命より大切なもの 第八話 前編


優影は歩いていた。

夜、いつも通っていたあの場所へ。

自分の為以外に行動したいと、初めて思わせてくれた少女の元へ。

そして・・・。

 「お、知った顔」

いつもは警備がいる場所には、警備の人間はいなかった。
代わりに、1人の男が立っていた。

 「・・・」

 「相変わらず無口だな。
  俺を殺しに来た時も、一言二言くらいしか喋ってなかったし」

そう、こいつは昨日俺を殺しに来た2人組の1人だ。
俺が甘いと、そう言っていた方だな。
最初はまた俺を殺しに来たのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。

 「・・・」

 「お仲間は元気か?」

 「・・・貴様」

 「ん?」

 「なぜ、この道を進む。
  警備がいない事、そしてロバートがなぜお前がいるのに
  なぜあの少女の解体話をしたか、分からない訳ではないだろう?」

 「・・・」

 「なぜだ?」

 「逆に訊くが、なぜそんな事を訊きたがる?」

 「俺は、貴様を2年間ずっと張ってきた。
  だが、貴様の事は何一つ分からん」

 「やっぱあんたか。俺をずっと張っていた諜報部員って」

 「分かっているのは、
  貴様が無茶苦茶で、甘くて、予想外の行動ばかりする人物だという事くらいだ」

 「なんだ、全部分かっているじゃん」

 優影は前に進む、その先へ行く為に。

男は動かない。

そして男の隣に来た時、優影は立ち止まった。
隣合って、それぞれ180度違う方向を向いた状態で・・・。

 「罠かも知れないのは百も承知さ。
  でも明日、アルカが解体されるのも事実。
  だから、俺はどんなに危険でも今日、俺はアルカに答えを聞かないといけない」

 「なぜそこまでする。同情か?それとも愛情か?」

 「さあ。俺もそれが分からないんだ。
  ・・ただ、初めて他人の為に命を懸けてもいいと思った。だから俺は行く。この道を」

 「その先にはあるのは死、でもか?」

 「それは行ってみないと分からない」

 「・・・貴様の事は理解出来ん」

 「俺も、お前がなんでそんな事訊くのか分からない。俺の事を殺しに来た男が」

 「さあな、俺も分からん」

 「・・じゃあ、俺は行く。
  出来れば、名前を教えてくれると嬉しい」

 「貴様に名乗る筋合いは無い」

 「連れない奴・・。
  ・・・じゃあな、ブレード♪」

 「な!?貴様、なぜその名を!?」

 「俺も伊達に、2年間張られていないんだぜ」

そう言って、優影は振り向かずに先ヘと進んで行った。

ブレードも、振り返らない。

 「七瀬・・・。変な男だ」

誰もいない廊下でブレードの声だけが、辺りに響いた。

     * * * *

トントン

ドアをノックする音が聴こえる。
この部屋に来る人なんか、1人しかいない。

 「アルカ、入ってもいいか?」

やっぱりだ。

 「・・どうぞ」

私がそう言うと、彼は入ってくる。
いつもなら晩御飯を持ってくる彼だが、今日は何も持っていない。

 「悪いな。晩御飯、作ってくる暇が無かった。
  ・・というか、俺はしばらくここには来ないつもりだった。
  アルカの考えがまとまるまでは」

 「じゃあ、なぜここに来たの?」

 「明日、アルカは解体される」

 「・・そう。
  当然と言えば当然の行動ね。今までそうされなかったのが不思議なくらい」

 「・・結論は出たか?」

 「・・・・・・・・。

  ・・・1つ、訊いていい?」

 「どうぞ」

 「私が生きたいと言ったら、あなたはどうするの?」

 「そうだな・・。ここにいたらどう転んでもアルカは死ぬだろうからな。
  アルカを連れて逃げる」

 「なぜ・・、そこまでしてくれるの?」

 「今日はその事を訊く奴が多いな」

 「どうして?」

 「アルカを救いたいと思うから。ただ、それだけだ」

 「・・・」

 「今度は俺から質問。いいか?」

 「・・どうぞ」

 「アルカと同じ思いをする奴を増やしたいか?」

 「どうして、そんな事を訊くの?」

 「これはまだ完全には確認出来ていないんだが・・。
  今この国では、XTORTを応用して第2のアルカを作ろうとしている。
  それが事実なのか分からない。だが事実だとしたら・・・それは悲しい事だ」

 「だから、この国ではもうXTORTを研究してはいけない・・って言うつもり?
  例え逃げても変わらないわ。どこの国でも、同じような事が起こる」

 「そうだな。だが、俺は全知でも無いし全能でも無い、ただの人間だ。
  誰も彼も救う事なんか出来ない。
  これからも犠牲は出てくるだろう。今、XTORTの研究を止めさせる事に成功しても」

 「人はな、人類全体の事を考えられるほど強くないと思う。
  でも1つくらいなら、守る事が出来る。
  何が大切か、そして何を守りたいか、それは人それぞれだ。
  自分が守りたいものを1人1人が守っていけば、
  そうすれば結果的にみんな守れるんじゃないか?
  人1人の犠牲ではなく、全ての人が1つづつ何かを守っていけば、それで良いんじゃないか」

 「・・・」

 「俺が守りたいものはアルカだ。だから俺はアルカを守る。
  アルカが望む未来を手助けがしたい。
  例え第2のアルカが出ても、誰かがそいつを守ってくれる。誰かが幸せにしてくれるはずだ」

 「・・随分と子供じみた甘い考えね」

 「ああ・・・言ってて恥ずかしくなって来た。
  確かに、俺は子供っぽい考えの未熟な男だ。
  後数年くらいしたらもう少しマシになっているかも知れない。
  でも、俺は今生きている。未熟で子供じみた甘い考えでな。
  未熟なら、未熟なりに、未熟のままで、今をどうにかしないといけないと、俺は思う」

 「その通りだな」

 「!?」

不意に、私でも彼でもない声が聴こえると同時に、
ひどく大きな音が聴こえた。

この音は・・・・銃声!?

続く



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