命より大切なもの 第十話


私は誰なのか?
何をしたいのか?

結局、答えは出なかった。
でも時間は待ってはくれない。
私が結論を出せなくても、私はもうすぐ死ぬ。
いや、何もしない事を1つの行動と取るのならば、
私は、何も分からないという結論を出した事になるかな?

・・・ゴメン、優影さん。
私は、とても弱いみたい。
結論を出すのが怖くて、わざと結論を出していないだけなのかも知れない。

今の私を見たら、あなたはどう思うだろう。
怒るかな?呆れられるかな?それとも、見損なうかな?

いつも、あなたの行動は私の予測を超えていた。
何をするか、全然分からない。
でも、この状態はどう考えても、どう間違っても、誉めては、笑いかけてはくれないよね。

・・・誉めて?笑いかけて?
私は、誉められたかったの?笑いかけられたかったの?
優影さんに?

優影さんがいつも来てくれて、喋りかけてくれていたあの時間。私は楽しかった。

それは、優影さんが私を『アルカ』として見てくれた事が嬉しかったから?

私を、XTORTとは見ていない優影さんと話すのが、楽しかった?

XTORTとして見られる事が、嫌だった?

私は、自分をXTORTそのものだと思っていた。
だったらなぜ、私をXTORTと認めない優影さんが嫌じゃなかったの?

アルカは、一度死んだ。そして、無理やり蘇生させられた。
蘇生させられた私は、アルカと、アルカの母の記憶と、知識を持っていた。

一度死んだから、今生きている自分が、人では無い存在だというのが認めるのが怖いから、
私は、自分が誰なのかを考えるのが怖かったのかも知れない。

自分が不完全な人間だという結論が出てしまいそうで、怖かったのかな・・・。

優影さんは、私をアルカだと言ってくれた。

優影さんが嫌じゃなかったのは、私が自分をアルカだと思いたかったから?

アルカとして・・・自分自身として、優影さんが接してくれるのが、嬉しくて仕方が無かった?

だとしたら、私は・・・・。

 「出ろ」

不意に、声が聴こえた。
気が付くと、数人の男が、部屋に入って来ていた。

 「出るんだ」

・・ああ、私に喋りかけているのか。
そしてその事を理解した時、私は直感した。

私は・・・これから死にに行くんだ、と。

   * * * *

いつもの場所。いつもの人達。
ただ1人、優影さんがいない事を除けば。

後、数人の見知らぬ男もいる。私の逃走防止か何かだろうか。

 「ロバート、やはり・・・やはり止めないか」

 「ルーツ、何をいまさら」

 「別に解体しなくても、研究は続けられる。彼女を殺す意味なんかないだろう」

 「いや、この研究は一刻も早く完成させねばならない。・・・時間が無いのでな」

 「時間?」

 「おっと、少し喋り過ぎたようだ。これ以上知れば、君の命は無い。
  ・・・どこかの、誰かのようにな」

 「貴様・・・!」

 「さて・・・何か言い残す事は無いか?
  もう、これが最後だ。聞いてやるぞ」

ロバートは怒りの感情を浮かべるルーツさんを無視し、私に話しかけてきた。

 「私は・・・」

 「ん?なんだ」

・・・私は優影さんを守りたいと思った。あの時、心から。

私が私として、優影さんが死ぬのは嫌だった。

 『俺は子供っぽい考えの未熟な男だ。
  後数年くらいしたらもう少しマシになっているかも知れない。
  でも、俺は今生きている。未熟で子供じみた甘い考えでな。
  未熟なら、未熟なりに、未熟のままで、今をどうにかしないといけないと、俺は思う』

優影さんは自分が甘くて未熟だと認めていた。

そして、自分を変えるのに努力して、今は仕方無いと思うのでは無く、
自分が生きている、今の未熟な状態で、今をなんとかしなければならないと言った。

私は、今を生きている。

そして、私は優影さんを失いたくはなかった。
だから、私は優影さんを守ろうとした。

私をアルカと、そう認めてくれた人だったから。

そして・・・優影さんだったから。

 『アルカ、自分を見失うなよ。自分から逃げちゃダメだ。

  人はいつか死ぬ。それは絶対だ。それでも、人は生きている・・。
  何かを残したいから、幸せになりたいから、とか理由は色々だけどな。

  ・・今まで自分が人を犠牲にしてきたから、自分は幸せになる事は出来ないなんて、
  悲しい事を思うなよ。俺は家族を失った、そして悲しかった・・。
  俺はそんな悲しい思いをしている奴を見たくない。どんな奴でも幸せになる権利がある。
  お前が・・例え一度死んでいてもだ』

私は、自分から逃げていたのだろう。
何も無い自分が怖くて、嫌で。

でも、そんな私を優影さんは守ってくれると言ってくれた。

私が望む未来の手助けをしてくれると、そう言ってくれた。

私は優影さんを信じたい。優影さんが教えてくれた、気付かせてくれた私の本当の気持ちを。

それが真実だと、私も・・・そう思えるから。

私は、『アルカ・ノバルティス』だと。

そして・・・。

 「私は・・・。
  私は死にたくないッ!!」

 

 「心得ました。お姫様♪」

 

 「え・・・!?」

 「な!?き・・・貴様!?」

この声は・・・私を笑わせてくれた声。

不味い料理を持ってきてくれた声。

行動が予測不能だった声。

私が悲しそうにしていると言った声。

私を守ってくれると言ってくれた声。

自分から逃げてはいけないと、教えてくれた声。

自分だって悲しいはずなのに、いつも人の事を心配してくれた声。

私が、守りたかった声。

もう二度と、聞くことは出来ないと思った声。

そして、私のそばに・・・いてくれた声。

 「優影・・・さん・・・?」

声がした方にいたのは、間違いなく・・・優影さんだった。

 「さあ、ラストシーンはこれからだぜ!」

続く



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