嬢言葉の話は、 聞いていて頭が痛くなる。
(これでええかな。わいをぼこれば、さっさとコイツらの仲間の
とこに戻るやろ。
これで、カーレテシーみたいになれたかいな)
(ラルドさん…)
少し遠い樹の中から見ているリア。
(せやけど、只ではやられへんで…って、よく考えたら
わい…女の子と戦ったことあったっけか???
ジャリンッ!!
「どわっ!」
不意に、ヒカゲのチェーンウィップが飛んで来た。
かろうじてそれを避けるラルド。
「敵を前にして考え事なんて余裕なのねぇ」
笑いながらヒカゲが言う。
明らかに皮肉だ。
「本当に。私達もなめられたものですわね」
上着の裏から、針を数本抜き出しながら言うミカゲ。
その針は、30cmはあると思われる長いものだ。
そうしてそれを構えると、ラルドの方へと飛ばす。
「ちぃっ!!」
再びギリギリの所でかわすと、ラルドはそのまま一気に間合いを狭めようと走った。
…が、
「!!」
嫌な予感がして思わずその場に踏みとどまる。
…と、同時に目の前をヒカゲの武器が通りすぎた。
「へぇ、なかなかやるじゃないの」
微かに喜びを滲ませたヒカゲの声。
「これなら楽しめそうね」
ヒカゲの鞭が飛び、ミカゲの針が宙を舞う。
ラルドはと言うと、自分の間合いが取れないため、それらを避けることしか出来ない。
戦いの流れは完全にヒカゲ・ミカゲ姉妹の方へ向いていた。
「ああ、もうっ!ちょこまかと五月蝿いですわ!!」
キレたようにミカゲが叫ぶ。
…と、腰から短刀を外してかざし、一気に呪文を唱えた。
「我が愛刀よ、縛めの楔となりて我等が敵を封じこめよ!」
そして、そのまま針と共にラルドへ投げる。
が、これもまたラルドにかわされる。
しかし…
「なっ!!」
ラルドの動きが止まる。
見るとミカゲの短刀はラルドの影を貫いていた。
『影縛り』と言うやつである。
彼女等がこの隙を見逃す筈が無かった。
「がっ…はっ…」
ヒカゲの膝が、ラルドのみぞおちに食い込む。
ガクリと傾くラルドの身体。
そして…只1人、この状況を黙って見ていられない人物が、叫んだ。
「ラルドさんっ!!」
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 13 00年3月25日UP