命より大切なもの 第九話 前編


・・・あれから、丸一日くらい経った。
彼が心臓を撃たれ、死んでから・・・。

その後、数人の男が来て、彼が袋詰めにされているのを見た。
そしてロバートが、「海に捨てろ」とか言っていたかな。

私は・・・何も出来なかった・・・。

私は、解体される予定だった。
だが彼が死んだ事の影響で、明日にまで予定は延ばされていた。
今日は、何の実験も無かった。

静か。
とても静かだ。
まるで何事も無かったように。
・・・何も考えれない。考えたく無い。
だが、私は結論を出さないといけない。私が死ぬまでに。
いや・・私の身体は生かされる。
死ぬのは、私の精神・・・それだけだ。

私を待つのは、絶対的な死だ。考えても無駄かも知れない。
それどころか、死ぬのが余計に苦痛になる結論が出るかも知れない。
でも・・・、

 『自分から逃げちゃダメだ』

彼に・・・そう言われた。
だから、私は結論を出したいと思う。
私は誰なのか、そしてどうしたいのか・・を。

私は、一度死んだ。
そして無理やり蘇生させられた。
無理やり蘇生させられた私は、母と身体を共有し、母の知識と記憶がある私は、
本当にアルカなのだろうか?

記憶と知識は人格を作るものだ。
私という人格は、アルカ・ノバルティスと榊原素子の知識と記憶を持った、
どちらでも無い、どちらにもなれない、不完全な人格ではないだろうか。

 『君はアルカだ。
  君自身がそう思い、
  君の事をアルカと呼んでくれる人が1人でもいるのなら、
  君はアルカ・ノバルティスだ!!』

・・じゃあ、私は、アルカではないな。
私をアルカとして見てくれる人は、もう1人もいないのだから。

私は、なぜ生きているのだろう。

 『何かを残したいから、幸せになりたいから、とか理由は色々だけどな』

私が生きている理由は、何かを残したいから?幸せになりたいから?
幸せになりたいとは思っていない。幸せになんかなれないと思っていたから。
では何かを残したかった?
何か・・XTORT。

確かに、XTORTの為に多くの犠牲を払った。
多くの犠牲とは、私も含まれる。
私が生きる目的は、XTORTを残したかったから?・・例え、自分を犠牲にしても。

 『XTORTのために犠牲になってもいいと思っているなら、そんな眼はしないはずだ。
  お前の中にはXTORTしか無い。
  だが、それはXTORTとしての意思だけだ。
  お前の中の13歳のただの女の子でしかないアルカは、
  苦しくて、悲しくて仕方が無いんじゃないのか!?』

私にはXTORTしか無いと、そう言われた事がある。

XTORT以外の何も無い状態の私が、本当の私?

 『君は自分を見失っている。
  そして君は、怖いんだ。XTORT以外には何も無いから。
  その何も無い自分を、認めるのが怖いんだ』

・・そうなのかも知れない。

 『・・XTORTは君の犠牲を必要としているし、君もそれを認めている。
  だが、ただの女の子のアルカは、本当にそれを認めているのか?

  XTORTに囚われず、アルカ自身として、このまま犠牲になって、本当にそれで満足か?
  XTORTじゃない本当のアルカは、どう感じ、どう思っている?』

ただの女の子、本当のアルカ・・か。
分からない。自分の事なのにな・・。

XTORTは科学の進歩、そして科学の進歩は人の進歩にも繋がる。
進歩し続ける科学に対して、私達は変わっていない。
人は、変わっていかねばならないと、私は考える。

 『人はな、人類全体の事を考えられるほど強くないと思う。
  でも1つくらいなら、守る事が出来る。
  何が大切か、そして何を守りたいか、それは人それぞれだ。
  自分が守りたいものを1人1人が守っていけば、
  そうすれば結果的にみんな守れるんじゃないか?
  人1人の犠牲ではなく、全ての人が1つづつ何かを守っていけば、それで良いんじゃないか』

・・・私の考えは、間違っているの?

人類全体の事なんか考えられる程、人は強くないと彼は言った。
私の考えは、人が変わらなければならないというもの。つまり、全体の事。
人は、全体をどうにかする事は出来ない。

人に出来るのは、大切な何かを守る事くらい・・・か。

 『俺が守りたいものはアルカだ。だから俺はアルカを守る。
  アルカが望む未来を手助けがしたい。
  例え第2のアルカが出ても、誰かがそいつを守ってくれる。誰かが幸せにしてくれるはずだ』

彼は私を守りたいと・・・言ってくれた。

私も、何かを守りたいと思えるのだろうか?

何かを守りたくなったら、私は私だと、そう言えるのだろうか?

私は、本当にXTORTではないのだろうか?

自分をXTORTじゃないと言えるのだろうか?

私は、アルカ・ノバルティスなのだろうか?

私は誰だ?

何をしたいんだろう?

私は・・・。

私は・・・・。

・・・何も分からない。

分からないよ・・・優影さん・・・・。

続く



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