命より大切なもの エピローグ〜ルーツによる追記〜 |
あれから・・・半年が経った。 死んだと思っていた七瀬が嵐のように現れて、嵐のように彼女を連れて消えた、あの日から。 ・・・七瀬よ・・・あの時、私もいたのに躊躇せず催涙ガスを投げたな。 後から知った事だが、ロバートはXTORTを最初からある目的に使用する為だけに研究していた。 『EVE』と呼ばれるものに。 それが何なのかまでは、私には分からなかった。 ロバートはそのEVEとやらを作り出すチームの1人だった。 そして、その研究中にXTORTの存在を知り、それを利用する為に、 ロバートはチームを編成し研究を開始した。 それがXTORT解明チームだ。 私達が今までしてきた研究は、その為だけに利用されていたのだ。 七瀬が残していったディスクには、確かに全ての研究データが残されていた。 そして、七瀬優影とアルカ・ノバルティスの捜索は事実上断念され、 2人は初めから存在しなかったみたいに、彼等に関する全ての情報が消えた。 つまり、七瀬優影という研究員は存在せず、 XTORTはディスクだけが科学局に渡って来た、という事になった。 それは、2人の逃走が自分の責任になるのを恐れて、ロバートが隠滅したのかも知れないし、 ディスクだけでもEVEとやらの研究には十分だと判断したのかは分からない。 ロバートは、最後まで色々と分からない男だった。 ただ1つだけ確かな事は、XTORTの研究は・・・消滅した。 勿論、ただの研究員に過ぎない私がここまで調べれたわけでは無い。 1人の男に、教えてもらった事だ。 その男は、ブレードと名乗った。 ブレードは、2年前から七瀬を監視していた諜報部の人間だそうだ。 なぜ色々と私に教えてくれたのかを尋ねると、 「あのバカに感化された。・・・それだけだ」 と、答えた。 そしてブレードから、七瀬が無事に逃げ延びたとも聞いた。 嬉しくて、嬉しくて仕方が無かった。 だが、その後どうなったかまでは分からないらしい。 ・・・まあ、七瀬の事だ。どこかで無事に暮らしているだろう。 あいつは、どんな無茶な約束でも必ず守ってきた男だ。 彼女を守ると約束したのなら、今も彼女を守りながら生きている。 自分と、そして他人の命を、大切に思っている男なのだから・・・。 私は今、長期休暇を取って飛行機に乗っている。妻と一緒に。 先日、ある手紙が届いたからだ。 その手紙には、差出人は書いていなかったが、 中身の内容を見て、私は凄く驚いた。そして、嬉しくて仕方が無かった・・・。 なんと、彼女からの手紙だった。 手紙には写真が同封されていた。 2人の写真だった。 ・・・本当に、幸せそうな表情をしていた。 悔しいが、私はあの2人がこの写真以上に幸せそうな顔をしているのは、見た事が無い。 手紙には、今どうしているか等、色々な事が書かれていた。 そして1番驚いたのは、なんと彼女のお腹には優影の子が・・・いたら面白かったのだが。 そんな事がもし事実だったら、私は七瀬を、 『ロリコン研究者』と一生からかう事が出来たのに・・・。残念だ。 冗談はさておき、私が本当に驚き、そして嬉しかったのは、 もう1つ、手紙に同封されていたペアのチケットと関係がある。 あの時、七瀬から預かり、彼女に渡した箱の中身は、誕生日プレゼントの紙切れだったそうだ。 紙切れ1つにあんな箱を用意するのだから、七瀬らしいと思った。 その紙切れの正体は、『なんでも好きな物を買ってあげます券』だ、そうだ。 お金が無いから、それで勘弁してくれ、とも書いてあったらしい。 ・・・七瀬、お前は子供か・・・。 そして、高い物は勘弁してくれと泣きついてきた七瀬に、彼女は『1つのお願い』をしたそうだ。 その内容は・・・・。 おっと、空港に着いたようだ。 私達夫婦は、あの2人・・・そしてXTORTが生まれた、ある島国にやって来た。 そう、私達夫婦は、彼女に招待されたのだ。 無論、チケット代は七瀬が出したらしい。 ブレードのチケットも有ったのだが、彼は「仕事が忙しい」と言って断った。 だが・・・、 「今度、見世物を見に行ってやる」と、伝えてくれと言われた。 顔に似合わず照れ屋だな、とからかってやると、 「やはり、あんたは七瀬の父親だ」と言っていた。 これは、誉め言葉なのだろうか?それとも・・・。 だが、悪い気はしなかった。 「失礼ですが、ルーツさんですか?」 空港で、大柄な男に声をかけられた。 「そうだが・・・君は?」 「あ、俺は見城と言います。 七瀬とは、昔からの知り合いで、七瀬に頼まれて、俺があなた方を迎えに来ました」 「七瀬の・・・」 「はい・・・どうぞ、こちらへ」 * * * * 「七瀬は、いや・・・あの2人は元気にしているか?」 私は目的地に向かう途中に、見城君に話しかけた。 「ええ。元気ですよ。 しかし、彼とは付き合いが長いんですが・・・いつも驚かされます。 急にいなくなったと思ったら、急にまた、それも女の子を連れて帰って来るものですから」 「ハハ・・・七瀬らしいな」 「本当に、七瀬といると退屈しませんよ。 でも、それが七瀬らしい・・・。 俺の数少ない、でも最高の友人です、七瀬は」 見城君は、笑っていた。本当に、七瀬とは付き合いが長いらしいな。 七瀬の行動を退屈しないと言えるのは、その証拠だと私は感じた。 「・・・でも、七瀬は変わりましたね。 あいつは・・いつも笑顔でしたが、心から笑っているようには見えませんでした。 どこか近くにいるのに、少し遠い位置に常にいたような感じがしました。 でも今は・・・七瀬は心から幸せそうに見えます。 心から笑っていると・・・そう感じます。 きっと、七瀬を幸せにしてくれたのは、彼女ですね。 俺は、彼女に感謝してます。 七瀬を心から笑わす事は、俺には出来ませんでしたから。 あいつは、俺をよく励まして、笑わせてくれたのに・・・・。 だから、七瀬が幸せなのは、 ・・・友人として、心から嬉しい・・・そう思います」 「君は・・・七瀬のとても良い友人だな。 私も、同じ気持ちだからな」 「あら?ではあなたも、優影君の友人だったの?」 妻が、いきなり話に割り込んできた。 「変ねぇ・・・私にはあなたは優影君の父親に見えたのだけど・・・」 「ふぅむ。つまり、見城君も友人としてはなく、親心で七瀬を祝福しているわけだな」 「ちょっと・・・俺はそんな年齢じゃありませんよ」 「そういえば、そうだな。すっかり忘れていたよ。ハッハッハ・・・」 「・・・うーん、親心か。 確かにそうかも知れないけど・・・やっぱり抵抗があるなぁ」 「ハッハッハ・・・、 おっとそうだ。 見城君、七瀬は、今どんな仕事をしているんだ?」 「俺の紹介で、俺と似たような仕事をしていますよ。 ・・・あ、言っていませんでしたね。 俺は、警察関係の仕事をしています」 「警察か・・・。 確かに、七瀬には1番似合っているのかも知れんな」 「そうでしょう? だから、俺も七瀬に紹介したんですよ。 実際、七瀬は大活躍していますよ」 こうして私達は、見城君と楽しい会話をしながら、一直線に目的地に向かった。 * * * * 見城君に案内されたその場所は、 キレイで、そして結構な値段がしそうな、お洒落なマンションだった。 「中々良いマンションでしょう? 実は、七瀬はずっと貯金をしていたらしいですが、 このマンションだけでパーになったと、俺に泣きついてきましたよ。『今まで苦労が〜!』って」 ・・・七瀬・・・苦労したんだなぁ・・・。 私は、七瀬の今までの苦労に涙した。 もしかしたら、『なんでも好きな物を買ってあげる券』は、これに代わったのかも知れない。 そう思うと、私は七瀬に同情した・・・。 恐るべし、『なんでも好きな物を買ってあげる券』・・・。 「それじゃ、俺はこの辺で失礼します」 「ん?一緒に来ないのか?」 「仕事がありますから。 今日だって、七瀬に無理やりやってくれと頼まれたものでして・・・」 「そうか、それはすまなかったな」 「いえ。 ・・・それに、俺がいるとお邪魔でしょうから」 「・・・ありがとう。 私達はしばらく滞在する予定だ。 都合が合えばまた会おう。七瀬の昔話は、是非聞きたいからな」 「私も同感だわ」 「ええ、七瀬と彼女の話も聞きたいですしね。 あいつ、中々話してくれないんですよ」 「フフ・・七瀬と彼女の愛の物語を、七瀬の前で心ゆくまで語ってあげよう」 「はは・・それは良いですね。楽しみにしています」 そう言って見城君は帰っていった。 フッ・・・七瀬をからかう絶好の機会を手に入れたわけだな。 * * * * そして向かうは、マンションの一室。 私は、呼び鈴を押した。 そして・・・そこには・・・・。 涙が・・・涙が、止まらなかった・・・・。 私の叶う事が無いと思った願い・・・ そして彼女・・アルカが七瀬にお願いしてくれた、 『4人でのお食事会』は、今・・・・実現した。 〜 Fin |
四方山話(言い訳) |
・・・長かった。 本当に完成まで長かったです。 アルカという悲しい少女のその後を、ハッピーエンドで終わらせてみました。 初め、書いている私も、誰も彼も幸せになんかならないし、生きているから幸せじゃない。 そして、アルカが生きているというのはこれからのストーリー上、不自然じゃないか、とか 色々悩んだ作品です。 でも、それでも好きな人には幸せになってほしいと思ったから、 私はもう迷わず、そして完成しました。(恥ずかしい・・・) 優影は言うなれば都合のいいキャラです。 でもその都合のいい生き方、本当にする事なんて不可能に近い生き方を貫いたキャラです。 私自身、凄く好きなキャラです。 ・・・しかし、書いているうちにキャラが勝手に色々と変貌していきました。 ルーツは、いつの間にか七瀬父らしい行動をしてくれるし、 ロバートは神経質な悪人から渋いお人に変貌するし、 ブレードにいたっては当初名前すら無い存在だったのに・・・(笑) ホント、書いている私自身、大きく影響された作品です。 というのも、今まで長い作品を完結させる事が出来たのが初めての作品だからです。 趣味で長―い物語を考えたり、実際作った事もあるのですが、 完結したのは、これが初めてです。 今までで1番悩んだ作品であると同時に、 今までで1番作れて、そして完成してとても嬉しい作品です。 そして、設定上出さない、出せない人だった見城がついに出てしまいました。 しかも少し無理やりに(汗) でも、見城のお陰で中々いい感じにまとまった気がします。 書き慣れているからでしょうかね? そう考えると、私の小説は見城が隠し味ですね。 嗚呼・・・私の書く小説に『見城』の二文字が出ないものはないのね・・・(笑) |