蒼の島〜今後〜

 

「おい、ちょっと待てよー」
タタタタタタッ
ウェルの呼び声もむなしく、階段を駆け上がっていくカーレテシーとリア。
「んな事ゆーてる場合とちゃうでーウェル、お客さんや」
ボスを連れて行かれたと知って追ってきた盗賊団の部下達。
ざっと数えて30数人という所だ。
「ねぇ、この数相手に僕たちだけでやるのー?」
不安そうに返事を求めるケティア。
「しゃあないやろ、気合い入れーや2人ともっ
単純計算で一人10人を相手にする計算やっ!」
「じゅっ、10人っ? いくら何でも辛すぎるって!」
「えーいっ、やかましわいっ!うだうだゆーとらんと男見せいっ!
我流格闘術ラルドっ、いくでーっ!!」
言うが早く拳をかまえて盗賊団の方に颯爽と向かっていくラルド。
「あー分かったよっ、やってやるさっ!
二刀短剣術、ウェルっ!相手になってやるっ!!」
ウェルも覚悟を決めたのか二本の短剣を構え、向かってくる男達に迎撃の体勢をとる。
ただ、その声は半ば投げやり気味に聞こえないことも無い…。

「ねぇ…」
「なんやっケティアっ!早よお前も詠唱はじめーやっ!」
目の前にいる男の顔に蹴りを入れながら叫ぶラルド。
「ダメなんだけど…」
「はぁ?何がやっ!?」
今度は振り向きざまに背後にいた男に裏拳を当てる。
「ここって、魔封じの結界がはられてるのっ!」
「だったらまず結界を中和すればいいんじゃないのかっ?」
階段の前で盗賊達を迎え撃ちながら会話に参加するウェル。
「結界解除の法って結構高等呪文なのっ!媒体となる浮巾がなけりゃ使えないよぉっ!」
「ええっ!?」
「っちゅーことは…」
『1人で15人相手に戦えってのかぁっ!?』
はからずとも声をそろえて絶叫するウェルとラルド。

「おらおらっ、そろそろ覚悟しやがれガキどもっ!!」
迫り来る盗賊達の魔の手。
激しい脱力感と疲れの中、応戦するラルド。
只の役立たずと化してしまったケティア。
そしてだんだんと影が薄くなっていくウェル…
「だぁぁぁぁっ!!キリがねぇっ!!」
次々と襲いかかって来る盗賊団を片付けながら、ウェルは叫んだ。
「その前に場所が狭すぎやぁっっ!」
同じような状況で、ラルドもヒステリックに叫ぶ。
短剣を扱うウェルはともかく、格闘一本のラルドにとって、
階段へ続く通路での戦闘は、戦いづらい事この上なかった。
「『階段まで近よらせるな』言うても、『地上についたら』っちゅうことは
こいつら全員倒さなあかんっちゅう事やろ…」
ぶつぶつ言いながらも、きちんと敵は倒している。

この盗賊団、実力はあまり無いようだ。
「…じゃあ…どうしてこんなに大きな顔していられるんだ…?」
ウェルは戦いながら考えていた。
「!まさか……!」
振り返ると、ケティアも何かに気付いた顔をしている。
「カーレテシーとリアは…」
ウェルがつぶやくと、ケティアは二人を追って地上を目指した。
「僕の『浮巾』が危ない!!」
「あっ!ケティア!お前いくら役立たずになったからって逃げんなやぁ〜っ!」
一人、何も気付かないラルドの声が、空しく通路に響いた…

 

ケティアは全速力で階段を駆け上がり、ドアを開ける。
そこは、入ったときの宿屋の風景で、すぐ側には、カーレテシーとリアが、
のんきにお茶を飲んでいる。
「ああっ! カーレテシーさん。僕の浮巾を返してよ。」
「ああん。ああ、あの坊主か。…ほらよ。」
フワサッと投げられた浮巾は、ケティアの頭に乗っかる。
久しぶりの感触だ。
「ええっ あなた、これを売るつもりじゃあ。」
「少しは静かにしろよ。食事中だぜ。(リアは、隣でホットケーキを食べている。)
あのな。確かに魔法の触媒を売れば、結構な金に成るんだが、それじゃあ強盗だろ。
俺は、強盗からしか盗まないんだよ。これが俺なりの正義だ。これなら心が痛まないからな。
それに、お前らを置いていったのは、リアを危険なところに置いておきたくなかったからだ。」
「へ〜〜。てっきり僕は、これを持っていって、僕らを足止めしておいて、そのままとんずらかと思っちゃった。
あなたって、ごうつくばりみたいだから。」
サラリとすごいことを言うケティア。
「はっ 正直だな。気に入ったぜ。何か食うか。そのうちにポリスもくるだろうしな。」
「あっ それじゃあ、僕、ミルクプティングがいい〜〜。」
天使のごとき笑顔で、注文を取るケティア。

 

…5分後。
ウェル、ラルドがボロボロで出てきた…
「ケティア〜〜〜 何おまえ くっちゃべってんねん。」
スッゴイにらみで、地の底から出てくるような声で話すラルド。
「…で?盗賊達はどうなったのさ。」
ミルクプディングをすっかり食べ終えたケティアが食後のアイスミルクを飲みながら言った。
「ふぁふぁふぁいつらふぉふぁ…」
口にフランスパン(何故!)をほおばりながらラルドが何か言っているが、全く解らない。
「全部食い終わってから話せ!」
ツッコミをいれるウェル。
「ふぁらふぉふぁふぇふぁふぁふぁふぇふ」
↑訳『ならお前が話せや。』

「わかったよ。…まぁ とりあえず俺達を襲ってきた盗賊は倒した。
これ以上悪事を働くな…って言うことも約束させた。」
ウェルの話を頷きながら聞くカーレテシー、リア、ケティア。
まだフランスパンを食べ終えないラルドι
「でもなんっかおかしいんだよなー」
「なにがだ?盗賊は倒したんだし、それでいいんじゃないか?」
考えこむウェルに、カーレテシー。
「…あいつら、盗品を返そうとしないんだよ。」
「そりゃぁ、いろんな所に売っちゃったからでしょ。」
ウェルの疑問をきゃらきゃらと笑い飛ばすケティア。
「……そうか!」
それを聞いてカーレテシーが何か感づき、机をたたく。
「リア!お前がアジトを見張ってるあいだ盗品を持ってアジトを出入りしたやつらはいるか!?」
「えっ?く…詳しくは解らないけれど、多分いないわ。」
突然話をふられて焦りながらもリアが答える。
カーレテシーとウェルはリアの答えを聞き、何か確信を得たようだ。
「何々?何二人で納得してんのさ!」
「あいつらがぼこぼこにされてまで盗品を返そうとしなかったのは、
盗品がすでにアジトにないからだっ!」
『え゙ぇ゙〜〜〜〜〜?』
思わずリアとケティアが声をあげた。
一方ラルドはやっとフランスパンを食べ終え、コーヒーをカフェオレ状態にして飲んでいる。
どうやら、ラルドはウェルと同じ様に何か知ってるようだ。

カーレテシーが咳払いを一つし、説明をはじめる。
「よーっく考えて見ろ?あいつらはリアが見張っている1週間のあいだ盗品を持ち出してないんだ。
これはわかるな?」
続いてウェル、
「…と言うことは、奴らは盗品を売らずにアジトに持ってるか、盗んだ時点ですでに誰かに渡してるか
…のどちらかになる。」
そしてラルド。
「けど、わいらが盗賊たち数人殴って聞いてみたとこ全員『ここにはない』いうとってん。
そりゃぁもう必死にな。つまり〜…」
「アジトにいた盗賊以外にもっと力を持った奴がいて、そいつが盗品を持ってるんだ!」
ラルドの話をさえぎり、ケティアが結論を言ってしまった。
「―――そう言うことだな。」
5人はお互いの顔を見て頷いた。

「話は解ったけど…これからどうするの?」
リアは頬杖をついて、残りの4人を見回した。
「どうするのって言われてもなぁ…」
ウェルはつぶやき、ラルドの方に向き直った。
「どうする?」
「悪事を働かないって約束はさせたやないか、もういいんちゃう?」
ラルドの簡単な言葉に反応したのはリアだった。
「その人たちがその言葉を守るという確信はある?
例えその人たちが大人しくしていても、もっと大きな力を持った人がいる限り
問題は繰り返されるんじゃないかしら。
それじゃあ、問題は解決された事にはならないわ!」
「そうそう、そうなんや!さっすがリアちゃん、ええ事言うなぁ〜♪」
さっきまでの面倒くさそうな態度は何処へやら、ラルドはその場に立ちあがりリアの手を握った。
「あ…あの…?」
「当面の問題だけ解決すりゃええってもんやないでっ!
大事なのは根っこや、根っこ!」
「ラルドがもういいって言ったんじゃないか…」
ケティアのつぶやきを無視して、ラルドはリアの手を取ったまま
明後日の方向へ指を指して叫んだ。
「とにかーく!わいらのこの後の目的は、頭をつぶす事に決定やーっ!」
叫ぶラルドの隣には、溜め息をつくケティアとカーレテシー。

「質問! いいかな?」
最後のハーブティーを飲んでウェルが少し手を挙げて言う。
「えっっ、はい。いいですよ。」
リアが答える。
「あのさ。なんでまた、あの強盗団を捕まえようとするわけ?
だってさ、賞金を手に入れるにしても、これ以上危険なことに首を突っ込まなくてもいいじゃん。」
「そいえば、そうだよね。警察でもなければ…あっ、リアちゃん、何か理由があるの?」
これは、ケティア。
「……」
うつむいて、目にほんの少しだけ涙を溜める
リアは話すか、ごまかすか、どうするか迷っているようだ。
「あっ、言いにくいことなら…」
あたふたするケティア
「……あのね、、私のお友達がさらわれちゃったの。友達って言っても鳥なんだけどね。」
恐々と かすれかすれに話すリア。
「今、絶滅寸前の鳥、ドリムテルゥーって知っている?
私、それの人工孵化のボランティアをしていたの。そしたら……」
「わかったよ。もう言わなくてもいい。俺達も協力する。」
リアの目を見て頼もしく言う少年。

「よしっ、それなら行動するか。
さっきの盗賊のボスからいろいろ聞き出してみるか。
なあに、俺には、警察にもコネがあるからよ。」
カーレテシーは、長剣を担いで立ち上がる。
「よ〜し 行こうか!!」
ケティアは浮巾を巻いて浮き上がる。
「ところで、関西弁!
お前いつまでリアの手ぇ握って石になってんだ。」
ガコッ…
カーレテシーのゲンコツがラルドの頭でいい音を立てる。
ラルドっ、かっこいいところを見せないと女の子にもてないぞ!!

 

「おい!盗賊さんのボスさんとやら!ちょっと聞きたいことあるんやけどええか??」
ラルドがアジトに入るなりドでかい声をあげる。
「なんだよ!うっせーぞ!!死にたいのか?!……って、あにきぃ!!」
「あにきぃ??」
真っ暗な部屋の奥からボスが現れた。が、何を言っているんだ??
ウェルの耳には“あにき”と聞こえた。何かの間違いじゃ…
「はぁ何いっとるんじゃこやつは…。」
ラルドがあきれ顔でボスに歩み寄る。
「何か御用でしょうか?!」
ボスは何かぎこちなくラルドに言う。
「……」
何かを隠し持っている??
バッ
ラルドはそれを手荒く奪った。
「なんやこれ……」
それは小さな紙切れと石…ダイヤだった。
「ダイヤじゃねぇかこれ!」
後ろから一応主人公のウェルが覗きこむ。
少々興味ありのようだ。
「あ、あ、それは…」
ボスは汗をだらだら流してラルドの手からダイヤを奪い返した。
が、ラルドの手にはまだ紙切れが残っていた。
今度はウェルがラルドの手から紙切れを奪った。
それに簡単に目を通した。
「ははん…そういうことか…」
ウェルは薄く笑った。
「残念だったな。そのダイヤは偽者だ。俺が考えるに強盗団にお前は騙された。
その偽ダイヤと交換に盗難品を強盗団に渡したんだろぅ?」
その言葉に、ボスはコクコクと何度もうなずいた。

 

「おっ、 いたいた。リアちゃ〜〜〜ん。」
警察所の廊下を走るラルド。
そう言って、ラルド達は、カーレテシー、リア、ケティアと合流した。
「カーレテシー、こっちは……」
「どうせ、盗品の行方は分からなかったんだろ。」
「…そうだよ。わかってたの??
これは、ウェル。
「アイツらは、トカゲのしっぽのように、切られた奴等だろ。
それなら、居場所が分かるようなへまはしないだろうからな。」
カーレテシー、読みが深い。
「でね、こういう時は、別なところから、情報収集したほうがいいんだよ。
盗品は、宝石が主だけど、貴重な動物がいるらしいんだ。」
これは、ケティア。
「じゃあ、
ドリィちゃん…私のお友達もいるのね。」
これは、リア。
「だから、動物が死なないような、すぐに運べるところと言えば…」
「港だ!!」
カーレテシーと、ケティアがハモる。
「それじゃ、行くぜっ」
ダダダダダッ
カーレテシーを先頭に5人が走り出す。

 

「はあ、はあ……」
5人は息を切らせながらも港に着いた。
「え〜…っと」
リアは前かがみになっている4人の前に立ち、港を見渡した。
人は少なく、いるといっても寝込んだ船員だけだった…
ん?寝込んだ…??
「すみませ〜ん!!」
リアは真っ先にその“寝込んだ船員”のところまで走った。(その他4人は休憩中)
「あのぅ…」
恐る恐る肩を叩いてみる。
「……」
反応無しι
いかにも“熟睡”。
「お〜〜い!リっアっちゃ〜〜ん!」
リアが困っているとラルドが走ってきた。
「?!」
その声にビビったのか、船員は目を覚ました……

 

「だからよぅ、船はなんかしらねーが変なやつらに取られちまった。
んでな、オイラはな、眠らされちまってよぉ……だから俺は被害者。だぜ?」
カレーテシーの剣を目の前にだされ(脅すな)船員はおずおずと話した。
「ドリィ…」
と、リアは薄く目に涙を浮かべた。
「おい!ちょっち待てや!あそこに船があるんやけど!」
ラルドが急に海の方を指差してそう言った。
「?」
ラルドの指差した方には確かに大きな船があった。

 

「ふう…」
やっとのことで船にウェル達5人は乗り込んだ。
船員の話によるとこの船こそが盗まれた船だったらしい。
だが、船に乗り込んだとはいえ、大変なのはこれからだ。
まずは、盗難品を探さなければならない。
第一、盗難品を見つける前に強盗団達に見つかったら……
それより!この船は、どこに向かってるのやら……

数々の不安を胸に秘めながら、5人は見張りを交代しながら小さな部屋で夜を過ごすのだった…

                                          

   4      10 11 12 13        99年12月19日UP

  


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