ヒョイッ。
「 ほれっ、薬草だ。」
ウェルは薬草を受け取り、それを頬張る。
薬草をかみしめるたび、薬草に住む精霊達が活性化し、ウェルの傷を治していく。
「それにしても、何かとんでもない事になっちまったようだな。」
レイオウ。
「何か追い回されて、そのうち”俺”が捕まりそうだなんて聞いて、
下っ端捕まえてそこのアジトに行ってみれば、俺のそっくりさんがいるしな。」
チラリとリリアを見るレイオウ。
「それに、チキが暖かいところに行く直前っていうこんな時にな…」
「!!
そうだ。レイオウ。お前、ドリムテルゥーの渡り鳥のコースを知ってるか?」
ウェル。
「ああ、知りたいか…?まあ、いいか。ほら、この地図を見な。」
そういってレイオウの開いた世界地図には、横一文字の赤線が引いてあった。
その一番最初には、ミスルの町、そこから、ところどころの島を渡って??????の島が最後。
どうやら、そこに行って帰ってくるのが渡り鳥のコースらしい。
(このコースのどこかに、蒼の島が…)
ウェルに冒険家特有のワクワクする微笑みが浮んだ。
「レイオウ。僕らの旅の目的と、もし、あの悪党達が同じ目的だとしたら…」
ウェルは、この旅、それと、自分らの仲間達のことを話した。
――ミカゲ・ヒカゲVSラルド・リア――
「あらら…」
くすりとミカゲの笑い声。
「何が『何処へやった』なのよ。隠してたんじゃない」
ヒカゲが言葉と同時に動けないラルどの顎を蹴り飛ばす。
「ぐっ…!」
「やめてっ!!」
悲鳴に近い声を上げてラルドに駆け寄るリア。
「リアちゃん…隠れてろ言うたやろ?何で出てきたんや…」
「ごめんなさい、私何も出来ないって解ってるけど…でも黙って見てるなんて嫌…」
目の前でぽろぽろと涙をこぼすリアを見て、ラルドは目を見張る。
「お取り込み中悪いんだけど、ドリムテルゥーは何処?」
そう、リアは、ドリィを連れてはいなかったのだ。
「……」
「そう…教えては下さらないんですのね…では…お覚悟を」
一方当のドリィはというと…一心に飛んでいた。
といっても逃げていた訳ではない。
『影縛り』を解けそうな人物…セイとケティアの元へ。
ドリィは必死に気配を追ってどうにか現場へ辿り着いた。
真っ先に目に入ったのは倒れているケティアだ。
セイとカーレテシ―はまさに戦闘中。
敵側に自分が見つかってはならないという事は解っている。
ここはケティアを起こすのが得策だろう、早くしないと二人が危ない。
「プルゥー…」
ケティアの耳元で鳴いてみるがまったく反応はない。
しかし他にどうする事もできず、ドリィはそうやって何度も語りかけ続けた。
『…君、リアが連れてた鳥?』
不意にドリィの頭の上で声がした。
『何やってんのさ、こんなとこで。ラルドは?』
本体はドリィの横にある。
しかし頭の上に浮かぶそれは、確かにケティアの姿をしていた…分身だ。
「プルプルプルーっ!!」
ケティアにドリィの言葉は解らなかったが、言いたい事はなんとなく感じた。
『とにかく、ラルドの所に連れてって!!』
ドリィはケティアを導いて、飛び立った。
――ミリアVSセイ、カーレテシー――
「紅蓮の炎よ、渦を成して我が敵を飲み込み焼き尽くせ」
キュゴォォォォォォ
ミリアの放った火炎の渦がカーテレシーに向かって行く。
「天地の一欠けを創造せし氷雪の女王。汝が吐息で紅蓮を白く塗り染めよ」
セイの発動させた法術が炎の渦を一瞬で白く凍らせ、打ち砕く。
セイに目で礼を言いながらカーレテシーはミリアに斬りかかる。
「甘いッ!」
ミリアは一声発すると、長剣(ロングソード)でカーレテシーの剣を受けとめる。
ミリアの持っている長剣は微かに光っている。
魔法剣なのだろう。
セイはカーレテシーとミリアの戦いを見ず、斜め上(木の上)に視線を向ける。
「覗き見などと言う行為は感心しませんね」
「…ばれていたみたいね…誉めてあげる」
木から声がすると同時に、痩身の女性が現れる。
「キリネッ、セイを任せる」
ミリアがカーレテシーと剣を交じわせたまま、痩身の女性、キリネに声をかける。
「…わかったわ…一度、神官戦士とか言う奴とも戦ってみたかったし。」
キリネが腰の後ろから二本のダガーを取り出し、セイと向き合う。
「セイッ、油断するなよ…」
カーレテシーがセイに声をかける。
カーレテシーが繰り出す斬撃をミリアが防ぎ、ミリアが繰り出す斬撃をカーレテシーが防ぐ。
これを延々と繰り返している二人。
「その程度か?」
まだ余裕のあるミリアの声
「五月蝿いッ!」
かなり余裕が無くなってきているカーレテシー。
怒声と共に繰り出した斬撃もあっさり止められて余計に焦りが増す。
キリネがダガーで繰りだす斬撃を時には杖で、時には篭手で受け止め、避け続けるセイ。
キリネの二本のダガーを使った斬撃には隙が無く、
セイはどんどん追い詰められていく…のだが、セイは微笑んでいる。
「防御するだけで精一杯みたいね」
余裕で喋るキリネ。
だが、内心は…
(何で微笑んでいられるの?!何で攻撃が当たらないのよ!)
あまり余裕でもないらしい。
「……」
急にキリネがふっと手を止めて、微笑む。
――何か、思い出したかのように。
「?」
「ここで問題よ。」
「なんですか?」
微笑みながらも、杖を強く握り締めた。
何か、キリネの邪悪なオーラが増幅したように感じた。
「お前は、妹がいる。○か×か。」
「…○。です。」
×と嘘をつこうとしたが、やはりやめておく。
神に仕える身として、自分自身、それは許せない。
「ほほう…正直者は好きよ。」
「有り難う御座います。」
にっこり笑うセイ。
「だが、その馬鹿正直も、困ったものなのよ?」
「?」
「くくくく…面白いっ!」
ぐっと杖を握る手に力がこもった。
「私の、もう一つの術を知ってる?」
ぱぁぁぁ…
辺りがまぶしく光る。
「知りません」
怯えを見せずにまた微笑む。
最後、『イリュージョンよ』と小さく言ったのを、セイは聞けなかった…
はっとすると、セイは、何も無い真っ白な空間にいた。
―『いつもの強がり。ホントは怖いのに。』
「?!」
ぱっと振りかえる。
そこには、妹の姿があった。
「ヴェリ…?」
『そうよ、お兄ちゃん。』
―違う、これは…あいつがここにいるはずが無い。
『あたし、待ってたの。お兄ちゃん、きてくれるの。』
二つに束ねた髪が空を切る。
『強がりの、お兄ちゃんが。』
「?!」
『…だってお兄ちゃん、いっつも強がってる…』
―「近づくな化け物〜。」
―「あっち行けー」
―「近寄るなよなー」
過去の記憶が脳をよぎった。
10頃…あまりにも発達しすぎていたセイの能力は、同世代の子達に、嫌われていた。
幽霊と友達とか、魔女に魔法をかけてもらった。とか、変な噂が流されてまでいた。
「僕は…」
『お兄ちゃん?』
「僕は……」
涙がこぼれそうになった。
―「負けちゃ駄目。」
また、過去の記憶。
――母さんの声だった。
―「幸せを、その力で、貴方のその笑顔で、みんなにふりまくの。」
ふいに、何か体に強い力を感じた。
―「あなたは、世界一の…神様なんだから。」
「なんだと?!」
イリュージョンに入っていたはずのセイが突然目の前に現れ、キリネは目を丸くした。
「甘いんですよ。あなたの技は。」
にっこり微笑んだセイの笑顔は、何故か恨みの色と、幸福の色がまじっていた。
――ウェル・レイオウ・リリア――
「ふぅん…蒼の島か…聞いた事無いな。」
「そりゃ村の伝説だからよ。」
「でも本当に有るのか?」
「だから探してるんでしょ?」
「…」
リリアがレイオウが言うことにいちいち嫌な応答をつける。
「で、お前は、あいつらが『蒼の島』目当てって思ってるんだな。」
「そ。」
「えぇ〜〜、でも嘘かも知れないじゃんよ〜」
「…」
じっと二人はリリアを見詰める。
「何?」
「……苦労するな。お前。」
ぽんっとレイオウはウェルの肩を叩いた。
「…は?」
ウェルが変な顔で答えた。
リリアは小さい声で、誰にも聞こえないような声で、呟いた。
「……どんっ」
「……お?」
空を見上げてウェルは何かに気付いた。
なにかと思ったリリアとレイオウが同じく空を見上げる。
「あれ、ドリィじゃないか?」
「本当だわ、何してんのかしら」
「俺には、一生懸命飛んでる様に見えるんだが」
「狙われてる鳥があんなとこ飛んでたら意味ないじゃない」
「……」
沈黙する3人。
「やばいじゃねぇかっ!」
3人は各々の武器をしっかりと手にしドリィを追いかけた…
ケティアは、ラルドvsヒカゲ&ミカゲの戦闘の場へと現れた。
分身であるため、時間も距離も関係ない。
そして、気配さえも完璧に消して、その場に現れた。
そこで見たものは…
「いやっっーーーこないでぇーー!!」
リアが投げナイフ8本 乱れ投げを放つ。
しかし…
「はっ」
「はいっっですわ。」
それを難なくかわすヒカゲ&ミカゲ。
「遅いわ。こんな攻撃では何もできないわよ。」
ヒカゲ。
その一瞬の隙に、ラルドの影に突き刺さった短刀を抜き取る。
そして ラルドの長身を見上げる。
しかし、ラルドの動こうと歯を食いしばる表情はかわらない……。
その手をつかむヒカゲ。
「そんな事で、私の術を破ろうだなんて、甘いわよ。
貴方の彼氏は動けなくて、貴方が攫われるのを止めることも出来ないわ。」
リアを見るヒカゲの眼は、同性を軽蔑視する冷たい光を宿している。
「いやっーー」
手を振りほどこうとするが強い力でふりほどけない。
その時ラルドの真上に、ケティア(の分身)が光の粉を振り落とす。
「(動く…)おいっ、その手を…」
ラルドは、リアの手をつかむヒカゲの右腕をつかみ、リアはそれを背中越しにふりむいた時…
「はなせーーーー!!!」
そのまま放り投げる。
ヒカゲは、木に背中を
したたかにぶつけ気絶した。
ラルドは、背中にリアを隠すようにしてミカゲの方を向く。
「やっほ〜〜。ひょっとして、プリンセスを守る王子様やってたの?
ラルド!!」
「ケティアやんか、しかも分身で…まぁナイスやったで。さてさてや、おかえしせぇへんとな。
ケティア、呪文もできん、触ることもできん分身は側で見てえや。後は、わいがやったる。」
ポキポキと腕を鳴らすラルド。
(私を守ってくれるこの広い背中は…お兄ちゃん??)
ラルドを見るリア。
そのころドリィは、リアの元へ必死に飛んでいた。
「や、やってくれますわね…」
不意を突かれたとはいえ姉が一撃でやられた事にミカゲは少し動揺していた。
それもそのはず、ヒカゲの実力はミカゲとほぼ同程度。
その彼女がやられたということは自分も油断はしていられないということだ。
「はっ、そりゃこっちのセリフや。よくもリアちゃんを怖い目にあわせてくれたやないけ、
この落とし前は高うつくでっ」
そう言うが早くラルドはミカゲに向かって走った。
速い。 ダメージを受けたとは思えない動きだ。
疲労をまるで感じさせない。
「この化け物がっ」
ミカゲもそれに応じて動き、右手に持ったさっきと同じ形状の長針を放つ。
ラルドはそれをなんなくかわし、そして素早くミカゲの右に回り込み左の蹴りを繰り出す。
「ごほっ」
蹴りをかわそうと左に飛び退いたが間に合わず、多少威力が軽減されたとはいえ脇腹にくらってしまった。
そして着地のバランスを失い倒れ込む。
「女やからってもう容赦はせえへんで」
飛び退くと同時にミカゲが放った数本の短針をかわし、体勢を整えたラルドが言った。
(くっこの男、予想以上にやりますわ…このままではわたくしも…)
ラルドの蹴りを受けた部分を押さえながら、よろよろと立ち上がるミカゲ。
しかし、誰が見てもラルド優勢なこの状況で何故かその表情は笑っていた。
少なくとも近くにいたラルドにはそう見えたのだ。
「何が可笑しいんやっ!」
「フフ、こうなったらわたくしも奥の手を出させていただきますわよ」
余裕の表情と共にラルドの方に向き直ったミカゲはそう言った。
「貴方ではわたくしには勝てませんわ」
「っ、どーゆーことや」
「あなたの戦闘スタイルでは勝てないということですわっ!」
瞬時にミカゲの両手から数十本の細い短針が放たれた。
それも後ろに飛び退いてかわす。
だが、その飛び退いた後を見たラルドの表情が強張った。
「…なっ、何やっ!?」
ラルドが飛び退いた後、そこに生えていた雑草が溶けていたのだ。
まるで強い酸でもかけられたかのように…。
「ふふふ、その弱い頭でも理解できたかしら?あなたは素手、相性最悪ですわよ。
あの短剣の少年なら対抗出来たでしょうけどね」
「とことん卑怯なやっちゃな…」
たまらず悪態をつくが勝てる気がしなかった。
敵を倒すには近づくしかない、だが近づこうとするとあの酸の針が飛んでくる。
そしてそれをかわすには距離をとるしかないのだ。
しかしラルドには遠距離、中距離からの攻撃方法は無い。
「これで最後ですわっ!!」
ミカゲがそう言って前に飛ぶと同時にまた無数の短針、しかも今度の数は先程の倍以上。
(くそっ、これで終わりなんかっ?敵も倒せんと…リアちゃんも守れんとわいは死んでしまうんかっ!?)
カチャリ。
死を覚悟したラルド、だがその足下にそれはあった。
(…これはっ)
ひゅんっ。
それは空を切り、音を立て、ミカゲのもとに飛んでいった。いや、伸びていった。
どすっ!
「な……それは…」
そして無数の針をものともせず、ミカゲの腹部にクリーンヒットしたのだ。
「間一髪…ってとこやな」
「お…姉様…の…」
ドサッ。
その一撃でミカゲは意識を失い、その場に崩れ落ちた。
一応死んではいないようだ、息がある。
「ラルドにしては考えたよね、敵の武器を利用するなんて」
戦闘が終了したのを確認したケティアの分身がラルドの元に飛んできた。
そう、ラルドが間一髪でミカゲに向けて放ったのは他でもない彼女の姉、ヒカゲのチェーンウィップなのだ。
さっきラルドに放り投げられ、気絶したときに手放してしまっていたのだろう。
丁度あの時のラルドの足下にそれが転がっていたのだ。
「だっ、大丈夫ですかっ?」
ケティアに少し遅れて心配そうにラルドに駆け寄るリア。
その瞳にはかすかに涙が浮かんでいた。
「おうっ、ちゃんと生きとるでー。リアちゃんほって死ねるかっちゅーねん」
今にも泣き出しそうなリアに対して、ラルドはニッコリと微笑んでそう言った。
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