命より大切なもの 最終話 |
今まで、何の目的も無く、ただ生きていた。 俺からすべてを奪ったものを、恨んでいないと言えば嘘になる。 だが、恨みや憎しみなんか、悲しいだけだ。 だから、俺は人を殺さない。 どんな人間にも、死んだら悲しむ奴が1人くらいはいるもんだ。 俺が殺せば、憎しみを量産する事になるから。 俺と同じ思いをする奴なんか見たくないし、憎しみが俺に向けられるのも怖かったから。 そして、意味も無く、ただ生き続けて来た。 いや、生きる目的を探す為に、生きていたのかも知れない。 そして、俺は生きる目的みたいなものを見つけた。 それは、ただの思い違いや、一時の感情に過ぎないのかも知れない。 でも、未来の事なんか、俺は知りたくも無いし、知る術も無い。 そう・・・それでいいんだ。 俺は、たった一人の少女を助け出す為だけに生きてもいいと、そう思えた。 俺は、甘い考えで未熟でバカな人間だ。 俺が今まで歩いて来た道は、 人によったら「そんな甘い考えが通用するか」で片付けられるだろう。 でも、それでいい。 俺は・・・甘くて未熟な、今の自分が好きだから。 甘くて通用しない事に出くわしても何とかなるように、俺は強くなったんだから。 命より大切なもの 最終話 「アルカとの逃避行の、最後の最後でブレードと来たか。 つくづく、俺達は縁があるな」 「・・・そうだな」 ブレードが答える。 「知り合い・・・だったの?」 アルカが尋ねてくる。 まあ、アルカから見れば、自分を殺しに来た男と仲良く喋っているのだから変に思うだろうな。 「俺を2年前から調査していた諜報部員だ。会ったのは、俺を殺しに来た時が初めてだったが、 お互い、お互いの存在は知っていた。そんな関係だ。 ・・・合っているよな?ブレード」 「ああ。 だが、貴様が俺の名を知っていたのは驚きだったがな」 「・・・黙って通してくれる・・・わけないか」 ブレードは、俺に銃を向けた。 「この前は避けられたが、今回はどうかな?」 「人が満身創痍で動くだけでもツライと知っててそんな事する・・・」 「その娘をこちらに渡せ。そうすれば、これ以上諜報部は貴様に関わらん」 「俺の返答が分からないわけ・・・ないよな?」 「・・・貴様はいつもそうだ。俺には理解出来ない行動ばかりする。 だが、その返答をした場合俺がどうするかも、分かっているな?」 「ああ、俺を殺すつもりだろ」 ふと、アルカの方を見る。 アルカは心配そうな眼をしている。と同時に・・・。 「アルカ、俺の盾になろうとか考えるなよ。そこで、じっとしてろ」 「でも・・・!」 「いいから!・・これは俺とブレードの問題だ」 「・・・最後に、1つ訊きたい」 「最後・・・ね。なんだ?」 「貴様は何処にも属さず、何処にも名前すら残っていない。そんな行動力を持っていながら。 ・・・貴様は、一体何者なんだ?」 「俺は七瀬だよ。七瀬優影。名前しか持っていない、ただのバカさ。 追加で言えば、最近生きる目的が出来たかな」 「それはなんだ?」 「アルカを守る事」 「・・・」 「俺はな、みんなみんな幸せって事は・・・出来ないと思うんだ。 でも、幸せになってほしいと、心からそう思える人には幸せになってほしい。 それが凄く困難で、誰もが無理だと言ったとしても、 そして俺自身、無理かも知れないと思っても、 それでも、幸せになって・・・笑っていてほしいと思える人を・・・見つけたから」 「・・・そうか・・・」 ブレードは銃の引き金を・・・引いた。 何の音も、しなかった。 「・・・弾切れ・・・か」 「へぇ・・・。一発も撃っていないのに、弾切れ起こすんだ?」 「なぜ・・・避けようとしなかった?」 「弾が一発も入っていないなって、そう思ったから」 「知っていたのか?」 「いや、確証は無い。なんとなくだ」 「フ・・・」 「なぜ・・・弾を入れなかった?」 「貴様は・・・、 貴様はバカで、甘くて、未熟で、妙な行動力を持っているが、何も持っていない男だ」 「えらい言われ様だな・・・」 「そんな男が、何か無茶な事をやろうとしている。 たった1人の・・・、 世界中で星の数程いる人間の中で・・たった一人の少女を、幸せにしたいとほざいたんだ。 そんな珍しくて面白い見世物は、見ないと損だろう?」 「俺は珍獣かい・・・」 「貴様は甘い。 だが・・・、 貴様みたいな男が、世界に1人くらいいた方が面白い」 「あっまい考えー」 「フッ・・貴様にだけは言われたくないな」 「フフ・・・確かに・・・そうだね」 ブレードとアルカは、笑い出した。 ・・・俺は珍獣扱いかい・・・。 ・・・まあ、それもいいか。 「とっとと行け。貴様の顔なぞ、もう見たくない」 「さっきまでは見ないと損とか言っていなかったか?」 「さぁな」 「嘘つき」 「優影さん程じゃないよ。・・・この大嘘つき」 「お前・・・性格変わったんじゃないか?」 「人は、変わっていくものよ」 確かに、人は変わっていくものかも知れない。 でも、変わらずに残っているものだってある。 それは、人それぞれだ。 どうやら俺の甘い考えは、一生変わりそうにない。 もう20年くらいの付き合いだからな。 でも・・・それでいい。 俺は、今の俺が嫌いじゃないから。 俺はアルカに、自分には何も無いという事が怖いんだ、と言った。 でも、それはかつての俺も一緒だ。 自分にはこれがある。これだったら世界中の誰にも負ける事は無い。 そう言える特長を持った奴なんか、そうはいないと思う。 誰かと比べてしまい、自分が劣っていると思ってしまう。 でも、それでいいんだと思う。 世界一の特徴は無くても、今まで生きてきた『自分』という特徴は、 他の誰にも真似は出来ない。 自分のやって来た事の代わりが出来る人間はいても、自分の代わりを出来る人間はいない。 自分は、所詮自分でしかないけれど、 自分の代わりは誰にも出来ないという事、それは誇りにしても良いことだ。 だから、アルカは、『アルカ』だ。そして、俺は『俺』だ。 「これから・・・どうするの?」 「そうだなぁ・・・これからはアルカも養っていかないといけないし、 とりあえずは職探しだな。 ・・・あと、住む所も探さないと・・・」 「これ、なーんだ?」 「ゲッ!!『なんでも好きな物買ってあげる券』!! お前・・・まだ持っていたのか!?」 「何買って貰おうかなーー♪」 「おいおい・・・高い物は勘弁してくれよ・・・」 「どうしよっかな♪」 「・・ん?何で文字が滲んでいるんだ? ・・・ひょっとしてーー」 「ち・・・違うよ!それは別に泣いてたから滲んだととかじゃ! ・・・あ!」 「へぇ・・・泣いてたんだ♪」 「う・・・誰の所為だと思っているの?」 「う」 「優影さんの所為でしょ?」 「・・・はい。私が悪うございました・・・」 「でも・・・良いよ。 優影さんは、嘘は付くけど、約束は守ってくれたから」 「約束?」 「私を、守ってくれたから」 「・・・」 「照れているのー?」 「な・・・何の事かな〜〜〜?」 「・・・じゃあ、安い物で良いから、2つお願いを聞いてくれる?」 「2つ?」 「1つは、いつでもいい。 でももう1つは・・・今ここで。 ・・・耳貸して」 「そんな残酷な・・・」 「意味が違う」 「分かっているよ。 ・・・で、何だ?」 「それはね・・・」 2つあった影は・・・・1つの影になった。 「・・・いきなり何をする」 「照れない、照れない♪」 「真っ赤になっている奴には言われたくないな〜」 「う」 「ふ・・勝った」 「優影さんだって、真っ赤」 「う」 「フフ・・・私の勝ち♪」 「・・・負けた」 優影さんは、無茶苦茶で、予測不能な事ばかりしてきたと思っていた。 でも違ってた。 優影さんは、誰も傷つけたくはなかったんだ。 誰も傷つけず、犠牲にしないで幸せになる事は、普通無理だ。 でも、優影さんはそれをやろうとしていたんだ。 そんな事は無理だと、誰もが諦めていた、そんな子供じみた事を。 その為には、自分が死にかけようが躊躇わず実行する。 無論、自分が死ぬ事で悲しむ人が1人でもいる限り、優影さんは死なない。 死にそうな目にあっても。 その行動は、誰もが諦めていた行動。 そんな甘い考えでは生きていくのがつらいから、諦めていた生き方。無理だと思った生き方。 でも、優影さんはその生き方を選び、その生き方を貫いている。 そんな誰もが無理だと思う生き方をしているから、無茶苦茶で予測不能に見えていただけなんだ。 誰もが絶対に出来ない、無理だと言う行動を、進んでやっている人だから。 優影さんは、甘いと思われている。 でも、それは違う。 彼は・・・とても優しいんだ。 生きている事が、大好きなんだ。そして、誰にも死んでほしくないんだ。 命より大切なものなんて・・・無いから。 そんな事を優影さんに言ったら、優影さんは絶対、こう言うだろう。 「そんな凄いもんじゃないさ。 俺は、七瀬優影。 ただの・・・バカ、さ」 ・ ・ ・ |