蒼の島〜新しい旅立ちへ〜

 

ここで少し時間は戻る。
セイが居ない事に全員が気付いた後、大量に送られてきた魔物達。
当然の事ながら、その場が緊張が走った。
否応もなく張り詰めて行く空気の中、それぞれが己の武器を握り締める。

やがて、魔物の群の中に1人の少女が降り立った。
三つ編みにされた白銀に近いプラチナブロンドの長い髪、 透き通った湖を思わせる青い瞳、
華奢な身体にゆったりとした白いローブを身に纏い、 手には錫杖のような物を持っていた。
予想していたのとは余りにもかけ離れたその姿に全員があっけに取られる。
少女はウェル達に気付くと、真っ直ぐ向き直り、柔らかく微笑んで言った。
「こんにちはぁ〜」
「…で、君は一体何をしに来たわけ?」
憮然とした表情でケティアが尋ねる。
敵だと思ったらこんな少女だったのだ。
むくれたくなる気持ちも分からないではない。
だが、どうやらもう1つ理由があるようで…
「あたしですかぁ〜、あたしはですねぇ〜…この子達と遊びに来たんですぅ〜」
おっとりと言うにはいささか遅い口調で少女は答えた。
「そうしたらぁ、あなた達がいたんですぅ〜」
これがそのもう1つの理由…少女――
水優(ミユウ)と言う名前だそうだ――は凄まじくマイペースだったのだ。
これでは思わず頭を抱えてしまっても無理はないだろう。

「どぉしたんですかぁ〜?」
不思議そうな顔で尋ねてくる水優。
自分が元凶であるとは思ってもいないらしい。
「だからッ!どうしてこんな所に『遊び』に来るのッ?! しかもこんなに沢山の魔物と一緒にッ!!」
ケティアが声を荒げる。
しかし、全くと言って良いほど水優は気に止めていない。
「魔物じゃなくてぇ〜お友達ですぅ〜…お友達と遊びに来ちゃ行けないんですかぁ〜?」
「だからッ…!!」
放って置けばいつまでも続きそうな言い争い(水優はそうは思っていないだろうが)を終わらせたのは、
意外にも水優本人だった。
「誰か来るみたいですねぇ〜、お邪魔しちゃいけないからあたしたち帰りますぅ〜」
唐突にそう言うと、現れた時と同様にその姿は消えていった。
「たぶん、またすぐに会えると思いますからぁ〜」

一言、意味深な台詞を残して…ウェル達がセイを見つけたのは、それからわずか後のことだった。

 

辺り一面が暗闇に支配されている。
唯一光を放つのは彼女――ヒカゲ自身が持つ金色の髪だけ。
「何故、裏切った?」
「…私が仕えるのは…ミリアさま、ただお1人ですので…」
圧倒的なまでの威圧感に語尾が震える。
「…ふむ。ならばもう1つ聞こう。何故、奴らに『あれ』を渡した?」
「裏切者の身としては、組織に『鍵』を渡すわけには参りませんでしたので。」
今度は、しっかりと正面を見据えて答える。
強い意思を宿した碧眼が相手を射貫いた。
「……面白い」
相手が微かに呟いた。
「面白いが…余り賢いとは言えんな…どうやら再教育が必要なようだ。」
そう言うとその手が伸ばされた。
ヒカゲが驚愕に目を見開く。
「きゃああああああッ!!」
悲鳴が闇を切り裂いた。

 

「もうっ、いいかげん、放してくれませんこと。」
後ろ手を縛られ、岩にもたれかかっているミカゲは じたばたして話す。
「放すのはいいが、その後お前どうするんだ。」
カーレテシー。
「もちろん。ヒカゲお姉様を…」

「取り戻すと言うのなら、勝算はあるのか?」と言ったのは、意外にも、そこに風とともに
いきなり現れたミリアであった。
「ミリア…」
セイ。
「だぁぁ〜〜〜。さっきの女ぁ。」
そう叫んだレイオウ の目の先にはチカゲがいる。
そしてその隣にはキリア。
「待て! 私たちは貴方達と争う気はない。どうか、 武器をしまってくれないか。」
おのおのの顔を見比べ、セイが目配せをすると、ウェルを筆頭に、武器をしまう。
それに続き、みんなも。
「ありがたい、セイ(なぜ、こんなにも気安く話す?) ミカゲを返してもらうぞ。私たちだけで、ヒカゲを取り返す。」
ミリア。
「それは…」
「手助け無用だ。これは、私たちの 問題だからだ。」
セイの言葉をさえぎるミリアの言葉。
「お前、鍵を持っているな。それと、これを渡して おく、大事に持っていろ。」
それは、ピンポン玉程度の 銀の水晶玉だった。
この世界の一方通行の伝達装置の ようなものだ。
「セイ。お前は、蒼の島を探しているのだろう。 それならば、時が来れば会えるだろう。」

続いて、チカゲがウェルに話す。
「おまえっっ!私は、強い男が好きだ。お前が好きだ。 また会いたい。会うと言ったら会うぞ。」
チカゲがウェルに目をむけて、告白?と言うか、 挑戦状のように睨んで話す。
「てぁ?? てぁ??」
混乱するウェル。
「あ、ああ…それじゃあまた会おう。
(って俺、何言ってんだ?女の子の告白だろ。今さっき、殺されかけていてもさ…)」
あたふたしているウェル。
それをジト目でみるリリアは、何も言わない。

「あの…」
キリネが口を挟み、その目は、カーレテシーにむけられる。
「私の名は、キリネ・ジュレス。貴公の名を聞いてもよろしいか?」
「俺の名は、カーレテシー・ローザだ。」
静かな、紳士な眼差しで自分の名を語るカーレテシー。
剣士らしく、自分の名に誇りを持っているようだ。
「それでは行こうか。ミカゲ。」
ミリア。

「あっ、少々お待ちを。ラルドさん。とおっしゃいましたね。貴方と戦った時、
貴方を殺そうとした事をお許し頂きたいのですわ。」
ミカゲ。
「へっ、そんなぁ〜昔の事。全然、忘れても〜たわ。」
「ありがとう。それと…」
優しい目を、少しきつい目にして、リアの方をむく。
「貴方は、幸せな人ですわね。」
そうリアに言うと、リアは、ハテナマークを 浮かせている。
ひょっとして、気がついていないのか?

そう、4人の女性が話し終わると、ミリアの魔法によってできたブラックホール の中に、一人、二人と、
順に入って行く。
そして最後に、チカゲが、顔だけ出して、ウェルに言う。
「また会うぞ。」
後ろから、引っ張られて、顔が見えなくなり、そして、ブラックホールがなくなる。

 

「…全く何がなんだか解らないよ…これからどうするわけ?」
ケティアが溜息と共にそう言った。
確かに色んな事が一度に起こりすぎて、当初の目的は消え始めていた。
「…っと…そもそも何でこんな事になったんだっけ…」
ウェルがうーんと考え込む。
気楽に飛び出した一人旅が、いつのまにか合計8人の団体さんだ。
振り切って逃げた筈のリリアが隣にいるのも考えてみれば絶対におかしい。
「ちょっと何考えてるのよ」
そのリリアがじと目でこちらを見ている。
流石幼馴染だけあって何となく雰囲気が伝わるらしい。
その場を笑ってごまかし、ウェルは全員を見渡した。

「えっと…何だか成り行きで来ちゃったけど、皆これからどうする?」
「どうするって…わいとケティアは元より目的地一緒やろ」
「そうだよ、もちろんウェルと一緒に行くからね」
ラルドとケティアが当然といった顔で言う。
「リリア…も俺と一緒だろ?何でここにいるのか解らないんだし…あ。それともスクサスに帰…」
「らないっ!!」
リリアが即答した。
「なんか…もしかして、やっぱりこの8人で”蒼の島”目指すの…?」
ウェルがゆっくりと聞いてみると、誰も何も言わず、お互いの顔を見合っている。
どうやら決定のようだ。

「じゃあ、僕達が始めに乗った船の目的地に向かう? ドリムテルゥーの留まっているっていうミスルの町。」
ケティアが記憶を掘り起こす。
「そこにいる筈のドリムテルゥーが今どうなっているかは解らないけどね」
「そうだな…じゃあ、とにかく船を捜すか!」

 

〜〜そして、その4時間後〜〜
「何だって!、ここが、ミスルの町だってのか?」
ここは港、激戦を勝ち残った、ウェル、リリア、ケティア、ラルド、カーレテシー セイ、リア、レイオウ。
そして、ドリィとチキは、食事と、お風呂に入って、船着き場 にて、そこの船員と話し、
この島がミスルの町のある島だと聞いたのだ。
「スクサスの町から出発して…ケティアとラルドに会って、 カッサの町でカーレテシーさんと、リアに会って、
強盗団にさらわれたドリィを助けに船に乗り込んだんだよな…。
強盗団の船の中で、セイとリリアに会って、 その後、魔法で降りたこの島が…ミスルだったぁ…?」
たった2日間の大冒険に感慨にふけり、溜息をつくウェル。
「ねっねっっ、リザ。この服可愛いと思わない。貴方に似合うわよ。」
リリア。
「あっ、ホント。リッシュって、いいセンスしているわ。」
リア。
そんなウェルを気にせず、キャイキャイ話すヒロイン二人。

「おお〜〜〜い。出港するぞ〜〜。」
そう船員が叫ぶと、港の人が手を振る。
そして、そのざわめきが汽笛の音にかき消され、いっせいに、トランペットの音が響く。
港では、船の安全祈願のためにこうした音楽は、重要なのだ。
そして、遠く、しかし 船を先導するかのように離れず飛ぶ、ドリムテルゥー2匹、ドリィとチキが目指す島は、
船の行き先でもある????の島。
その島でドリィ達は休み、最終的に ????の島にて冬を越し、その旅にてこの鳥は恋をして、
ミスルの町で産卵をする。
しかし、例年のようなただの渡りでない事は、この鳥達にはわからないだろう。
その鳥を見る8人も…。
だが今は、水平線に飛び立つこの2匹の鳥の美しさに目を奪われ、この先に待つ旅の 苦しみも何もかも忘れて
その先に希望があるように思えるのだった。

 

         10 11 12 13                00年7月16日UP


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