命より大切なもの 第五話


・・・気配がする。

扉の向こうの気配は・・・2人くらいか。
監視の奴等とは格が違う。
こいつらは・・・プロだな。

 「お客さん?どういう事?」

アルカは困惑している。

無理もない。
俺が彼女に話した事は、彼女の今まで生き方を否定しているに等しい事なのだから。
そんな話をした直後だし、意味を分かりかねている。
頭が少し混乱し、事態を把握し辛いのだろうな。

仕方無い、説明してやるか。

 「お客さんは2人くらい。
  こんな所に来る理由は2つしか考えられない。
  1つは、俺と同じようにアルカに会いに来たか。
  2つめは俺に用があるか、だ。

  ・・・この場合、どう考えても後者だろうな。
  前々から諜報部が俺を調査していたのは知っていた。
  恐らく扉の後ろで息を潜めているのは、俺を捕らえる為か、殺す為だな」

俺はアルカにしか聞こえない程度の小さな声でそう言った。

 「あなた、一体何をしたの!?」

 「さて・・・どうしたもんかな」

俺はアルカの質問を無視し、対策を考えた。
相手は複数、多分拳銃も携帯しているだろう。
まともにやれば圧倒的に不利だな。

まともにやれば・・な。

 「アルカ・・!」

俺はわざと大きな声でアルカを呼んだ。

 「大きな声を出していいの?」

 「アルカ・・好きだ!!」

 「は・・?」

 「君を初めて見たときから、君の事が頭から離れないんだ」

 「な・・何言っているの!?」

 「アルカ・・、俺の愛を、受け止めて・・」

 「くれいっ!!」

そう言うと同時に、勢い良く扉を開ける。

俺の予想通り2人、扉の前に立っていた。
どんな人間だろうと、予想外の事がいきなり起こったら、例え一瞬だろうと驚く。

俺は、相手が驚いてる一瞬の隙に近くにいた方の急所に強烈な一撃を加えてやる。
同然、そいつは苦痛に顔を歪めながら倒れた。

もう一方の方を見ると、俺に向けて銃を構えていた。
そして発砲。サイレンサー付なのだろう。音は小さい。

 「な!?」

男は驚いている。
当然だな。撃った場所にはもう俺はいないのだから。

 「標準が甘いな。次からはもっと良く狙えよッ!」

俺はそう言い放ち、男の腕を蹴り上げ、銃を落す。
と、同時に身体を捻り、回し蹴りを食らわしてやる。

 「ぐッ!!」

 「おっと、動くなよ」

男が落した拳銃を拾い、銃口を額に当てる。

 「さて、色々聞かせてもらおうか。
  お前等は諜報部の連中だな?」

 「・・・」

 「何も語らない・・か。まあいい。
  じゃあ、何にも言わなくていいから、
  あっちでのびてるお仲間を連れて、帰ってくれないか?」

 「・・・」

 「返答は?」

 「・・1つ訊きたい」

 「お、やっと喋ったな」

 「なぜ・・殺さない?」

 「俺は人は殺さない主義なんでね」

 「そんな甘い考えでは、いつか死ぬぞ」

 「ご忠告感謝するが、俺は今までちゃ〜んと生きてきたからな」

 「・・・」

男は、のびている男を連れ、闇に消えていった。つまり帰ったって事だな。

 「ふう・・」

 「あなた・・・」

 「ん?」

 「あなた、一体何者なの?」

 「名前、七瀬優影。職業、研究員。年齢、四捨五入すれば20歳」

 「ただの研究員が、あんな真似出来ないわ」

 「う」

 「それに、さっきのは何?」

 「さっきのって・・ああ、告白の事か」

ま、確かにいきなりの愛の告白だったからな。

 「敵を騙すにはまず味方からってな」

 「・・嘘は付かないんじゃなかったの?」

 「残念。3割くらい本音だから嘘とは成立しないのさ♪」

 「・・・相変わらずね」

 「誉め言葉と受け取っておくよ」

 「・・ま、嘘みたいなものだったな。
  お詫びと言っちゃなんだが、俺の本音を話してやろう」

 「本音・・?」

 「俺の家族はな、もうこの世界にはいない。
  ある事件に巻き込まれてな。気が付いたら残っていたのは俺だけだった。

  俺は人を殺さない主義と言ったが、本音は違う。
  俺は、人の人生を奪うのが怖いんだ。
  ・・・俺と、同じ思いをする人を増やし、
  その思い・・・憎しみが俺に向けられるのが・・・な」

なぜ・・?

 「1人になってから、俺は生きる目的も無く生き続けて来た。
  危ない事もやってきた。
  その為に自分の身を守るための技術も覚えた。

  こんな風に、俺は生きる目的も無いのに、
  生きる為の技術だけ身に付けてきた」

なぜ・・俺はアルカにこんな事を話している?

 「そして、俺はアルカという名の1人の少女に出会った。

  彼女は、悲しい眼をしていた。
  俺は自分が悲しいのも、他人が悲しそうなのも嫌なんだ。
  家族を失った悲しみを、思い出してしまいそうだから」

同情してほしいからか?

 「そして彼女は、俺なんかよりずっと悲しかった。
  ・・俺は彼女が悲しそうにしているのを見てられなかった。
  彼女の考え、人生・・・全てが悲しかったから。

  だから、救いたかった。死なせたくなかった。
  彼女の悲しさを少しでも癒せたらと、そう思った」

自分の事を正当化したいからか?

 「・・でもこれは、俺のただの自己満足だ。
  死ななければそれで良いという訳じゃないのに。

  でも俺は、彼女には・・生きて・・そして・・笑っていてほしい」

 「優影・・さん・・」

 「・・・じゃあな」

俺は部屋を出た。

アルカの顔を見ないようにして。

俺のやった事は間違いだろうか?
犠牲になると言っている奴にそれは止めろと言うのは
ただ、俺が見てられないというだけじゃないのか?

・・・いや。

俺はもう、迷わない。
俺は、アルカが望む未来の手助けをする。
アルカが犠牲になるのをそれでも選ぶなら、それでいい。
だが、アルカが別の答えを出したら・・・。

今まで、自分の為にしか生きず、自分の為に行動してきた。
だが、他人の為に生き、他人の為に行動したいと初めて思った。

その感情が、同情なのか、愛情なのか、はたまた全然違う感情なのは分からない。
ただ俺は、アルカを救いたいと、心から・・・そう思った。

続く

 


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