しかし…
「なあ、なんや物音せんか?」
と、ラルドが言うが…
「船なんだから物音位するだろ」
あっさりウェルにかわされる。
だが…
ゴトゴトッゴトゴトトッ
「な、なんだ?」
ウェルが驚く。
「ほらな、変な物音するやろ」
と、ラルドは何故か嬉しそうに言う。
「むむむぅ〜」
…?……!
猿轡をされ、ロープで簀巻にされた男がでてきた。
「…な…っ!」
驚いて大声を出しそうになったウェルを、ラルドがさえぎった。
「静かにせえ。リアちゃんたちが起きてしまうやろ。」
今は夜中の2時を回ったところ、見張りの為に起きていた二人を除き、残りの3人は眠っているのだ。
「…ご、ごめん。…でもこの人…どうしよう?」
おずおずとラルドの方を見るウェルに、ラルドはあっさり答えた。
「猿轡といて話聞こ」
「ありがとうございます。助かりました…」
猿轡を取ると、男は一つ溜め息をつき、ゆっくりとそう言った。
何か不思議な響きを持った、澄んだ声だった。
「私は、セイ=ソグラスといいます。イネーロ村の神官をしています。」
「イネーロ村…?」
ウェルもラルドも聞いた事のない名前だった。
「東の島にある、小さな村です。」
「その村の神官さんが、なしてカッサの船に乗ってるんや?」
ラルドが、セイに毛布を渡しながら聞いた。
ずっとこの寒い場所に捕まっていたせいで、セイの体はすっかり冷えていたのだ。
セイはにっこり微笑み、有難う御座居ますと言ってから、毛布にくるまり話を続ける。
「私の村には、船が出航する前に神官が旅の安全を祈る習慣があります。
いつもの様に私が祈りをささげていた時…"彼ら"は船員を切り殺し、船をのっとりました。」
「"彼ら"って…」
ウェルはその先を心の中でのみつぶやいた。
言葉を引き継いだのはラルドだった。
「盗賊団やな」
セイは複雑な表情をし、そうだと言った。
その顔は泣き笑いしている様にも見えた…
「彼らが船を襲ってきたとき、私は村人を逃がし彼らに立ち向かいました。
相手は6人ほどで、おもに長剣などで戦っていましたから、
私の使う魔法でなんとか食い止める事が出来ると思ったのです。しかし……」
「ダメだったのか?」
見張り台からウェルが降りてくる。
ウェルの問いにセイは黙って頷いた。
「私が魔法の詠唱をしている時、彼らのうちのリーダーらしき人物の肩に一匹の鳥が現れました。
その鳥が一声鳴いた途端、私は1歩も動けなくなってしまったのです。」
「動けなくなってしもうて、周りは盗賊だらけで、何であんたは生きとるん?」
ラルドは遭難時の非常食ようの袋をあさリながらセイの話を聞いていた。
…が直後に袋をウェルに没収された。
「”セイントエリア”という物をご存知ですか?」
「知らん」
二人は声をそろえてキッパリと言い切った。
「……ι”セイントエリア”と言うのは教会から半径1キロ以内の場所の事です。
そこでは神官を殺すのは不可能とされています。」
「それで簀巻にされてあんな所に入れられてたのか…」
うーんと頷くウェル。
「ところで…あなた方は何処に行かれるのですか?」
今度はセイの方がウェルたちに質問をした。
ウェルとラルドはしばらく考えた後顔を見合わせる。
(言っても良いのかな?)
(まぁ ええんとちゃう?)
「えーっとな…」
ウェルはこれまでのいきさつをセイに話し始めた。
時刻は3時を回っていた…。
「そうなのですか。
そのリアさんという人の鳥、ドリムテゥルーがさらわれたのを、取り戻すために、この船に乗り込んだのですね。
あなたたちは勇敢ですね。」
やさしく話す、セイ。
「まっ、そんなわけや。さっき、6人の強盗団って言っていたな?
自分、この船の中の動物がおるようなとこ、知っているかいな?」
「えっ、それなら、この船底だと思いますけど。」セイ。
「よっしゃあっ!
それなら、ウェル。行動開始といこか。
まず、動物を守る。そんで、船奪って逃げるなり、戦うなりしようやないけ」
「えっ、今やるの、眠いし…」
「何言っとんねん、この動いている船の中に敵がいるねんで、6対5で、敵がどんなかもわかっとらん。
それなら、とっとと、逃げるか、奇襲やろ。」
ラルド、単純で、猪突猛進的な考えでも頭いいぞ。
「あっ、それは無理だと思います。檻の鍵は、強盗団の誰かが持っていると思いますし、
それに、彼らも、見張りぐらいいるでしょうから。」
淡々と話すセイ。
いきなり、的外れになってしまって石になるラルド。
「…となると…」
これは、ウェル。
「この船が着くのは、夜明けだと言っていました。
ですから、あと、3時間というところです。
それなら、6対5ではなく、6対6です。
私、神に仕える身でありましても、魔法を使えるのですよ。」
ニコニコのセイ。
(うっわっ〜〜〜。ニコニコでも、たよりになりそ〜〜。)
ウェルとラルド。
「オイッ
なんだ、そこのろうそくの光は!!!!」
強盗団の叫ぶ声。
いきなり 見つかった〜〜〜。
「彼の者に深淵なる眠りを与えよ。ハイ・スリープ」
「うぉ・・・Zzzzz」
叫んだ強盗団員はセイの放った眠りの高位魔法であっさりと眠りにつく
眠りこくった強盗団員の真上を走り抜ける。
なにか忘れているような気もするが、まぁ、それはそれでいい。
「ここや!」
船底の部屋は、頑丈なドアのせいで行けなかった。
忘れていたのはこれだったι
……それにしてもなぜだろう……見張りがいない…
「はぁぁぁ!」
いきなり女の声がしたかと思うと、2人の男が目の前に倒れる。
ウェルはその声がなぜか聞き覚えがあるような気がした。
「……ア…?」
ウェルは誰にも聞こえないような小な声でそう言った。
「!!」
そこにいたのはあの…リリアだった。
リリアはウェルの顔を見るなり目に涙を溜めながらウェルに抱きついた…!
「ん〜っと、記憶がないのよね〜、なんでこんなとこにいるんだろ。
なんか鳥の声がしたから、あの部屋に入ろうとしたらあの見張りが攻撃してきて〜、倒したのよ」
リリアは人差し指をあごに当てながらそう言った。
「記憶がないんかぁ〜…わっからへんなぁ…ほんま。」
ラルドは不思議そうに考え込む。
その時だった。
「おやおや皆さんおそろいで。」
「!!」
「カーレテシー、ケティア、リア。」
ウェル、小声で叫ぶ。
「この声、ドリィちゃん。」
リアは、オリにしがみつく。
「プルプル〜〜〜」
ドリィは、嬉しそうに鳴き、檻ごしにリアに頬ずりする。
「ドリィちゃん。ここから出たいのね。」
「あっ、リアちゃん。鍵が、その…ないんや。」
ラルド。
「ぶっこわしゃいーだろ。おりゃ!」
…と言うが早いが、カーレテシーは、長剣を一一閃。
ドリィには傷つけずに、檻がカシャンとバラバラに倒れる。
二人、リアと、ドリィは抱き合って喜ぶ。
どーやら、この二人は、すっごく仲よさそうだ。
「うん?そっちの小娘は、お前の恋人か?」
にやにやして、カーレテシー。
「冗談!!。(バキッ)な〜にが、こんなチビガキと、(ドコッ)」
リリア、話しながら、ウェルをどつく。
初対面同士、自己紹介がすむまで、少し時間がかかるようだ。
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