蒼の島〜事件!?〜

 

2人が、ケティアが居なくなった事に気付いたのは、 ようやく食事が終わろうかという時だった(遅いって)
「おい、見つかったか?」
「いいや、こっちにはおらへん。…ケティアのヤツ、一体何処行きよったんや…」  
そう言うと、2人は顔を見合わせてため息をついた。  
何せ、『頭脳労働』に関しては、居なくなったケティアが1番なので、
ウェルとラルドだけではなかなか先に進めないのである。
「あと、捜してへん場所ってあるか?」
「う〜ん…」  
ガサガサと音を立てながら、食堂の親切なおばちゃんに書いてもらった付近の地図を広げる。  
そのときだった。

「すいません…あの…もしかして……」  
声をかけてきたのは、闇色の髪と瞳を持った女性――
リア・ローザという名らしい――だった。  
彼女は、ケティアの行方について心当たりがあるらしい。
「で、その心当たりってのは…」
「その前に、お願いがあります。」  
言葉を遮られて、瞬間ムッとなるウェル。
それを押さえて続きを促すラルド。
そして、リアは微かに1度頷くと言った。
「理由は言えませんが…決してあなた方に…いいえ、あなた方の御仲間に 関係のない話ではありません。
…兄を…兄を助けて頂けませんか…?」  

 

ぐぅ〜〜〜…
ケティアは、自分のお腹がなる音で目を覚ました。
「あ…あれ?僕…」
頭はずきずきと痛むし、お腹がすき過ぎて気持ちが悪い。
しかし、次第にハッキリとしてくる頭で、ケティアは辺りを見まわし、考えた。
(ここは…どこかの倉庫?そうか、あの2人組の男に捕まったのか。
…こんな風に頭が痛むってことは、何か薬をかがされたんだな、僕を捕まえる為に。 …でもどうして?)
そこまで考えて、ケティアはふと違和感を感じた。
いつも自分を取り巻いている、あの感覚が無い、魔力を帯びた『浮巾』の感覚…
「ああああぁぁぁぁぁーっ!!!?」
ケティアの絶叫が倉庫いっぱいに響いた。
「ない、ないっ、ないっっ!」
自分の周りを見渡しながら、そこら辺の物を手当たり次第ひっくり返し、
「浮巾が…無い…」
へなへなとそこに座りこむ。

『浮巾』は、非常に珍しい、魔力を凝縮させて作った布で、常に一定の浮力を保っている。
その為、楽に移動する手段となるのだ。
と、同時にケティアにとっては『魔法使いの杖』だった。
一般の魔法使いが、杖を媒介にして魔法を使うのに対し、
ケティアは『浮巾』の魔力と自分の魔力を上手く混ぜて魔法を使う。
ケティアはまだ幼い為、そうしないと力が暴走してしまうのだ。

「どうしよう…これじゃあ魔法が使えない…」
ケティアは、食べそこねた大好きなミルクプディングのことも忘れて、 途方に暮れてしまった……

 

=一方・ウェル一行=
「いきなりで迷惑かもしれませんけどあなた方の御仲間は、恐らく兄といっしょに奴らに捕らえられている筈です。」 「どういうことだ?」
いらいらした口調でウェル。
「あ…この街には、珍しく、高く売れる物を盗る強盗団がいるんです。
兄は、魔力の結晶
『魔鉱石』の剣を身に付けていました。それを奴らに狙われて…」
「さらわれたってわけか…」
リアは、黙ってうなずいた。
「でも、物さえ盗ったらそのさらってきた人って言うのは用済みなんとちゃうか?」
「いいえ…やつらはさらってきた人間を殺すか、人買いに売り飛ばすんです。
実際…ここ数年この街に人買いがうようよしています。」
確かに周りを見渡すと、明らかに妖しい人物が大量に町をうろついている。
「じゃぁ、あなたはその強盗団のアジトは知ってるんだね?」
「はい。宿屋の倉庫の地下が奴らのアジトです。」

ーこうして、ウェルたちのパーティーにリアが加わった。
しかしウェルたちはまだこの女の正体には気づいていなかった…

 

ここは、宿屋の地下に続く階段。
ウェル、ラルド、リアは、 強盗団のふりをして、普通の人では入れない地下室に踏み込んだ。
ラルドは、リアを見ている。
(かわいいなぁ。なんとか、お友達になれんもんかな?)
ラルドは、惚れっぽい性格のようだ。

――階段が終わり、分厚い扉の前に来た。
「この部屋の中に、君のお兄さんがいるんだね。」とウェル。
「よっっしゃあ、いっちょ、暴れたるか、リアちゃん わいに任せとき。なあーに、地下室の戦いってのは、
格闘戦って、相場が、きまっとるんやわいに格闘で、勝てるやつなんか、おるもんか。」
自信、 満々のラルド。

ドンッッ 扉を蹴破る二人…
そこには、 黒い長剣を肩に背負う長身の男がいる。
カーレテシーお兄ちゃん!!」
「おう、リアじゃねえか、なんでおまえがここにいるんだよ。」
長身の男は、危険が全くない、さも、当たり前のように、そこにいた。
そばには、盗賊と一目で分かる、やばそうな男達が、数人倒れている。
「お兄ちゃん、大丈夫なの!! 」
「お前、何言っているんだ。俺が、こんな奴等に負けるとでも 思っているのか?」
ぶっきらぼうに長身の男は言う。
「でも、さらわれたって…」
「馬鹿、わざとだよ、こんな奴等でも、ポリスにもっていきゃ、 結構金になるんだぜ!!」
側で倒れているハゲを蹴飛ばし カーレテシーは言った。

「そんで、何だ、そこの弱そうなガキ二人は,」
(カチン)
ウェルのこめかみが、ピクッと動く。
「おいっ 何だお前、その偉そうな言葉は、助けに来て やったんだぞ!俺らは!!! 」
「大きなお世話だ。」
へーぜんと言うカーレテシー 。
どうやら、いきなり険悪ムードらしい。
「まぁまぁまぁ…」
いきなり険悪になってしまったカーレテシーとウェルの間に入ったのはラルドだった。
「ウェル!そないな事しとるより、ケティアを探す事が先決なんとちゃうか?」
「あっ…そうだ、ケティア!」
ウェルはハッと我に返り、カーレテシーに詰め寄った。
「おい!カーレテシー…だっけ?布切れまいた子供見なかったか!?」
「はぁ…?」
カーレテシーは訳が解らないという顔をした。
「この人たちの御仲間が、ここの人たちにさらわれちゃったみたいなの…
お兄ちゃん、誰かそれらしい人を見かけなかった?」
リアがカーレテシーにとりすがった

…瞬間…
「お探しの子供はこいつかな?」
4人の背後から、低い声が響いた…
4人が振り替える。
そこには、ケティアの喉にナイフを突き付けた ターバンを巻いたやさおとこがいた。
目付きが鋭い。
「我々の仲間を、倒すとは…おい! そこの男、我々の仲間に ならん……」
やさおとこの話が終わる前に、カーレテシーはいきなり蹴りを放つ。
しかも、その腕には、リアを脇に抱えている。
信じられない、跳躍力だ。
扉の向こう側に着地、ウェル側と、はさみこむ様に、 立つ、カーレテシー。
「盗っ人ふぜいが 俺に話しかけるんじゃねえよ! おめえらを金に帰る以外、俺には、興味ねぇんだよ。
さ〜て、お前が、ボスか?とりあえず、気絶する前に、 金品の隠し場所、吐いたほうが身のためだぜ!!」
ケティアは、ラルドに抱き着いている。
ウェルは、 あっけに取られている。

「…っ…大きな口をたたいていられるのも今のうちだ…これを見ろっ!!」
ぢゃんっ!
男が取り出したのは、一枚の薄い布キレ…。
一同しばし沈黙。
「…ふっざけんなッ!そのうっっっすい布がなんだってーんだよッ!?」
カーレテシーが構わず殴りかかろうとした時…
「待って!!!」
ケティアがカーレテシーに跳びついた。
「あれは僕の大事な物なの!傷つけられたり、持ってかれたりしたら許さないからね!」
そう、そいつが持っていた布は、間違いなくケティアの『浮巾』だったのである!
「敵を生きたまま捕獲しつつ、ボクの浮巾も無事にとり返して、なおかつここから脱出しなくちゃ!」
「……このガキ……」
ケティアとカーレテシーがもめている間、全く出番なしの二人は、ただただその様子を眺めていた…

男は、布巾を片手に呪文を唱え出す。
空気の振動 が伝わり、肌に寒気が突き刺さる。
「てやっ(呪文の掛け声、)」
氷の固まりが、カーレテシーに 迫り込む……
「…ああ…」
氷が当たる瞬間、黒い長剣を抜き受け止める。
バチ、バチ!
見る間に、氷が長剣にまとわり付き、カーレテシーの 手袋まで、凍りつく。
「おい、おい、これって、魔法の触媒かよ。布ってのは初めて見るぜ 。
ん〜〜、でもよ、使い手が三流だからよ。意味ね〜な。」
ふいに、カーレテシーは、剣に力を込める。
すると、剣のスパークが、 激しくなって、それに引き寄せられるように、布巾が吸い寄せられる。
「…ああ……」
浮巾をとりあげられる瞬間、男の手に
ナイフが飛んできて、 手を放してしまう。
ナイフを投げたのは、リアだ。

「よし!!ゲットッ!」
カーレテシーは、布巾をつかむ。
そして 盗賊団のボス、ターバンの男を担ぎ上げ、ドアに走る。
振り向いて、
「おい、関西弁の小僧と、それより弱そうな小僧、それよりもっと ちいせえガキ!(ひでえ)」
「今の騒ぎで、盗賊のザコどもがやってくる。階段までちかよせるな。」
小剣(ウェル)と、格闘(ラルドのこと、)なら、 狭いところも戦えるだろ。地上についたら、これを返してやるよ。」
そういって、背を向けて、階段を駆け上がる。
「……へっ……あっっ 勝手に行くなや〜〜。 そうだ、リアちゃん、君はわいが守る!!って、 いねえ〜〜。」
リアは、カーレテシーについて階段を 駆け上がっている。
「俺達は、何しにここにきたんだ〜〜。」
ウェルは ちょっち泣いている。

                                          

                     3       10 11 12 13         99年12月19日UP

 


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