命より大切なもの 第十一話


 「な・・・七瀬だと!?なぜ生きている!?確かに死んだはずだ!!」

 「なんだ?ロバート主任は科学者のくせに知らないのか。
  科学が生んだ名作、防弾チョッキの存在を!」

 「そ・・そんなバカな!?
  確かに血が出ていたではないか!」

 「事前に自分の血を抜いて懐に忍ばせていたのさ。
  胸から本物の血が流れているから、死んだと思っただろ?

  俺が本当に死んでるか確認しないまま、海に捨てたのは失策だったな。
  ・・・まあ、腕はマジで撃たれたから、流石に海は死にかけたけどな」

 「まさか・・・貴様、わざと!?
  わざと気付かぬ振りをして、私に撃たれたのか!?」

 「その通り。
  アルカを助けるには、これしか方法が思いつかなかったんでね」

 「バ・・・バカな・・・」

この無茶苦茶な行動力。確かに、本人だ・・・。

 「生きて・・・生きていたんだ・・・」

 「アルカ、俺の名を忘れたのか?
  俺の名は優しい影と書いて優影だ。

  影は、いつも人と共にある。
  例え、漆黒の闇に包まれてその姿が見えなくなろうとも、影はいつもそこにある。
  俺は、アルカのそばにいる影。守ってやる影。
  俺は、七瀬優影だ!」

 「・・・バカ・・・」

 「ああ、俺はバカだよ」

そう言って優影さんは笑った。
この笑顔・・・また、見る事が出来た。

 「確かに、折角命を拾ったのにこんな所に乗り込んでくるとは・・・バカとしか思えん」

ロバートは、いつの間にか彼に銃を向けていた。
そして数人の男も同様に、彼を狙っていた。

 「死に損ないが・・・。今度こそ確実に殺してやろう」

 「おおっとロバート主任、俺を撃ってもいいのかな?
  そんな事をしたら、これも壊れちまうぜ?」

優影さんは、何かのディスクを取り出した。

 「なんだ、それは?」

 「XTORTに関する、全ての研究データだ」

 「ふ・・そんな物、いくらでもバックアップは取ってあるし、ディスク以外にも書き記してある」

 「た・・・大変です主任!」

研究員の1人が、凄く慌てた様子で駆け込んで来た。

 「何事だ?」

 「XTORTの・・・XTORTのありとあらゆる全てのデータが・・破壊されています!!」

 「何だと!?」

 「そういう事だ。もう、XTORTに関するデータはこれしかないんだなぁ♪」

 「貴様の・・・貴様の仕業かッ!!」

 「俺は死んだという事になっていたから、比較的簡単だったぜ」

・・・優影さんらしい行動力。

その行動力に、呆れるを通り越して、可笑しくて仕方がなかった。

 「さあ・・・取引だ、ロバート。
  このディスクはあんたにやる。だから、アルカを俺によこせ」

 「ふ・・・ではこれではどうだ?」

ロバートは、私の頭に銃口を突きつけてきた。

 「こいつの命が惜しければ、それを私に渡せ」

 「へぇ・・・そうくる?」

 「君にこいつを見殺しにはできまい?
  形勢逆転と言った所だな。
  さあ、返答は?」

 「分かっていないようだから教えてやろう。
  俺がなぜ今まで姿を消していたと思う?

  今日の俺は一味違うぜ。
  完全武装仕様、フルアーマー七瀬とでも呼んでくれ」

 「意味が分からんな」

 「こういう事さ」

そう言って優影さんは、眼を閉じ、そして何やら力んでいる。

 「ブラックライト!!」

優影さんがそう言った途端、急に何も見えなくなった。

 「な!?停電だと!?」

 「え!?」

数秒後、明かりがつく。

 「アルカは頂いたぜ!」

私は、いつの間にか優影さんに抱き抱えられていた。

・・・いつの間に?

 「バカな!?いつの間に!!」

私でさえ気付かなかったくらいだ。ロバートは驚愕している。

 「このデータはやるよ。俺は、アルカを救う以外は出来そうにない。
  俺はそれくらいの事しか出来ないちっぽけな人間だからな。

  ・・・後は、見ず知らずの奴等に託す。
  EVEとか言う第2のアルカが生まれても、
  見ず知らずのそいつらが、幸せにしてくれると・・・信じて」

   「悪いなロバート。あんた達の計画を無茶苦茶にして。
  代わりと言っちゃなんだが、これもやるよ。
  ・・・受け取れ!!」

ロバート達のいる方向に、ディスクと共に何かが投げられた。

そしてその物体からは、何やら怪しいガスが噴出してくる。

 「な・・・なんだこれは!?」

 「吸うな!これは・・催涙ガスだ!」

 「くそ!前が見えない・・!」

 「じゃっあね〜〜〜♪」

優影さんは私を抱えながら、その場から逃げ出した。

   * * * *

辺りは慌しくなった。
その中を、私達は逃げる。

 「わ・・私には嘘は付きたくないんじゃなかったの?」

私は優影さんに尋ねる。無論、走りながらだ。

 「嘘は付きたくなかったが、
  アルカの願いを叶えるほうが最優先だったから仕方なかったんだよ。悪い」

 「どれだけ悲しかったと思っているの!?」

 「本当に悪かった。後でいくらでも謝罪はしてやるよ。
  だから、今はここから逃げる事だけを考えよう」

 「・・・分かった」

そう言っている間にも、一直線の通路で挟み撃ちにされた。
前方に2人、後方に3人。いずれも銃を持っている。

 「仕方無い・・。アルカ、飛ぶぞ!!」

 「え!?」

 「うおーーーりゃーーーー!!」

私を抱え、優影さんは外側に付いていた窓ガラスに体当たりし、そして・・・飛んだ。

 「・・ここ、1階なんだけど」

 「気分の問題だ。まるで、地上10階くらいから飛び降りた気分になれるだろ?」

 「・・はぁ」

そんなやりとりをして、私達は走り出す。
・・・ホント、優影さんといると退屈しないよ。

優影さんは、本当に色々持っていた。

大勢の追っ手がいたら、

 「くらえ蜂蜜!そして・・・大自然の恐怖、蜂の巣投げ!!」

と言って、近くにあった蜂の巣を相手に投げつける。

追っ手が近い位置にいたら、

 「唐辛子水鉄砲!」

と言って、水鉄砲を相手の目に撃つ。

他にも、

 「予め掘っておいた落とし穴!」

 「まきびし!」

 「爆竹〜♪」

・・・催涙ガス以外は、くだらない物ばっかに感じるのは私の気のせいだろうか?

   * * * *

 「ふぅ。大分撒いたかな?
  ・・・あークラクラするぅ」

私達は散々逃げ回り、人気の無い森に入っていた。

 「左腕から血が・・・!」

 「そりゃあ、撃たれたの昨日だからな。もう完治していたら、俺はバケモノだ」

忘れていた。優影さんがあまりにも元気に、いきなり出てきたから。
優影さんは、ロバートに左腕を撃たれていたんだった。
そして、他の2発も、いくら防弾チョッキを着ていたとしても、骨折している可能性だってある。

 「ちゃんと処置はしたの?」

 「応急処置はなんとか。
  あの後、海に捨てられるは袋詰めだったから脱出するのが大変だったとか散々だったからなぁ。
  ・・・実は、服の下は包帯だらけだ」

 「早くちゃんとした処置をしないと」

 「この辺じゃ無理だな。
  俺の為にも、アルカの為にも、今は逃げる!」

 「・・・そうだね」

 「・・っと」

 「どうしたの?」

 「良い場面に出てくるな〜、ブレードは。さっすが諜報部」
 「え!?」

優影さんの視線の先には、1人の男が立っていた。
この男は・・・あの時の男だ。

 「・・・」

男は立っている。
ただ、立っている・・・。

 「ゲームでいう所の、ラスボスって奴かな?」

続く



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