「じゃね…」
縄を切ってもらいヒカゲがミカゲの方を振り向き
マータの方に走る。
「ヒカゲお姉ぇ、キャッ」
それを見るミカゲが叫ぼうとすると、カーレテシーが手を縛られているミカゲを肩の上に担ぎ上げる。
いわゆる荷物持ち抱っこと言うやつだ。
カーレテシーが魔鉱石の剣を通じてテレパシーで話す。
(みんな、聞いてくれ!!姉の方が妹を逃がすために、
独り戦いを挑んだ。
彼女を見捨てていく、それが彼女の
意思だからだ。助けるのは絶対に駄目だ。みんな行くぞ!)
この間、たったの一秒だ。
そして、ミカゲを担ぎ込んで
カーレテシーが走るのを、皆がついていくしかない。
ウェル、リア、リリアは、少し戸惑う…だが、カーレテシーが見えなくなる前についていくしかないのだ。
「あなたが僕にかなうとでも思っているのですか?」
マータ
「かなうわけないでしょ。」
ヒカゲ。
「これ以上馬鹿な真似って、ミカゲは何も知らないわ。
そんなの私の頭の中を見ればお分かりになるでしょ。」
「そうですね。それでは、ボスのところに来てくれますよね。あの連中はどうでもいいですし……。」
「そのつもりよ。」
「お姉様ァァ!」
「って、うるさいな。大丈夫だろ。殺される事は
ないようだからな。」
カーレテシー。
「どうしてわかるの?カーレテシーさん。」
ケティア。
「ああ、さっきさ、回収するって行っただろ。”殺す”
じゃないところがポイントな。
それと、あんなレベルの高い相手だと俺達が束になっても全滅するだろうから
おとなしくしたがった方がいいってことだろ。
そんで、追ってこないって事は、お前さんのお姉さんを押さえておけば、”馬鹿な真似”ができないって事。」
「カーレテシーさん、あったまいい〜〜〜。」
ケティア。
「まあな。ちょっとした言葉で推理して、最良の選択をする、これって大事だよな。」
唇をかみ締めるミカゲ。涙を我慢している
(必ず、助けるからね。姉様)
「あまり…人を無視して話を進めないでくださいね」
「!…セイ、何故残ったのよ…」
「私にもそれなりの事情があるんですよ。」
なんと、セイは逃げずに残っていた。
「セ、セイだって?!」
何故か驚くマータ。
「…神と魔の膝元に在りし偉大なる者よ…基が力をもって、我の左に宿る力の封印を解け」
お構いなしに呪文を唱え、完成させるセイ。
呪文が完成した直後、セイの左手に装着されている篭手が外れ、
奇妙な紋様の描かれた左手があらわになる。
左手(と腕)の紋様から、凄まじい闇の力が感じられる。
マータは、表情を崩さなかった。
ただ、黙って空中に浮いたままセイ達を見下した目で見ていた。
しかし…口元は笑ってはいなかった…
「まったく…僕は戦いに来たわけではないといったでしょう?
最も、いくら闇の力を操るあなたといえども倒せる自信はありますよ、
しかし僕はアルク様に
『誰一人として危害を加えるな』
と命令されています。
こいつを回収して退散させてもらいますよ」
言うなりマータは手をヒカゲの方にかざした。
「きゃぁっ!」
途端、ヒカゲの体が不透明な赤い光に包まれた。
そしてふわり、とマータの方へ浮かび上がって行く…
「では、失礼致します。魔神官…セイ殿…」
”魔神官”という謎の単語を残しマータは礼をしながらすうっと消えていった
もちろん、ヒカゲも一緒に…
「…魔神官ですか…面白い間違いですね…」
篭手を拾い上げながらセイは呟いた。
そこに大きな風が吹く。
「…創…の力…差し上げ…」
セイは何か言っているが風の所為で途切れるようにしか聞こえない。
セイの姿が風に包まれ掻き消える。
――謎の場所――
一人の少年が座っている。
その部屋は中々明るいのだが、少年の周囲だけは異常に暗い。
その目前にマータが現れる。
「アルク様、裏切り者ヒカゲの回収を完了しました。」
マータが述べる。少年はマータの方に目線をあわせ、口を開く。
「それはいいが…つけられたな?」
一瞬、意味がわからず疑問顔になるマータ。
次の瞬間、空間が歪んでセイが現れた。
「ごきげんよう、マータさん、アルクさん。」
微笑みを絶やさず、言いのける。
マータが口を開く。
「貴方は何者だ?只の魔神官の力でここまで転移できる筈が――」
アルクも口を開く。
「セイ…器よ、何故ここに?」
アルクはセイの事を知っているようだ…が、器とはいったい?
セイはただただ微笑んでいる。
その頃、逃走組。
「あ、あれ?おい、セイがいないぞー!」
最初にウェルが気付く。
そして全員が立ち止まる。
「どう言う事だ?」
「あっちに残ったんだよ。何か事情があるみたいだったし。」
全員暫し唖然とする…と、そこに魔物が転送されてくる。
しかも大量に。
「その問いに答える前に間違いを正したいのですが…」
セイはそう言ってマータのほうを向き、少し寂しげに微笑んだ。
「私は魔神官ではありません」
魔神官とは、書いて字のごとく、神官の種類の名だ。
ただ、普通の神官がそれぞれの神と契約するのと同じ様に、魔神官の契約する神は”魔神”…。
つまりは、「聖」の力でなく「魔」の力を手に入れる。
普通の神官よりはるかに大きな力を手に入れることは出来るが、その分リスクも大きいのだ。
一般的に「邪教」と呼ばれる物だが、詳しくは知られていない。
セイの使う魔法は、神官にしてはその「魔」の力が強すぎる。
それを感じ取ったマータは、セイを魔神官だと判断したのだが…
「ほう…では貴方は一体なんです?神官でないことは確かです。
神官の使う魔法にそれだけ大きな「魔」が存在する事など許されるはずがありませんからね」
アルクは薄く笑みを浮かべながらマータに言った。
「マータ…その者は魔神官ではなく…”魔神”なのだ…」
「!?」
背後から響いたアルクの言葉に、マータは驚愕する。
視界のはしに、俯いて辛そうな表情のセイが映る。
「…正しくは…まだ少し…違います。私は魔神の器候補なのです…」
「同じ事だ。お前がどんなに拒否しても、魔神からは逃れられん。
強大な魔力を持つお前だからこそ、魔神の器に選ばれた…。
いずれお前自身が魔神となる事は決まりきっている」
アルクは冷たい瞳でセイを見下ろす。
そんなアルクに、少し落ち着きを取り戻したマータが問う。
「し…しかしいくら魔力が強いといっても所詮人間…」
「種族など関係のないほど、セイの潜在的魔力が強いという事だろう」
アルクの言葉に、セイはびくっと体を震わせる。
幼い頃の記憶…魔力を使いこなせなくて何度も破壊した建物。
図らずとも奪った生命。
そしてそんな時に必ず聞いた母の言葉。
「あなたは神様なんだから…」
皮肉にも、幼い頃勇気付けられた母の言葉が、今はセイを苦しめる。
「それで…?お前は何の為にここに来たのだ?」
「アルクさん、貴方が…貴方も、魔神の器候補だったと聞きました。
でも今、貴方は貴方のままここにいる…。
そしてそれと同時に、御自分の魔力も制御できるようになったと…」
再び驚くマータ。…自分は、何も知らない…
くすりと笑みをこぼし、アルクが言葉をつむぐ。
「そうか。魔神の器にならないで済む方法を私に聞きに来たというのだな」
セイは真っ直ぐにアルクを見上げ、頷いた。
静かな沈黙が3人の間を流れる。
しかし、次に響いたアルクの言葉は、セイの期待したものではなかった。
「残念ながら、私がお前にそれを教える義務はないな。」
「ア…っ!」
アルクの台詞と共に、強い魔力がセイを包む。
―――転移魔法だ。
セイは必死で抵抗するが、しばらくの魔力のぶつかり合いの後、
その場からセイの姿は消え去った。
セイの消えたその部屋に、マータのつぶやきが響く。
「……セイの魔力でも、アルク様の魔法は破れないのですか…」
「セイの強いのは潜在的魔力だからな…普段はその内の3分の1も使いこなせていない」
マータは、複雑な瞳でアルクを見上げていた…。
「……っ…」
セイは黙って倒れていた。
自分がマータを追って転移魔法を使ったその場所に。
起き上がる気もおきない。
…聞き出せなかった、何も解らなかった。
魔神の器になどなりたくない…これ以上強大な力など欲しくはない。
使いこなせない魔力など…
「セイっ!!」
ぼーっとした意識の中に声が響く。
ゆっくりと目線だけ移動させると、瞳に移ったのは走って来るカーレテシーだった。
草の上に横たわているセイの体を抱き起こし、うつろな目のセイに向かって叫ぶ。
「おいっ!しっかりしろ、大丈夫か!?」
…自分を心配してくれている。
演技ではなくたてまえでもなく。
でも、力が制御できなければ、そんな人達も傷つけてしまうかもしれない。
万が一魔神になどなってしまったら、きっともう、今の様に一緒にはいられない。
「セイ…」
カーレテシーがセイを見て目を見張る。
自分でも知らない内に、無表情なままのセイの両の瞳からは涙が零れ落ちていた。
悔しかったが、それ以上に…悲しかった。
カーレテシーはただ黙って、壊れそうなセイの体を支えていた。
「あ!カーレテシー!セイ!良かった、無事だったんだね!」
ウェルたちと決めた合流場所につくと、ウェルが真っ先に駆け寄ってきた。
「まったく、勝手にいなくなられると困るんだけどなあ。」
ケティアの呆れたような声。
「申し訳ありません。」
カーレテシーの隣で微笑むセイは、今はもういつも通りだった。
…が。
「…凄く…眠い…」
セイは突然深き眠りに落ちた
セイは自分の精神の裡から声が聞こえてくるのがわかった…
(お前は魔神の器では無い…)
(貴方は神の器…)
セイは思う。
ならば何故、強い闇の≪力≫を有しているのか…と。
(それは私の≪力≫…お前の≪力≫は別にある。)
(強き聖は私の≪力≫…貴方の≪力≫は他にある)
(お前の魂は私の欠片で創られた…)
(貴方の魂は私の欠片で創られた…)
セイは思う。
貴方達は何者か。
私の≪力≫とは何か…と。
しかし意識が急速に覚醒に向う。
(私達は創造…)
(私達は破壊…)
(元は一つだった存在…忘れるな…)
そしてセイが目を覚ます…。
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