命より大切なもの 第八話 後編 |
「グッ!!」 「優影さん!?」 「おや、左胸を狙ったつもりだったんだが・・・当たったのは左腕か。 少々腕が鈍ったかな?」 「ロバート主任か・・・いい腕してるぜ。後ろにいる事なんて全然気付かなかった」 「君が熱心に面白い話をしていたからね。偶々だろう」 「わざと外したくせに」 「ほう、よく分かるね」 ロバートは薄く笑みを浮かべながらそう答えた。 その腕に握られている拳銃は今度こそ彼の心臓を狙っているのだろう。 「優影さん!」 「おっと、貴様も動くなよ。少しでも変な真似をしたら・・・死ぬぞ」 「アルカ・・・。俺は大丈夫だから、絶対に動くなよ」 ロバートは拳銃を1つしか持っていない。 ならば私が動いて銃口が私に向けば、 優影さんならロバートに近づき、拳銃を落す事が出来るだろう。 だがその行動の代償に、私の命が必要だ。 私が例え死んでも、私の身体を保存出来れば問題ない。 だから躊躇する事無く、ロバートは私を撃つだろう。 彼も、それは分かっているはずだ。 そして、そんな行動を彼は取る事が出来ないという事は、私が知っている。 そしてここで彼が動くと彼の命が失われ、私も解体される。 悔しいけど、考えているな・・・。 「君には訊きたい事があるんだよ」 「なにかな?」 「君の目的はなんだ?」 「聞いてどうする」 「諜報部が調査しても貴様の事は殆ど分からなかった。 君はどこか、他の研究員とは別の目的で研究しているように見えた。 だが何を目的にしているかは分からない。それを訊きたくてね」 「俺もあんたに同じ感想を持っているぜ。 あんたも他の奴とはXTORTを違う目的で研究していた」 「ほう、奇遇だな」 「あんたの目的は、『EVE』とか言う第2のアルカを作り出す事だ。 最高機密クラスの事だったので調べるのに苦労したし、分からない事も多いがな」 「そこまで知っていたか。 流石だな、諜報部が君の事を随分と欲しがっていたぞ」 「あんたこそ、本当にただの研究員か?諜報部の方が似合っているぜ」 「ふ・・お互い、職を間違えたな」 「まったくだ」 どんっ! 再び銃声が響く。 「ぐっは・・」 「君には死んでもらう。どうやら本当にどこの国にも属していないようだが・・、 少々、深入りし過ぎたな」 彼は床に倒れた。 彼からは・・・血が・・・流れて・・・。 「優影さん!!」 私は叫んでいた。 人が死ぬのは何度も見てきた。 なのに、なんで?なんで、こんなにも悲しいの? 「ロ・・バートさんよ・・」 「なんだね?」 「・・・アルカと、話をさせてくれないか?」 「良いだろう。急所は外してあるから、まだ暫くは持つだろう。 今生の別れだ。せいぜい思い残す事の無いようにな」 「ありがたいね」 ロバートは、標準を私に変える。妙な真似をしたら殺す、と言いたいのだろう。 私は、優影さんの傍に行った。 「血が・・・」 「そろそろ感覚が無くなってきたな。痛くて泣きそうだったんだけど・・・好都合だ」 「・・・なないで」 「ん?」 「私はどうなってもいいから、あなたは死なないで」 「嬉しい言葉だが、その言葉はアルカに返す。 ・・・悪いな。俺はアルカの望みを叶えてやりたかったんだけど、それは無理だ。 俺は全知でも全能でも無い、ただの人間だからな」 優影さんは私の髪を優しく撫でてくれた。 「そんな悲しそうな顔をするな・・・。可愛い顔が台無しだぞ」 「こんなときまで、そんな事言って・・・バカ・・・」 「ああ、俺は・・・バカだよ」 「・・アルカ、自分を見失うなよ。自分から逃げちゃダメだ。 人はいつか死ぬ。それは絶対だ。それでも、人は生きている・・。 何かを残したいから、幸せになりたいから、とか理由は色々だけどな。 ・・今まで、自分が人を犠牲にしてきたから、自分は幸せになる事は出来ないなんて、 悲しい事を思うなよ。俺は家族を失った、そして悲しかった・・。 俺はそんな悲しい思いをしている奴を見たくない。どんな奴でも幸せになる権利がある。 お前が・・例え一度死んでいてもだ。 ・・命より・・大切なものなんて・・な・・」 「分かったから・・分かったから、もう喋らないで・・」 「アルカ、お前と・・一緒にいたこの一週間・・・楽しかった・・よ・・・」 「そろそろ、楽にしてやろう」 ロバートは、銃口を優影さんに向けた。 「お願いだから止めて!」 私は、優影さんとロバートの間に立った。 優影さんを・・・失いたくはなかったから。 「邪魔だっ」 ロバートは私を突き飛ばした。私は壁に思いっきり背中を打ちつけられ。そして・・、 「七瀬、君は優秀な人材だったのだが・・・」 「――――――――ッッ!!」 声にならない声が響く。そして・・・。 「さよならだ」 続く |