蒼の島〜合流・目的〜

 

―カーレテシーVSミリア 、セイVSキリネ―
チッ! ガキッ ゴゴゴゴッガッガッ
「なかなかやるわね。」
カーレテシーと、ミリアは戦っている。
その戦いのすごさを物語るようにして戦いの周りにある木は切られ、
岩は削られ…大きなクレーターは打ち下ろしの剣圧の衝撃によって作られたのだろう。
この二人の一騎打ちならではの、戦いの世界である。
もし、近くに ウェル達がいれば、その戦いに巻き込まれていただろう。
「最初の戦いは全力じゃなかったと言うの?なぜ?」
「…お前、何か、理由ありなんじゃないか?俺にはお前の太刀筋に迷いがあるように思えるんだがな。
それと セイの方にも、注意が向いているような…」

「くっっ…もういい!!これで、最後だアァァー!」
二人の激突、一瞬で二人の距離が縮まり、そして、先に倒れたのは …ミリアの方であった。
その直後、、もう一人が倒れる音がする。
それは…キリアであった。
…二人とも致命傷ではない。
カーレテシーとセイ、二人の勝利者はお互いの顔を見る。
だが、 カーレテシーは、苦い表情で多くのことを思案しているようだ。
「なあセイ、コイツらってなにか変じゃなかったか?さんざんてこずった割には何か弱くなったと言うか…
最後は 倒してくれっていっているようだったぜ」
「そうですね。」
(ミリア…君は、ひょっとして…)

「でも これで終わりですよ。殺生は神の教えに背きます。」
「…ああ、金にならねーことはしない。さてっと、セイ、リアの居場所ってわかるか?」
「いえ、わかりません。時空転移魔法を使うに しても、どこにいるかわかなくては…」
「おいっ、ちょっと待て、それじゃあ加勢に行けないじゃないかよ。」
「そうは言っても…そうだ! ケティア君を起こしてあげましょうか。…あ、そういえば」
とセイ。
「どうかしたのか?」
カーテレシーが聞く。
「いえ、ラルドさんに目印をつけていたんです。」
結構うっかり者だね…いや、わざとか…。
「しかしケティアをこのままにしておくわけにもいかないだろ」
至極当然。
「私が背負いますよ。」
セイはそう言って、軽々とケティアを持ち上げ、背負う。
そして転移魔法を発動させる。

 

セイ達の去った後…
「やれやれ…わざと負けるのも疲れるものだ」
ミリアが起きあがってそう言う。
ちなみにキリネはまだ気絶している。
「ふぅ…」
苦笑しつつキリネを担ぎ上げ、チカゲのいる場所へ転移する。

 

空中…一人の人間が浮いている。
「やはりミリアは裏切ったか…セイとかいう者もそうだが…
あの剣士…カーテレシーとか言ったか?…奴も計画の邪魔になるな」

 

「うっわ、最悪!!みんな汚っ!」
久々に合流した8人だったが、第一声はケティアのそれだった。
長い戦闘を終えたそれぞれのメンバーは、傷や泥でぼろぼろだ。
もちろん、始めに眠らされ、活躍したのは分身体だった…というケティアは綺麗なままだが…。
「お前なぁ…ι」
ラルドの呆れたような声に続いて、その他の全員がげんなりと溜息をついた。

「さて…と、この人達どうしようか?」
ウェルが目を向けたその場所には、ミカゲとヒカゲが縛られている。
二人共憮然とした表情で、地を見つめていた。
「お前達の目的は何だ?何故ドリムテルゥーを狙う?」
カーレテシーが二人に向かって問うが、そろいもそろって何も言わない。
しばらく待っていたカーレテシーだったが、口を割らないと解るとすっと剣を抜いた。
「言わないと斬る」
一瞬ヒカゲの肩がすくみ上がる。ミカゲもぎゅっと目を閉じた。
「カーレテシーさん」
そんなカーレテシーを横からやんわりと制したのはセイだ。
「リアさんにこんな光景を見せたいですか?」
カーレテシーがはっとリアの方を振りかえると、リアはラルドの隣で不安気にこちらを見ていた。
「……」
カーレテシーは黙って剣を収め、セイと目を合わせる。

セイはカーレテシーに微笑みを返し、ヒカゲとミカゲの前にしゃがみこんだ。
「…どうしても、お話を聞かせては頂けませんか?」
長い沈黙の後、ヒカゲが口を開いた。
「…ミリア様は…」
「え?」
良く聞こえなかったのか、聞き返すセイ。
「ミリア様はどうなさったの?」
今度ははっきりとした口調で問う。しかし、その間も視線は下を向いたままだ。
「…俺達がここに居るって事は、答えは1つだろう?」
セイが答えるよりも早く、カーレテシーが言った。
「倒した。もう1人の女――確か、キリネとか言ったな――もだ」
「キリネ様までも?!」
「…そう」
動揺するミカゲとは対照的に、ヒカゲは、まったくそんな様子を見せない。
そう、まるで何かを知っているように。

「…良いわ。答えてあげる」
再び起こった長い沈黙の後、ヒカゲはそう言った。
「お姉様ッ!」
とがめるようにミカゲが叫ぶ。
「一体、どう言うおつもりですの?」
「…多分…ミリア様は、もう、組織にお戻りにはならないわ」
ミカゲだけに聞こえるように声を潜めてヒカゲが言う。
全くちぐはぐな答えだが、ミカゲにはそれが何を示すのか解かったらしくそれきり口を開こうとはしなかった。

「…それで、何だったかしら?」
今度はしっかりと顔を上げてヒカゲが聞く。
「貴女方の目的とドリムテルゥーを狙う理由です」
静かに答えるセイ。
「ああ、そうだったわね…それなら…最初から説明した方が良さそうだわ…」
そう言うと、何かを考えるようにヒカゲは目を閉じる。
「まず1つ目…何故ドリムテルゥーは希少価値が高いのか?」
「そんなん…数が少ないからやろ」
ラルドが言う。それに答えたのはヒカゲではなくミカゲだった。
「それだけじゃないんですのよ。…ドリムテルゥーには魔力があるんですの。
…上手く使えば、1人でも国1つ落とせる程の…」
その場にいた全員が息を飲むのが気配で判る。
「け、けど、そんな話今まで一度も…」
珍しくケティアがうろたえる。途中で終わった台詞の続きをミカゲが引き継ぐ。
「聞いたことがない…でしょう?」
「そう…それが2つ目……ドリムテルゥーは、その魔力を自身が認めた『主』にしか使わせない…」
「…それが、お前達がドリムテルゥーとその飼育者を狙う理由か?」
カーレテシーが確認するように問う。

「そう言う事になるかしら…でも、ここからが問題なのよ。
3つ目…ドリムテルゥーの魔力を全て引き出せる『人間』は存在しない…」
「それは…どう言う意味で?」
セイが尋ねる。
「言葉通りの意味よ。…『人間』ではドリムテルゥーの魔力を使いこなせないの…」
「それなら!」
レイオウが叫ぶ。
「飼育者まで狙う必要は無いんじゃないのか?!」
「…そうかもしれないわね…でも、もう1つ有るのよ。…実質的にはこれが飼育者をさらう理由かしら…
ドリムテルゥーを飼い慣らせることが出来るのは、伝説の島の住人…
かつて、この大空を支配した『有翼人』のみ…」
「伝説の島…?」
ウェルが呟くように言う。 奇妙な、予感がしていた。
「まさか…」
目を開き、しっかりと前を見つめると、ヒカゲは再度口を開く。
「天空と大海…2つの『蒼』に護られた、伝説の…」
『…蒼の、島…』
ヒカゲとウェル。 2人の声が重なった―――――
「ああ、なるほど。  確かにドリムテルゥーの飼育者は有翼人の血をひいていますね」
セイ…何故そんなことを知っているのか…

「えっ、あたしっ」
リアが叫ぶ。
「でっでも、私、有翼人だなんて…」
と自分の背中を見る。言葉どおり自分に 翼がないかと見てみるのだ。
その”くるりん”と後ろを見るリアを見るラルドは 密かに思う。
(かっ可愛いやん。リアちゃん)
「翼は、出したり消したりできるそうよ。そして普段は人間と変わらないわ。
でもね、私たちの調べが正しければ、ドリムテルゥーはただ一人にしかなつかない。
そしてそれは、血で判断した有翼人であることに間違いないはずよ。」
ヒカゲ。
「うん、そう言えば私じゃなきゃ、ごはん食べなかったもん。ねっ、ドリィちゃん」
「おいっ、それじゃあ、俺もその有翼人だかいうのなのか?」
カーレテシー。
「それは解らないわ。ただ、血筋じゃないみたいね。
有翼人とは人間の遺伝の中の突然変異らしいの。」
ヒカゲ。
「そうか…俺にゃあ噛み付きやがったからな。コイツ。」
「おいおい!それじゃあ、俺もそれなのか?」
レイオウ。
チキはレイオウの背中に 乗っている。と言うより、レイオウのマントの中に潜り込んでいる。
「確証はないですけど、たぶん、そうね。」
ヒカゲ。

「それとさ、この時期チキ達が暖かい所に行く前に捕まえるっていうことは?」
「ええ、その魔力を主…つまり飼育者の有翼人に渡す場がその蒼の島なんだけど、 その場所が分からないの。
でも、渡り鳥のコース上の休む島ではないかと 考えたのよ。」
淡々と真剣に語るヒカゲ。
「わぁ〜〜どうする〜〜ウェル。僕たちの村の伝説の蒼の島って言うのと違うみたいね
まっ、この人たちの話もどこまでかホントかわからないけどネ。」
浮巾に乗りながら ケティア。
「伝説って、所々で解釈が違うのは世界のお約束って言うことで…
なんだか蒼の島 って、世界征服できる破壊兵器なのかな?それでもって、世界征服したら何でも出来る。
何でも願い事がかなう…ってそういう事なのかな?」
ウェルに振り向くケティア。
「…まだ、まだそうと決まったわけじゃないだろ。(そう、俺の願いは…)」
うつむくウェル。 ちょっとがっかりしたようだ。

(だが、なんでコイツら こんな大事なことをべらべらしゃべるんだ?
どうやら そのまま信じるわけには行かないだろうな。)
カーレテシー。

「…天空と大海の狭間に抱かれし飛島 基は神と魔の地にて神鳥ドゥリークの末の集う処」
いきなりセイが喋る。
その言葉を興味深そうに聞いているのはウェル。
そしてセイに問いかける。
「それってやっぱ、蒼の島の事だよな?」
「ええ、そうでしょう。」
事も無げに答えるセイ。
やはりこの男、何か知っているのでは?
セイはヒカゲとミカゲの方に向き直る。
「で、どうします?貴女達、組織に戻れるとは思えませんが。」
ミカゲは思案しているが、ヒカゲはすぐに口を開く。
「貴方達と、一緒に行っては駄目かしら?足手まといにはならないわ。」
ミカゲは慌てながらヒカゲの顔を見、口を開く。
「お姉様っ!この方達は敵ですのよ!?」

 

「その敵にぺらぺらとこちらの事情を話しておいて、その上敵に寝返るとはよほどの愚か者ですね,貴女たちは。」いきなり,ヒカゲたちの上空から声が聞こえた。
高く響くボーイ・ソプラノ…
「誰だっ!」
ウェルたちが顔を上げた先には頭の上に結い上げた腰まである蒼い髪に、
髪と同色の澄んだ瞳を持ち、冷ややかに微笑む冷たい雰囲気を持った少年がいた。
「媒介も…翼も無しに空中に…!?」
ケティアが非常に驚き、つぶやく。
空中に浮くことのできるのは、ケティアのように浮遊能力を持った媒介を持つか
セイのように媒介を使って浮遊魔法を使うか,『有翼人』のように翼を持つかしかない。
一見,上にいる少年は、何も持っていない完全に無防備な状態
…にも関わらず 浮遊魔法を使って浮いているという事がその少年の魔法力のすさまじさを物語っていた。

「こんにちは、ヒカゲ・ミカゲ。 しばらく見ないと思ったら、こんな所で組織の掟を破っていたのですね。」
「お前ら、知り合い…!!」
ウェルがヒカゲたちの方に振り向き…その瞬間目を見開いた…
あの、ヒカゲとミカゲが、顔を真っ青にして体をカタカタと震わせているのだ
死を目前にした小動物…まさにそのような感じだった 
「お…お許し下さい!
マータ様…!」
ミカゲが、唇を振るわせながらやっとでその一言をつぶやく。
しかし、空中の少年―マータと言うらしい―は、依然笑ってはいない目で口をゆがませていた
「そこの連中に言っておきますが、僕は戦いに来たわけでは有りません。
この愚か者どもがこれ以上馬鹿な真似をしないように回収しに来たのです」
「回収、だと…?」
マータの言葉にカーレテシーが反応する。
「ええ、『回収』です。」
相変らず口元にだけ笑みを浮かべたまま、マータは続けて言う。
「所詮、その2人は組織のコマでしかない…そう言う事ですよ。 最も、あまり役に立ったとは言えませんがね。」
「…貴様…ッ」
マータのあまりの台詞に全員が殺気立つ。
敵であるとは言え、今の発言は決して許せるものではない。

そんな中で、ヒカゲが微かに呟いた。
「…げなさい…」
「…え?」
怪訝な表情で聞き返すリア。
「『逃げなさい』って言ったの。…マータ様には殺意が感じられないもの。その方が貴女達の身の為よ…」
声を潜めたまま、ヒカゲが言う。
目の前に迫っている恐怖の為か、語尾は微かに震えていたけれども。
「アタシが手伝ってあげるから逃げなさい。良いわね?」
その瞳に宿る意志の光は強固なものだった。
「!!」
ウェル達全員が驚きに目を見開く。
「…そんな…!…姉様…どうして…」
ミカゲが小さく叫ぶ。
その声の中に悲痛なものが混じっていた事に気付いた者は少なくない。
「貴女は…何を考えているんですか…?」
セイが静かに問う。
くすり、と僅かに微笑むとヒカゲは言った。
「これは『取り引き』よ。 アタシはここから貴方達を逃がす、貴方達はミカゲを連れて行く。
…アタシの考えはそれだけ…」
僅かな間を置いてヒカゲは続けた。
「…どうする?…のるの?のらないの?」
「…判った。」
そう言ったのは、意外にもカーレテシーだった。
「信じて…良いんだろうな?」
「当然でしょ。…さ、この縄切ってちょうだい。」
艶然と笑って見せるヒカゲ。

驚きのあまり呆然とする一同の前で、全ては決定されたのだった。

 

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